優秀な『ストライカー』の定義とは。日本の指導に足りない「勝負へのこだわり」

2017年06月27日

コラム

昨今の指導者は知識が豊富になり、指導力が上がったがゆえに幅広くなんでもやれる選手を育てる傾向にある。しかし、それがストライカーの育つ環境を減らしている原因の一つにもなっている。一体ストライカーはどんな技術が必要で、どんなメンタリティを身につけなければならないのか。元日本代表でサッカー解説者の城彰二氏のストライカー論を『ジュニアサッカーを応援しよう!Vol.45』より紹介する。

(構成●木之下潤 写真●Getty Images)

『ジュニアサッカーを応援しよう!Vol.45』より転載


ストライカーに必要なものとは

GIJON, SPAIN - AUGUST 23: Cristiano Ronaldo of Real Madrid shoots on goal past Alberto Lora of Sporting Gijon during the La Liga match between Sporting Gijon and Real Madrid CF at Estadio El Molinon on August 23, 2015 in Gijon, Spain. (Photo by Angel Martinez/Real Madrid via Getty Images)

――城さんにとってストライカーの定義はどんなものでしょうか?

 ゴールを奪える得点能力の高い選手、そしてチームの中心選手であることが私にとってのストライカーの定義です。誰よりも確率よく得点できるのがエースストライカーだと認識しています。

――現在の日本ではストライカーが育ちにくいと言われていますが。

 現在ではサッカーそのものが変わってきていて、ストライカーに求められるものが変わってきています。FWにも守備やパスの能力を要求しているので、そこが育たなくなった原因でもあるのかなと感じています。昔は大雑把にFW、MF、DFと役割が大きく三分割されていました。でも、今はその境界線がなくなってきています。

 ただ世界に目を向けると、点を取れる選手が中央に一枚いるのが常識です。日本はそこが違うような気がしています。個人的な意見ですが、高原直泰選手(現沖縄SV)がエコノミー症候群を発症したあたりから代表でのストライカー像が変わったように思います。ゼロトップというか、中盤がフレキシブルに前線に飛び出していくような攻撃に…苦肉の策だったのでしょうが、ごまかした感じがありました。

――ご自身はストライカーとしてどんな指導を受けてきたのですか?

 小さい頃からずっとFWをやっていて自分のストライカー像を持っていました。人それぞれ違うものですが、それでも“点を取る”のは共通です。私はとことんポストプレーをさせられ、中学生からはヘディングを徹底的に鍛えられました。他の選手とは別メニューで練習していました。当時の監督がヘディングだとゴールの確率が高いことを見抜いていたんでしょうね。

――代表として世界と戦い、スペインでも活躍されています。「この選手はすごい」と思ったストライカーはいましたか?

 私たち世代だと、バティストゥータやロナウドは別格でした。ロナウドはドリブル、シュート、ヘディング、何でもできました。バティストゥータは典型的なストライカーです。ボールを受けたら9割ぐらいの確率でゴールの枠内に飛ばしました。

MUNICH, GERMANY - JUNE 18:  Ronaldo of Brazil has a shot on goal as Craig Moore of Australia tries to block during the FIFA World Cup Germany 2006 Group F match between Brazil and  Australia at the Stadium Munich on June 18, 2006 in Munich, Germany.  (Photo by Phil Cole/Getty Images)
【抜群のシュート技術を誇った元ブラジル代表“怪物”ロナウド。(写真右)】

――枠内に蹴る技術は大切です。

 ストライカーも他のポジションの選手と同じで経験だと思うんです。昔、釜本さんに直接聞いたことがあります。釜本ゾーンと言われた“左45 度”も徹底的に練習をしたそうです。あわせて、その得意な角度にどう持ち込むかが重要だと話をされていました。

 私もヘディングには絶対的な自信を持っていましたし、徹底的な反復練習の中でその状況を作るにはどうすればいいのかを考え続けた結果、プロにまでなれたのだと思います。

 最近の指導者は知識が豊富で優秀だから多くのことを教えたがります。ストライカーが減ったのもそこに原因の一つがあるのではないでしょうか。まんべんなく様々なことを指導してオールラウンドな選手は増えた代わりにストライカーのような専門職が減りました。私はもっと長所をとことん伸ばす指導をしてもいいと考えています。

 一昔前は長所ばかり伸ばしてしまって秀でたものはあったけど、平均値としてのバランスは悪かった。でも、今はバランスよく伸ばすノウハウはあるはずだから特化したものを伸ばし、そこからサッカー選手としてのベースとなるものを身につけさせたらいいと思います。

――育成指導において日本と世界ではトレーニングに違いはあるんでしょうか?

 欧州の指導者は基本的に教えないんです。例えば、中盤からFWにパスが出てコントロールシュートという練習があるとします。日本では、まずもらう前にワンフェイントを入れてからボールを受けて、こういうところにコントロールしてシュートみたいなことを細かく伝えます。

 でも、欧州は練習内容は伝えるけど、その中の方法は言いません。選手それぞれが発想と感覚でシュートを打ちますし、指導者もそこを大事にしています。

 一度、メッシに日本で出版されているサッカーのトレーニング本を見せたことがあるんです。そうしたら『日本人はロボットなの?』と口にしました。こんな風にボールを蹴れたらロボットでいいと。その発想がおもしろいですよね。

 私も『ヘディングはこの部分を使うんだ』と教えられましたが、ほとんどそこを使ったことはありません。体勢は正面ではないし、頭のいろいろな部分を使います。日本人は『基本はこうです』と作りたがりますが、試合中には基本以外のことがたくさんあります。

 決められた練習の中で決められた発想で技術を習得してしまうから試合中に対応できないことが多いんです。スペインでも育成年代の練習を見ていますが、日本のように型にはめた指導は行いません。

――全く違いますね。スペインにも様々なタイプのストライカーがいたと思います。どんなタイプがいましたか?

 一つは、ボールがキープできて反転してシュートを打つような日本代表で言えば大迫勇也のような選手です。あとは、ドリブルを仕掛けて自分で打開してゴールするメッシのような選手。他は、ターゲットになってヘディングができるような大柄なタイプです。大きく3つぐらいのタイプに分けられるのではないでしょうか。

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