日本に蔓延する「完璧主義」の幻想は子どもの頃から始まっている【サッカー外から学ぶ】

2018年12月13日

メンタル/教育

日本に蔓延する「完璧主義」。ジュニアサッカーの現場でも“目先の結果”だけを追い求める、ミスをした子どもたちに怒号をとばす、そんな指導者は少なくない。常に大人たちは子どもたちに「完璧」を求める。それはサッカーの現場だけに限ったことではない。学校生活でも日常生活でも同じことが言える。こうした日本社会に蔓延している「完璧主義」はどうなくしていけばいいのだろうか?『世界基準の幼稚園 6歳までにリーダーシップは磨かれる』の著者であり、幼稚園「First Classroom」の園長を務める橋井健司氏の言葉から日本で行われている「人間」の教育や育成について考えていく。

【連載】「サッカーを“サッカー外”から学ぶ重要性」

企画・文●大塚一樹 写真●Getty Images、佐藤博之


【序文】今、指導者に何が求められているのか?サッカーを“サッカー外”から学ぶ重要性


日本人の「弱さ」とは?

 橋井さんの著書『世界基準の幼稚園~6歳までにリーダーシップは磨かれる~』は冒頭、自身がビジネスマン時代に経験した「日本人の弱さ」について言及するところからはじまる。グローバルビジネスの現場で主張ができず相づちばかりを繰り返すビジネスマン、英語は話せるのに、外国人相手になるとリーダーシップはおろか対等に話すこともできない企業のトップ……。こうした日本人の「弱さ」に対する違和感と忸怩たる思いが、幼児教育に取り組む際の大きなヒントになったという。

「国際コンベンションのオーガナイザーとして働いていたときに、世界の国々の人たちと比べて日本人には明らかに“弱さ”があったんです。十分な能力を備えている人でも、国際的な場になると途端にリーダーシップがとれなくなる。これは英語の能力やビジネススキル、プレゼンのスキル以前に、意欲や行動力、決断力や責任感、コミュニケーション能力と言った根本的な“人間力”の差から来ているのではないかと思ったんです」

「人間力」を育むためには、0歳から6歳までの「人格形成期」が重要なのではないか?橋井さんは、一生を決める幼児期に欧米と日本の差を見出し、独自の理論で幼児教育に取り組むことになる。

 橋井さんの“原体験”は、サッカーの世界にもそのまま当てはめることができる。いわゆる“海外組”と“国内組”の差、“海外組”のなかでも、定位置を獲得し所属クラブで結果を出せる選手と、実力を出し切れず志半ばで帰国の途につく選手の違いは、単純なサッカーの技術の差、才能の差ではなく、橋井さんの指す“人間力”の差が大きいことはこれまでの例からも明らかだ。

 中田英寿や本田圭佑、日本では異端と言われる「物言うサッカー選手」がなぜヨーロッパで活躍できたのか?一見“日本人的”な要素を多く持つ長谷部誠や長友佑都がなぜ所属クラブに欠かせないキープレイヤーになり得たのか? こうしたことを考えるだけでも、橋井さんの感じた「日本人の弱さ」と、「日本人サッカー選手の弱さ」が大きく関連していることがわかる。

長友&本田

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日本に蔓延する「完璧主義」の幻想

「日本人が国際的な舞台で活躍できない要因の一つに、不完全な状態で自分を出してはいけないという思い込みがあると思います」

 国際基準から遠くかけ離れてしまう理由の一つとして橋井さんが挙げたのは、日本人の多くが抱えている“完全幻想”についてだった。

「日本人は『全部完璧にしてから』という思いが強すぎますよね。完璧な準備、すべてが完全でないと自信が持てない。一方、海外の人たちは技術やアイディアがたとえ完全でなくても、常に自信を持って自分の伝えたいことを堂々とアピールします。もう一つ例を挙げると、日本人は、英語一つとっても文法から発音まですべて完璧じゃないと『話せない』と思ってしまっている。英語を母国語に持たない外国人はたくさんいますが、日本以外の国の人は文法や発音が怪しくてもとにかく意思を伝えようとします。考えてみれば、ほとんどの日本国民は最低でも6年間は英語教育を受けているわけです。いまは小学生から英語に触れる授業がはじまっているくらいです。これだけ学んでいるのに、いざというときに一言も発することができないのは異常ですよね」

 日本の英語教育は、「英語は勉強したけど話せない」「知識はあるのにコミュニケーションがとれない」という問題を抱えている。完全・完璧主義と言われれば、日本人的な発音や文法の誤りを「恥ずかしい」と揶揄する傾向もたしかにある。

「日本人が英語を話せないのは明らかに英語力の問題ではありません。完璧でなければいけないといって尻込みしてしまう行動や思考は、子どもの頃からすでに始まっています。もちろんこれは子ども自身のせいではなく、周囲のせい。要するに私たち大人が、不完全なものを人に見せたり披露したりすること、失敗することを恥ずかしいと思う空気が子どもたちにも伝わっているんです」

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人間は本来「不完全で当たり前」

 技術はあるのにそれが発揮できない。スラロームドリブルがやたらうまいのに試合になるとすぐにボールを取られてしまう。あるいは、シュートチャンスなのに、より確率の高い「完璧」を求めてパスをしてしまうなど、「完璧・完全幻想」の弊害はサッカーでも見られる。

