判断は“頭”でするものではなく“感情”でするもの。元フットサル日本代表監督の言葉から紡ぐ「すべてを出し切る指導」の真意
2017年11月15日
コラム2016年2月までフットサル日本代表監督として、日本サッカー・フットサルに様々な功績を残してきたミゲル・ロドリゴ。彼はジュニサカ本誌でも連載を行っており、育成年代にたずさわるコーチたちに提言や助言をしてくれた。そこで、「引き出す指導」をテーマに過去の取材ノートからミゲルの言葉をつむぎたい。
【連載】ミゲル・ロドリゴが教えてくれた「才能を引き出す」11の魔法
企画・取材・文●木之下潤 写真●松岡健三郎、村井詩都、Getty Images
金の卵である子どもたちに感情を出させるのが大事
本誌では2016年秋号まで、現フットサルベトナム代表監督を務めるミゲル・ロドリゴが連載を行っていた。その中では、フットサルがサッカーをプレーする育成年代の選手たちに大きく貢献できること、そして、選手は金の卵だから発見して磨くことが大事だと何度もうったえてきた。
そこで今企画では、彼が得意とする「引き出す指導」を過去の取材で発した言葉をつむぎながらジュニア年代の指導者に育成哲学や指導法を提示したい。まず、ミゲルは日本の育成年代に関わる指導者たちにこのように語りかけていた。
「私が育成年代にたずさわる指導者にもっと深く追求してもらいたいのは『任務がなんなのか』ということです。私たちは金の卵を育てていると認識すべきなのです。流れている川の中からどれだけの金をすくい上げられるのか。『金だ』と思うものを見つけてすくい上げ、きれいに洗い流して金を発見し磨き上げるまでが指導者の仕事です。それが光り輝く金のタレントたちです。その中にはテクニックや戦術、リーダーシップなど様々な形のものがあるのです。だから、どんな指導者も考えるべきは『子どもの持つ才能を引き出す方法』なのです」
彼はみんなが光り輝く個性(才能)を持っていて、それぞれの子の個性を発見して丁寧に磨き上げることが重要だといつも説いていた。2016年2月にフットサル日本代表監督を退任したが、日本にいる間、ミゲルは講師としてFリーグの監督などに指導を行っている。FIFAのフットサルインストラクターの資格を保持する彼の知識は多岐に渡る。オフには心理学、社会学などいろいろな本を読んでいるそうだ。ある取材で、こんな質問をしてきた。
「人の判断で一番左右するものは何だと思いますか。神経系の新しい研究結果によると、人の判断で一番左右するものは“感情”だという結果が出たらしいのです。これまでは誰もが『判断は頭でするものだ』と教えられてきましたが、実は感情で決めているのがわかってきたらしいのです。これは今世紀最大の発見だと言われています。ようするに、感情が決断を導くのです」
別の取材で、ある脳科学の先生から「最終的な決断は感情で決めている」とまったく同じことを聞かされていたので、ミゲルの言葉を耳にした時は驚いた。何より指導に対するアプローチの奥深さに驚嘆した。続けてミゲルはこのような言葉を並べた。
「サッカーは判断が大事だとうたっているので、子どもたちがいいプレーをするには『いかに強い感情を抱くか』が大事です。だから、指導者は子どもに『パッション』、つまり『サッカーへの情熱』を出させることが上達の大きな鍵を握っているのです」
この話をしてくれたとき、ミゲルは「日本の子どもは喜怒哀楽を素直に出さずにいます」といい、日本の指導者たちに苦言とともに具体的なアドバイスをしてくれた。
「サッカーの上達には学びが必要だし、同時に失敗はつきものです。来日した頃よりよくなっていますが、ジュニア年代の指導法を見ていると、ミスの修正方法を自分のものにできていない指導者がまだたくさんいると感じます。選手からすると、ミスだけが強調される形になり、『ミスをしてはダメだ』と間違った観念にとらわれてしまいがちになります。
だから、逆転の発想を持ち、成功したことを褒めてやる気にさせてはどうでしょうか。その方が子どもたちのモチベーションは絶対に上がります。『子どもたちが学べる一番の方法は常にポジティブな感情を抱くことだ』と、最近読んだ本で見つけました。もちろん大人へと成長するにつれて怒られることが必要です。なぜなら怒られたことを受け入れることで落ち着いてその理由を考え、自らの糧にできるようになるからです」
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