「サッカー選手になれないなら医者になる」。成績”ほぼオール5″の武藤嘉紀が実践した文武両道

2018年06月28日

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今日、日本代表は決勝トーナメント進出をかけてポーランド戦と対戦します。FWとしてスタメンが濃厚な武藤嘉紀選手(バディSC/FC東京U-15深川/FC東京U-18/慶應義塾大学)は中学時代、毎日サッカーに励みながらも「オール5」という優秀な成績を残していました。どのようにして”文武両道”を実践していたのか、武藤選手をよく知る右田聡コーチ(現FC東京U-18コーチ)の話に耳を傾けます。

※取材年2015年

取材・文●鈴木康浩 写真●Getty Images

『ジュニアサッカーを応援しよう!Vol.35』より一部転載


INNSBRUCK, AUSTRIA - JUNE 12:  Yoshinori Muto of Japan goes past Alan Benitez of Paraguay during the international friendly match between Japan and Paraguay at Tivoli Stadion on June 12, 2018 in Innsbruck, Austria.  (Photo by Masahiro Ura/Getty Images)

成績はほぼ「オール5」

 武藤選手は小学生のときバディSC(東京都)で過ごし、その後FC東京U-15深川、FC東京U-18、慶應義塾大学という道のりでサッカーに励んできた。彼がたどった進路で特筆すべきは高校受験のとき。中学時代はFC東京U-15深川でサッカーに励みながらも、勉強では群を抜いて成績優秀者に名前を並べる存在。ほぼオール5という評定平均値の高さで見事に難関の慶應義塾高校へ進学を決めている。

「武藤は目標がしっかりしていて、サッカーだけがすべてではなく、勉強もしっかりやるという考えでした。おそらく家庭のしつけもあったと思いますが、将来へのビジョンが中学生にして非常に高いものがありましたね」

 そう話すのは、武藤選手がFC東京U-15深川に在籍していたときに指導し、彼の素顔をよく知る右田聡コーチ(現FC東京U-18コーチ)だ。

「FC東京U-15では中学3年生になると『もしFC東京U-18へ進めない場合はどの高校へ進むべきか?』といった内容の面談を必ず行うんです。ほとんどの選手たちが中学3年生の夏頃に高校の進路についてぼんやり考え始めるものなのですが、武藤だけは中学2年生が終わるころにはすでに明確な目標が定まっていて驚かされたことを覚えています。彼は『プロサッカー選手になれないのならば医者になる』と決めていて『もしもFC東京U-18に進めない場合は慶應義塾高校か早稲田実業高校へ進む』などと具体的な高校名まで挙げて将来を思い描いていたんです」

夜中の1時か2時頃まで毎日勉強していた

 武藤選手はこののちに慶應義塾高校へ進学するが、同時にFC東京U-18への昇格も果たしている。つまり、勉強も、サッカーも、高いレベルで両立させてしまったのだ。彼が日頃の生活を高い意識で過ごしていた賜物だろう。

「FC東京U-15でも勉学は優先させているので、たとえば、中学校の定期テストがあるときは、選手たちから練習を休みたい旨の申請がある場合すべて認めているんです。だからほとんどの選手たちが一週間近く休みをとるのですが、武藤だけは多くて2日、ほぼ1日だけ休んで、いつもどおりサッカーに励んでいました。

 これは武藤の両親に聞いた話なのですが、毎日サッカーが終わるのが21時頃、帰宅してご飯を食べて、お風呂に入ると23時半、それから夜中の1時か2時頃まで毎日勉強を頑張っていたんだそうです。普段から自らを律して勉強を頑張っているからこそ、大好きなサッカーの時間を削らないで済んだとも言えますよね」

 右田コーチは当時の武藤選手をとりまく周りの様子をこう振り返る。

「武藤の学年は、こちらが何も言わなくても勉強への意識が非常に高かったんです。ある夏合宿のときも、チームのほとんどの選手たちで夜に集まってみんなで勉強をしていたんですよ。武藤がテスト期間中も休まないことはみんなが知っていたので周りも感化されていたのかもしれません。とにかく勉強熱心な学年でしたが、武藤はお調子ものだったため必ずその輪の中心にいる存在でした」

 武藤選手にとって勉強は毎日欠かすことができない大事なものだったが、当時の最大の目標は、やはりプロサッカー選手。ピッチ上では、指導者の指摘にすぐに反応ができる、賢い選手だった。

