「良い立ち位置を取り続け、スペースを支配する。」机上の空論にならないポジショナルプレーの指導法
2020年10月13日
戦術/スキル2014年から2019年までベガルタ仙台を率いていた渡邉晋。退任後もベガルタ仙台のサポーターから絶大な信頼を得ている「知将」は、選手を指導する際に「ポジショナルプレー」などといったカタカナは一切使わない。では、彼はいかにして「スペースを支配する」イメージを選手たちと共有してきたのか。言葉だけが一人歩きしがちな「ポジショナルプレー」の指導法は、ジュニア年代の子どもたちにもいかせるに違いない。そこで今回は10月14日に発売される『ポジショナルフットボール 実践論 すべては「相手を困らせる立ち位置」を取ることから始まる』から机上の空論にならない指導法にフォーカスした内容を紹介する。
『ポジショナルフットボール 実践論 すべては「相手を困らせる立ち位置」を取ることから始まる』より一部転載
文●渡邉晋 写真●Getty Images
「相手2人以上を困らせる」ポジショナルプレーとは?
巷で『ポジショナルプレー』と呼ばれているものについて、私の解釈を述べさせてもらうとすれば、それは『スペースを支配する』ということだと考えています。そして、攻撃において『スペースを支配する』ために絶対的に必要になってくるのが《良い立ち位置を取る》ということです。
どのように相手ゴールに迫るのかを考えたとき、《良い立ち位置》は必要不可欠です。それは個人レベルの《良い立ち位置》だけではなく、視野を広げて11人のチームに照らし合わせたとき、チーム全体の利益を踏まえた上での《良い立ち位置》であり、それを取り続けることで『スペースを支配する』ことを『ポジショナルプレー』と呼ぶのではないかと考えています。では、《良い立ち位置》とは具体的に何を示すのか。私は特に攻撃の大前提として、「相手2人以上を困らせよう」と選手に伝えてきました。1人の立ち位置で、相手2人を困らせる。あるいは3人、4人を困らせる。そういう立ち位置を取りましょうと。
最終ラインを破るシーンを例にあげます。相手DFの中間に立ち、そこから相手の背後へ飛び出して行く方向が良ければ、相手DFはどちらが付くべきか迷い、同時に2人が困ることになります。1人に対して2人が困れば、ほかの場所が空くわけですから、個人がその立ち位置を意識して取れば、間違いなくチームの利益になります。
逆に立ち位置によっては、「そこで受けられても別に怖くない」といった相手DFがまったく困らないケースもあります。自分がボールを受けやすくても、相手が困らなければチームの利益にならず、それは《良い立ち位置》とは言えません。最終目標は相手ゴールに迫り、得点を奪うことです。私はそのための作業として、「相手2人を困らせる立ち位置を取る」という原則を元にこの戦術を落とし込んできました。
2016年は3バックにする以前から、局面で数的優位を作り出してボールを前進させるビルドアップを実践してきました。CBと相手FWが2対2の同数なら、ボランチが下りて数的優位を生み出すわけですが、このボランチの動きは、プレスをかけようとする相手FWを困らせています。さらに最終ラインで空いた1人がボールを中盤へ持ち運べば、相手は誰が対応するべきか迷い始めます。あるいは、その場所を使わなかったとしても、そこに相手が守備のパワーを割いたのなら、どこかほかの場所で数的優位が生まれているはず。そのようにして《良い立ち位置》がチームの利益になっていることを、全員が理解し、共有することが大切です。
そして、最終的には誰かが完全にフリーで、なおかつ、ゴールに向かってスピードに乗った状態でボールを引き出していく。究極の理想は、相手GKと2対1に なることです。それを外せば最終的にゴールマウスに対して1対0。無人のゴールにボールを入れるだけという状況です。もちろん、それは理想なので、相手GKと1対1の状況も、あるいは、相手CBと1対1の状況も、チームにとっては充分な利益です。そこからの逆算として、まずはチーム全体で《良い立ち位置》を取り、相手を困らせることが必要になるわけです。
実はここまで詳しく、選手に言葉で説明したことはありませんでした。それはなぜかと言うと、言葉ばかりになって机上の空論になるのは絶対に嫌だったから。何より、選手がピッチでイメージを共有できたからです。たとえば、トレーニング中によく起きていた現象で言えば、シャドー、あるいは1トップが《良い立ち位置》を取るからこそ、相手DFが中央に集まり、最終的には外からWBがフリーでスピードアップできます。相手を困らせ、数的優位を生み出し、ゴールに迫る。これは選手にとっては非常にわかりやすい絵であり、トレーニングやゲームを行うことで自然に出てくる現象となればメリットを体感しやすかったと思います。付け加えるとすれば、1トップ・2シャドーと両WBを置く[3‐4‐3]は、立ち位置のメリットが初期配置の時点で明確に見えやすいシステムでもありました。
このように、選手とはプレーしながらイメージを共有しましたが、言葉で紐解くとすれば、《良い立ち位置を取る》ということが大前提としてあり、「良い立ち位置とは、1人で2人以上を困らせる立ち方のこと」であり、それらはすべて「ゴールを奪うため」にある、と整理することができると思います。
『ポジショナルプレー』の指導とは、このような《立ち位置》の原則に基づいて指導することであると私は解釈しています。
つづきは『ポジショナルフットボール 実践論 すべては「相手を困らせる立ち位置」を取ることから始まる』からご覧ください。
【商品名】ポジショナルフットボール 実践論 すべては「相手を困らせる立ち位置」を取ることから始まる
【発行】株式会社カンゼン
【発売日】2020/10/14
【書籍紹介】
渡邉晋は《切る》《留める》《解放》など独自の言語を用い、
ベガルタ仙台に「クレバーフットボール」を落とし込んだ。
実は選手を指導する際、いわゆる『ポジショナルプレー』というカタカナ言葉は一切使っていない。
にもかかわらず、結果的にあのペップ・グアルディオラの志向と同じような「スペースの支配」という攻撃的なマインドを杜の都に浸透させた。
フットボールのすべては「相手を困らせる立ち位置」を取ることから始まる――。
ゴールからの逆算、すなわち「良い立ち位置」を追い求め続けた監督時代の6年間を時系列で振り返りながら、
いまだ仙台サポーターから絶大な支持を得る「知将」の戦術指導ノウハウをあますところなく公開する。
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