畑喜美夫×幸野健一 両氏が語る、いまサッカー界の育成に必要なこと -“選手が主役”の指導法「ボトムアップ理論」が子どもの自立を促す!-(後編)

2013年10月09日

コラム

日本の育成が抱えるオーバートレーニングの問題

――畑先生のボトムアップ指導の特徴として、週2~3回のトレーニングが挙げられると思います。

畑氏 全体練習が少ないということは、「それならばどうしようか?」と考えることにつながります。要するに、考える場面をたくさん作るということが週2回練習のポイントです。全体練習はもちろん大切ですが、週2回の練習で足りないところを週3回のフリーの時間にどのように構築していくのかという構成力を身に付けさせることが狙いです。ですから、実は週3回のフリーの時に秘密があって、子どもたちは自分たちの足りないところを2冊のノート(サッカーノートとコミュニケーションノート)に書いてトレーニングします。そこにその子が一番必要としているトレーニングが見えてくるわけです。秘密の玉手箱ではないですが、子どもたちの悩みがフリーの時の自主トレの中、つまり日常生活の過ごし方やコーディネートの仕方といったサッカー以外のところで見えてくる場面があるので、それが全体練習を少なくしている理由でもあります。ただ、週2回の練習でも心拍数180近い脈拍トレーニングを2時間やるわけですから、普通に練習するよりは質の高い練習になっていると思います。広島観音時代も週3回の全体練習で日本チャンピオンになり、その後週2回に減らしても5年間ずっとタイトルを獲り続けたわけですから、全体練習が週3回か2回かというよりもいかに空いている時間を自分たちで自主的に考え、チームとして、個人として動くかが重要だと思います。

―しかも、週2回の練習であの国見高校に走り負けなかったというのは驚愕の事実です。

畑氏 走力的にパワーのある九州に行ってどこまでできるかを試しましたが、これが結構通用しました。小嶺先生の国見高校に行かせてもらいましたし、最後は向こうから来てくれるようになりました。週2回の練習でも走り負けないのがわかると、子どもたちが自信を持って「練習の量より質」と言うようになりました。なぜ全体練習が週2回なのかをしっかりと理解させた上で、1週間をコーディネートしていく。それがボトムアップのすごく良いところだと思います。やはり、人に言われてやるよりは、筋トレも走りもそうですけど、自分で自主的にやる方が3倍付くと私は考えています。

―幸野さんは常日頃、日本の育成年代にオフがないこと、オーバートレーニング気味な現状に警鐘を鳴らされています。

幸野氏 日本の場合はずっと80パーセントぐらいオンの状態が続いていてオンとオフのメリハリがない。それはある意味、日本の文化であり、昔は長時間働くことが美徳でしたが、サッカーやビジネスにおいても今はマイナスに働いています。特にサッカーの場合、試合時間が90分なのに、その時間を超えて練習するということは100パーセントの状態で練習できていないことを意味します。100パーセントの力で練習に取り組めば、2時間以上はできないわけです。畑先生の脈拍トレーニングは180~200ぐらいの心拍数に設定されていますが、通常は160~180ぐらいの心拍数の中で、特に中学生の15歳ぐらいまでの血管、神経系が完成する年代においてはその心拍数設定で練習をやることによって血管が太くなります。逆に、その年代で練習をやりすぎると怪我の問題がでてきます。日本の問題は、オフがないということに尽きます。欧州の育成年代では、7、8歳から年間のリーグ戦が始まり、必ず1カ月半のオフシーズンがあります。オフがない日本の問題は何もサッカーだけではなく、サラリーマンのサービス残業などにもあてはまります。彼らは夜9時、10時まで働いている割に、午前中に喫茶店でお茶を飲んで休んでいたりします。長時間練習するから上手くなるという考え方をそろそろ改め直して、特に育成年代においてはサッカー以外の時間に勉強や恋愛をし、友達と遊ぶことで感受性豊かなバランスの良い人間形成に繋がります。まだまだサッカーをやりすぎる弊害が大きいと思います。

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