改めて“食育”を考える。お母さんにとって食育で大事なことは何か
2020年01月07日
フィジカル/メディカル取材・文●木之下潤 写真●ジュニサカ編集部/
2018年9月から食育連載がスタートしました。この連載で伝えたい3つの思いをコンセプトに立て、管理栄養士の川上えり先生に話をしていただき、毎月2本のレシピを紹介してきました。
食育は食トレではない
【コンセプト】
・体は食べ物から作られる
・旬の食材が最も栄養価が高い
・旬の食材での体作りが最も効率いい
約1年半が経って少しずつ認知され、楽しみに見てくださる読者も増えてきました。すごく感謝しています。最近は、企画・編集者(木之下潤)として「もっと食育に興味を持ってもらうにはどうしたらいいだろう?」との思いが、より膨らんできました。
はじめに連載執筆を担当してくださったのは、宇野美貴子さんという健康系の知識を幅広く深くお持ちのライターです。無理を言ってお願いしたのですが、人気で多忙だったため、スケジュールが合わなくなり、昨年の春先にあらたなライターを公募しました。そのときに考えたのは、読者目線を持つライターでした。現在原稿を起こしてくれている北川和子さんは、三児の母です。記事には、彼女の考えも落とし込んでもらっています。このような時間を過ごしながら企画を進めるなか、私の中で一つの疑問が生まれました。
「そもそも読者にとっての食育って何だろう?」
2018年9月の記事は、編集者として木之下が担当しました。私は男性ですし、職業柄いろんな知識はありますが、「食べ物の専門家」ではありません。だからこそ川上先生の食育への考え方を聞いた上で、連載のコンセプトを決めたいと思い、最初の取材原稿を自ら書きました。はじめは、次のようなやりとりからスタートしました。
――管理栄養士として「最初にアスリートに伝えていること」は何ですか?
川上 シンプルに「食事を楽しみましょう」ということです。最近は「食トレ」と言われ、食事もトレーニングの一つとうたわれるようになりました。確かに、それもすごく大切なことです。でも、食事は心をリセットできる時間でもあります。だから、私は食事を楽しむことを重要視しています。自炊や外食でも、まずは自分が楽しくおいしく食べられるものを摂ることが基本です。
その中で、「アスリートとして抑えるポイントは意識してください」と伝えています。
例えば、栄養管理の面でいうと、各選手によって栄養素や必要カロリーなどは細かい数字が設定されています。それは、それぞれの選手に対して必要な食事なので大切なことです。でも、あくまで目安なので、その数字だけに捉われないように自分の感覚の中で判断してもらうように言っています。
管理栄養士が提示したものに対し、自分なりに摂取してみて「自分の体にはどうなのか」と向き合うことが大事なことだと指導しています。どう体が反応しているのか。体重を測ってみて足りているのかどうか。夜これを食べたけど、翌朝胃もたれをしてしまうから合っていないなど、選手自身の感覚で判断し、それをヒアリングした上で選手に合った手段や解決方法を探っています。
昨年の11月下旬頃から食育連載を見直し、この川上先生が最初に発言した一文を読んだときに2020年1月は「食育って何だろう?」をテーマにした対談でスタートしようと思いました。それは連載に関わる三人が大切にしている「食育の定義」みたいなものを知りたいなと感じたからです。それが「来年の食育連載のヒントになるのではないか」と。
私がいつも思うのは「お母さんは忙しい」です。
だから、毎日ウンチクなんて気にしていられないし、難しい話なんて子どもにする余裕はありません。それでお母さんの気持ちがわかる管理栄養士と子育て経験のあるライターに依頼をしようとお願いしました。取材後、三人でレシピを考えるときに意識しているのは、料理の手間です。
・食材はスーパーで売っているもの
・稀にしか使わない食材は入れない
・缶詰など手軽なものも使ってOK
・子どもと会話のキッカケになる料理
・調理に必要以上の工程がいらない
ここについては、北川さんが担当ライターになってから少し変わりました。取材時、川上先生に決まって報告します。「先月のあのレシピ、子どもがおいしいって食べてくれました」。毎回、感想を述べるんです。はじめは「へー」と聞き流していたのですが、時間が経つとともに「大事だな」と考えをあらためました。
直接は伝えていませんが、北川さんの意見を読者目線にアレンジして企画に盛り込むようになって、さらに読者の反応が良くなりました。普段は控えめな北川さんなので、取材時も口数はそう多くありません。でも、来週から掲載する「食育とは?」の三者対談で核心を突く発言をしました。
「スマホで検索するとたくさんの情報が並びます。でも、情報が多すぎて、食育とは何かが見えなくなってしまっているような気がします」
確かにそうだなと思います。サッカーのトレーニングも、最近はものすごく細分化して情報が出ていますが、現場のコーチからすると本質が見えなくなっているし、「結局これって何のトレーニング?」と思えるものも多いし、人によっては混乱を生じさせる原因にもなっています。
これって川上先生が「食事をトレーニングのように考える風潮がある」と語っていたことと同じです。普段から忙しいお母さんに「食事をトレーニングの一環として教育しろ」と言っているようなもので、これを求めるのは無理しかありません。
私自身、食育は「お母さんが日常生活にある普通の食材で料理を作り、子どもと一緒に食事を楽しむ」ことだと捉えています。一緒に食べていれば学校の話、友達の話などの会話をし、たまに食べ物の話にもなります。そのときにお母さんが食べ物の思いをそのまま伝えたらいいと考えています。
「この料理はね、こうやって作る」
「この食材はこういうものなの」
「これはこんな栄養があるのよ」
などなど、たまに話題にあがる食べ物の話も続けていけば、どんどん蓄積されて子どもの知識になります。そうすると、料理に興味を持つような子も出てくるでしょうし、料理を作る大変さを理解した子はお手伝いをしてくれるようになるかもしれません。
きっと食育で大事なことは、お母さんが無理をしないこと。
お母さんが無理をして子どもに食育しようとするほど、食卓から笑顔が消えるような気がします。川上先生の言った通り、食育は食トレではありません。もし食事がトレーニングになるのならお母さんには勉強が必要になります。そんな時間はあるわけがないし、それは北川さんと一緒に仕事をしていて実感しています。
いつも子どものことで悩んでいるし、かと思ったら「仕方ないですよね」と開き直るし(笑)。そんなこんなで毎月食育の話をしている三人は、お母さんの立場を頭に置きながら連載記事を作っています。常に食育の話をしているわけではなく、北川さんのお子さんもサッカーをしているので、トレーニングの話にもなります。
今回の「そもそも食育って何だろう?」も様々な話になりました。それは食べ物によって体づくりをしているから自然な流れです。トレーニングによって消費したエネルギーをどう体内に取り入れるか。何を食べたら回復するか。活動後、どのくらいの時間に食べ物を口に入れたらいいのか…。
三人の対談の中で、川上先生は「そこまで根を詰めて食事に向き合わなくても、どんな料理でも体はある程度機能してくれます。心配は入りませんよ」とお母さんをフォローしていました。
来週からは三回に渡って「食育って何?」をテーマに三人の対談をお届けします。ちょっと食事から離れる話題もありますが、私はそれもまた食育と関連していると思っています。いつもより気軽な気持ちで読んでみてください。
今年もよろしくお願い申し上げます。
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