 近年はサッカーを「ミスが前提のスポーツ」ととらえて、チャレンジをうながす指導法が浸透しつつあるが、サッカーだけでなく学校の勉強、普段の生活から完璧を求められている子どもたちを変えるのは、限られたサッカーのトレーニングだけでは十分ではないだろう。

「声を大にして言いたいのは、ビジネスの現場でも教育でも、大人でも子どもでも、『不完全なのが当たり前』なんです。不完全でも自分が思ったこと、できることを堂々と表現する。これを繰り返すことで、「意欲」が沸き、「行動力」「決断力」「責任力」や「コミュニケーション力」が磨かれていくんです。本来人間はそういうものなのに、日本では大人も子どもも不完全なものを出しちゃいけない、失敗しちゃいけないということに縛られている気がします」

 日本の基礎学力は世界水準で見てもトップレベルを保っている。学力的にはむしろ勝っているのに、国際社会ではその力を十分に発揮することができない。この事実を見ても「完璧を求めるよりまずやってみる」という行動原理の方がよほど役に立つことがわかる。

 そもそも「完璧・完全」は幻想で、そのときの自分の最大限、精一杯で勝負するしかないのだ。

「こうしたマインドを変えていくためには、教育システムを大きく変えなければいけません。日本の教育は限られた時間のなかであらかじめ決められた正解をいかに早く、正確に導き出すかということに主眼が置かれています。ヨーロッパでは、こうしたこととは別に、答えのない問題に取り組んだり、自分なりの意見を発表したりする機会が多い。アメリカでも正解よりも、まずは自分の意見を主張することに重きが置かれています。日本と比べて欧米は、社会で求められていることと、学校で学ぶことのあり方が近いですよね。日本は社会が『こういう人材が欲しい』と思うような人づくりを、少なくとも学校教育では果たせていません」

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【異年齢教育を特徴とした独自のカリキュラムに基づく保育を実践している橋井健司氏】

大切なのは「いつ勝つのか?」

 橋井さんが園長を務める幼児園、First Classroomでは、社会に出たときに役立つ教育を実践しているのだが、結局すべてが大学受験に集約する現在の教育システムの中では、その実践も容易ではない。

「First Classroomの説明会の最初に保護者の方に言うのは『日本国内で上位1割を目指す程度の学歴勝ち組志向であれば入園しない方がいい』ということなんです。私たちが見ているのは子どもたちの20年後、30年後。グローバルな社会でたくましく生きていき、活躍できる人間教育をいまから始めるんです。受験競争の中で国内の勝ち組に入りたいだけであれば、当園に通う必要はなく、普通の幼稚園や保育園に通って、小学校か中学校、高校かどこかのタイミングで受験すればいいと言っています。「勝つ」という点では、20年後、30年後、世界を舞台にしてです。そこにこだわりを持っています」

 これも、ジュニアサッカーの現場にそのまま当てはまる。“公式戦”の結果、目先の勝利、トレセンやJ下部組織のセレクションの合格が目的化してしまうことは、育成段階で「完璧・完全の幻想」を思い求め、かえって子どもの本来の成長を妨げることにつながりかねない。こうした環境で“培養”された選手たちは、どんなに技術を磨いても、肝心なものが抜け落ちているために、世界の舞台で実力を発揮できずに終わってしまうかもしれない。

 付け加えると、子どもたちが生きる未来は、グローバルな環境に身を投じなければドメスティックに生きられた、“これまで”とは大きく違う。自らが海外へ渡航せずとも、上司や一緒に働く同僚、出世争いのライバルに外国人が一定の割合でいるという将来がやってくる。それは、Jリーグにおけるアジア枠など外国人枠の拡大、さらには撤廃の動きを見せているサッカー界で同じこと。未来を歩む子どもたちにとっての「世界基準」の重要性がさらに増していくのは明らかだろう。

「私は人格形成期である『6歳まで』にという観点で子どもたちに向き合っています。しかし、ジュニアサッカーの対象になる12歳までというのもとても重要な時期です。非認知能力という点ではもちろん『遅すぎる』こともありますが、人的環境という意味では、習い事やスポーツのコーチは子どもの成長をうながす上でとても重要な役割を果たします。スポーツの分野では特に専門的な知識や技術、環境などに目が行きがちですが、“どんなコーチ”が、子どもたちに“どんな態度”で、“何を伝えるのか”というのが子どもたちの未来を大きく左右するのです」

 今回は、グローバル社会における日本人の課題についての話が主になった。こうした前提を踏まえ、「世界基準」を身につけるためにはどうしたらいいのか?次回以降は、橋井さんの提唱する6歳までに磨きたい能力とその方法論をもとに、12歳までという対象年齢も考慮した上で、サッカーコーチたちが子どもたちに何を伝え、どう接するべきなのかについて掘り下げていく。

【連載】「サッカーを“サッカー外”から学ぶ重要性」


<プロフィール>
橋井 健司(はしい けんじ)

保育士・研修指導講師。静岡県出身。1993年から2006年まで外資系企業でオーガナイザーとして活動。2007年1月、新教育デザイニング株式会社設立し、同年3月には幼児園First Classroom世田谷を開園。異年齢教育を特徴とした独自のカリキュラムに基づく保育を実践し、2019年4月には世田谷・梅ヶ丘に新園を増設し、大阪府での開園も計画している。著書に「世界基準の幼稚園 6歳までにリーダーシップは磨かれる」がある。


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