「指導とは“教えない”こと」池上正コーチが語るジュニア指導の心得
2017年05月16日
コラムジュニサカでもおなじみ、池上正さんの監修本『池上正の子どもが伸びるサッカーの練習』が4月14日に発売し、話題となっています。今回はその『池上正の子どもが伸びるサッカーの練習』から池上さんの根本的な考え方である「指導とは教えないこと」について抜粋して紹介します。
(監修●池上正 写真●ジュニサカ編集部)
『池上正の子どもが伸びるサッカーの練習』より一部転載
誘導型の指導をしていませんか?
私は子どもを指導するとき、答えを用意していません。なぜなら、大人が答えを持っていると、問いかけが誘導型になるからです。「どうしてそう思うの?」「こっちはどう?」と聞きながら、実は最終的に自分の答えに導こうと誘導尋問をしがちです。しかし、それでは子どもたちの自由な発想が削られてしまいます。
最初から答えを持って質問をする人は、サッカーコーチにも本当に多いです。たとえば、ある場面で子どもがボールを運び、シュートを選んだとします。でも、反対側にパスコースがありました。最近のほとんどのコーチは「ストップ」と言い、「どうしてこっちへ行きましたか?」と質問します。
子どもは「こっちが良いと思った」と答えますが、コーチは「でも、反対側を見てください。こんなに空いていますよ。本当に良いのはどっち?」と誘導尋問を続けます。大人にそこまで言われたら、子どもは「反対側」と答えるしかありませんよね。そうしないと、その場がいつまでも終わらない。コーチは自分が用意した答えを言わせているだけです。
同じ状況で私だったら、「反対側が見えていましたか?」とだけ聞きます。「見えていなかった」と子どもが言うなら、「こっちも空いていたんですよ」と伝えて終わり。次に行きます。
私はどちらが良い選択肢とは言いません。命令も誘導もしません。プレー中に見なければいけないものを伝えたら、あとは子どもの自由です。もし、「反対側も見たよ」と答えたら、その子はあえて他の選択肢を使わなかったわけです。それはそれでOK。大人の好むプレーをやらせることが、良い指導ではありません。
私の指導とは教えないこと。「答えを持たずに問いかけたほうがいい」というのは、そういうことです。
“知”に従わせるデメリット
教えない指導について、人間関係のトレーニングに面白い結果があります。宇宙に持って行く酸素ボンベなどの20品目を、いちばん必要なものから順に並べ替えます。これを約7人のグループでやり、自分が並び替えた順番を書いて、グループのみんなに見せる。それぞれが違うことを書いているので、グループで話し合い、グループ全体の答えを決める、という流れです。
このときグループの中に科学の先生がいると、その先生は知識があるので、みんながその人に従うようになります。「知っている」と言う人には反論しない。仮に本音では違うと思っても、相手は科学の先生だからと、意見を引っ込めてしまいます。そういうグループでは、先生個人の得点と、グループの得点がほぼ同じになります。つまり、先生の得点を越える結果は得られません。
一方、何もわからない者同士のグループで話し合って決めると、みんなが抑制されることなく、好き勝手に意見を言い合います。その結果、個人の得点よりも、グループの得点がうんと上がる結果がハッキリと出ます。
これはサッカーのコーチにも言えることで、「俺はサッカーを知っているんだ」という姿勢で指導すると、そのコーチ以上に能力がある選手は育ちません。「どうして右なの? 左にフリーな味方がいるよね。本当にそれでいいの?」とコーチに誘導されたら、「左」と答えるしかない。
でも、右に出した子どもは、一度出して、もう1回パスをもらうとか、何かイメージがあったのかもしれません。放っておけば天才的なひらめきで、いろいろなプレーをしたかもしれない。コーチがそれを阻害し、伸びしろを止めたわけです。
指導者として、それは問題ではないでしょうか。私が答えを用意せずに子どもと接するのは、そういう理由からなのです。
【書名】池上正の子どもが伸びるサッカーの練習
【発行】池田書店
【監修】池上正
【編著】清水英斗
B5判/160ページ
2017/4/14発売
⇒はじめての子もできる練習を多数収録。周囲を見る力、考える力を育てるメニューが満載。練習がうまくいかないときは?子どもへの声かけを紹介。幼稚園児から低学年、高学年まで、年代を交ぜて練習ができる!「運動神経」「コミュニケーション能力」「考える力」現代っ子に足りない要素が練習で身につく!
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