「指導者が指摘したことに対して『はい!』という反応をするわけではないけれど、しっかり聞いて理解して、それをすぐにプレーで表現できるタイプ。大人が要求していることが瞬間的に察知できる、勘のよい選手だなと感じましたね」

MAINZ, GERMANY - JANUARY 20:  Yoshinori Muto of Mainz celebrates his team's second goal during the Bundesliga match between 1. FSV Mainz 05 and VfB Stuttgart at Opel Arena on January 20, 2018 in Mainz, Germany.  (Photo by Alex Grimm/Bongarts/Getty Images)

武藤は「ほどよく力を抜ける賢さがある」

 右田コーチは当時を振り返りながら、笑みを交えてこう続ける。

「武藤はかなりお調子ものというか、表現は悪いですけど、大人の目を盗むこともできるんですよ。たとえば、練習のなかで僕ら指導陣の目が行き届いていないシーンではうまく力を抜ける。これは悪い意味ではないので誤解してほしくないのですが、走るトレーニングにしても、ここまでやっていればギリギリ怒られないだろう、というラインを自分のなかで引いてうまく力を抜くことができるんです。

 ある合宿のときも、中学生は身体を大きくしない、という目的でご飯を二杯以上食べる、というノルマを課したことがありました。みんなは正直に二杯目をおかわりにいくのですが、武藤は二杯目に行くふりをしていかない(笑)。そういう“うまさ”を見せられるとこちらは何も言えないんですよ(笑)。そういうものはピッチ上での駆け引きにもつながるずる賢さなので、選手としての良さであるとも言えますからね。

 実は、中学生というのは体力的に追い込んでもケガをしにくい時期なので、精神的にも体力的にも厳しいトレーニングを課すことがあるんです。そこで最初から萎えてしまう子どももいるし、逆に120%以上の力を出し尽くし過ぎてしまってダメになってしまう子どももいるんです。

 その点、武藤は、自分がすべては完璧にできないことをよくわかっているので、ほどよく力を抜ける賢さがありました。ここは100%、ここは70%というように勘所を押さえて全体のバランスをうまくとれている。今はそれをサッカーの90分間のなかで力の入れ具合の強弱に使えています。そう考えるときっと勉強の仕方も要領がよかったんでしょうね」

 右田コーチは武藤選手の最大の特徴として、やはり、という感じで“負けず嫌い”であることを挙げた。その精神的な強さがわかる高校時代のエピソードがある。

「FC東京U-18のときの監督が、武藤の将来性を考えてサイドバックにコンバートしようとしたときがありました。経験を積ませて視野を広げたいという狙いがあったんです。でも、武藤は得点に絡みたい意識が非常に強かったようで、その監督に直談判してフォワードとしてチャンスをもらったんです。そして結果を出した。いまでもこの話をその監督が嬉しそうに話してくれます。『今まで直談判してきた選手はほとんどいないよ』と。普通の感覚であれば、直談判して結果が出なかったときのリスクを考えて恐れてしまうもの。でも、武藤はミスを恐れずにトライできる覚悟ができている。そういう姿勢は彼のプレーの思い切りの良さにも出ているのではないでしょうか」

武藤嘉紀選手の中高時代こぼれ話

 武藤選手の父はよくFC東京の深川グラウンドに来て、彼のプレーを撮影していた。チームスタッフがときに不足している動画の提供をお願いするほど熱心だったのだ。その映像を自宅に帰って、父と子で揃って復習するのが日課だった。そうやって自身のプレーの課題を洗い出して、次の練習にぶつけていたのだ。武藤選手は海外の映像もかなり見ているほうでサッカーに触れる時間を意識的にたくさん作っていたようだ。


<プロフィール>
武藤嘉紀(むとう よしのり)

少年時代:バディSC
中学時代:FC東京U-15深川
高校時代:FC東京U-18

1992年7月15日、東京都世田谷区出身。FW及びMF。178cm、72kg。FC東京U-15深川、FC東京U-18で過ごした後、慶應義塾大学へ進学。4回生の今季、FC東京とプロ契約を結び、Jリーグデビュー。ルーキーながら二桁得点を記録すると日本代表にも招集され、今年9月のベネズエラ戦では代表初ゴールを決めて一躍注目を浴びた。


<プロフィール>
右田聡(みぎた さとし)

現FC東京U-18コーチ。武藤選手がFC東京U-15深川に在籍した3年間、間近で成長を見続けた。現在の武藤選手の活躍ぶりに「中学生のときに想定していた以上のスピードで成長している」と驚きを隠さない。

 


 

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