『小澤一郎の育成指導をさぐる旅』 第1回 新座片山FC少年団 川原嘉雄代表

2012年12月03日

コラム

表面的には見えてこない
新座片山の実態

「鬼平」こと、川原代表は今でも容赦なく子どもにげんこつを見舞う。本人は過去にJFAや埼玉県サッカー協会から数回指導を受け、謝罪文提出の経験を持つ。ベンチ入り禁止も半年、1年が1回ずつ。さらには、所属する選手の保護者から告訴されそうになったこともある。にもかかわらず、全くブレることなく、げんこつスタイルを捨てない背景に、げんこつは「子どものため」を思った”愛のムチ”であるという信念を持っているからだ。

実際、「私は嫌われる存在でいいと思っています」と川原代表は開き直りというより自信に満ちた様子で断言したうえで、こう続けた。「よくうちのコーチたちにも言うのですが、『別に好かれる必要はないんだ』と。子どもを褒めていれば『いい監督』、『いい指導者』と簡単に評価してもらえる。でも、われわれは怒りながら、保護者から『うちの子にげんこつするなんて頭にくる』と文句や批判を言われながらも、子どもを練習や試合に送り出してもらえる指導者を目指しています」

私自身、どれだけ効果があり、愛があったとしても子どもに手を出すげんこつ制裁には賛同できない。ただ、本気で子どもたちと向き合い、時に凄みを利かせて彼らのメンタルを根本的に強く変えていく指導者としての気概と迫力には最大限の敬意を払いたい。また、悪い評判が先行する新座片山にも評価すべき要素はたくさんある。例えば、セレクションは一切行わず、日本一を獲っても「来るもの拒まず、去る者追わず」の方針を貫いている。川原代表は「うちは太った子でも、足の遅い子でも、小さい子でも同じように試合出場ができます。『泣き虫、弱虫、全員集合』と謳っていますし、泣き虫も弱虫もみんな強くしてみせます」とフルオープンの姿勢だ。特に厳しい指導に移る高学年以降は、その方針にあわず辞めていく子どももいて、自動的にふるいがかけられている。

厳しい指導法についても、「怒られるから、言われたことしかやらなくなる傾向はあります」とその弊害を認識したうえで、頭ごなしに選手の判断を奪うような指示ではなく、選手に選択できる余地を残すコーチングがクラブ内で推奨されている。さらに、コーチは基本クラブOBではなく外部から招聘し、指導観の多様性を確保するように努めている。町クラブでありながらジュニアユースのチームを持たないのも、一学年30人、40人集まって経営的なドル箱になることが、逆に所属する選手に平等な試合機会を与えることができなくなると考えているから。新座片山にはベンチを温めるような選手は存在せず、チーム分けがあったとしても必ず同じ試合数をこなす配慮がなされるなど、その実態は真に「子どものため、サッカーのため」を思ったクラブ運営なのだ。

川原代表と直接会って話を聞いたことで、新座片山に持っていたイメージの大部分の誤解は解けた。こうした指導理念やクラブ運営を目の当たりにすれば、怒る指導やげんこつ制裁の表面的な一場面だけを切り取って新座片山というクラブを批判することはできない。

と同時に、今回の単発の取材だけで新座片山の指導法のすべても肯定しない。やはり厳しい指導とフィジカル重視のサッカースタイルの強度があまりにも高すぎるあまり、ゴールデンエイジのこの年代で最も重要な実戦で活きるスキルの習得機会や判断力を向上させるための自主性を奪う弊害はあるように感じるからだ。

だからこそ、今回の取材を旅の入り口として新座片山FCという町クラブを追いかける旅を、この連載開始と同時並行でスタートさせたいと考えている。

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