プロフットボーラーの家族の肖像『久保竜彦 ~本気で向き合うということ~』
2013年07月03日
インタビュー
■本音を見抜く力
妹の杏夏が負けず嫌いの一方で、姉の柚季は勝ち負けに執着が少ない。負けて泣くことはあっても、一人でこっそりと泣いている。しかも5分後には、もうけろりとしている。もっとも柚季は、テニス自体に興味が持てていなかったのかもしれない。親の目からみても、その頃はあまり熱心にテニスに取り組んでいるようには見えなかった。無理にやらされているような、嫌々やっているような感じが見受けられた。それが証拠に、次の試合のスケジュールをわかっていないことがあった。
そこで何度か、夫婦で本人に意志を確認してみたのだった。「テニスとサッカーとどっちがやりたい?」娘の返答は、なんとなく歯切れが悪い。そこで、自由に選んでいいと促した。「本当に好きな方を選んでいいんだよ」結局その時は、テニスを続けることになった。しかし今にして思うと、娘なりに気を使っていたのがわかる。父は語る。
「子どもってカンがいいのか、『なんでも自由に言っていい』というと本当のことは言わないです。親が本音で言っていると思ってないです。むしろ昔、ボソッと言ったことの方を、本当だと思っています」
娘は、以前に夫婦でテニスについてボソボソ話していたことを、覚えていたようなのだ。
―――今まで5年もやっていたのに、もったいないわねえ。
そうだなあ。―――
何気ない夫婦の会話だったのだが、娘はしっかりと覚えていた。
「そういう親の本音を聞いています。本音と建前をちゃんとわかって聞いているんですよ。そういうもんなんです、子どもって」
母が付け加える。「何回も確かめたんです、嫌だったら本当に辞めていいんだよって。でも、楽しいっていうんですよ。子どもながらに、自分が辞めたら困る人が出てくるんじゃないか。お父さんお母さんが悲しむんじゃないか。そう察したんじゃないでしょうか」
父も同意する。「やっぱりどこか、やらせてたんだなあと。きっと本人は抑えていたんだと思います。娘なりに、期待を感じていたのかもしれません」
子どもは、親の顔色をうかがうものだ。子どもは正直だからといって、その言葉を鵜呑みにするのは、大人の傲慢というものかもしれない。子どもとまっすぐに向き合うこと。それは思っている以上に難しいことだろう。でもそれは久保の云う通り、最も大切なことなのだろう。
勝負の世界に、身を投じた男たちの“父親としての声”
“サッカーを通じた子育て論”を凝縮
7月9日発売
著者:いとうやまね/発行:株式会社カンゼン
[収録]久保竜彦(廿日市サッカークラブ)/城福浩(ヴァンフォーレ甲府監督)/宮澤ミシェル(サッカー解説者)/水沼貴史(サッカー解説者)/福西崇史(サッカー解説者)/石川直宏(FC東京)/原博実(日本サッカー協会技術委員長)
※ご購入はジュニサカオンラインショップまで!
久保竜彦(くぼ・たつひこ)
1976年6月18日福岡県生まれ。日本人ばなれした身体能力と、左足の豪快なキック、意表をついたプレーが魅力のストライカーだった。1995年サンフレッチェ広島でプロキャリアをスタートさせ、その後、各クラブで数々の名シーンを残し、2012年4月に現役引退。廿日市サッカークラブでコーチを務めていたが、今年3月、広島社会人サッカーリーグ1部に所属する廿日市FCで現役復帰した。ふたりのスポーツ少女の良き父親でもある。
[Data]
■ 所属
95~02年 サンフレッチェ広島
03~06年 横浜F・マリノス
07年 横浜FC
08~09年 サンフレッチェ広島
10~11年 ツエーゲン金沢
13年~ 廿日市FC
■ 通算試合/通算ゴール数
J1リーグ通算(95年~09年) 301試合出場/97得点
JFL通算(10~11年) 50試合出場/15得点
日本代表国際Aマッチ(98年~06年) 32試合出場/11得点
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