日本の選手は何歩か下がって助走をつけてしまう。「止める・蹴る」の基礎、南米との差はどこにある?
2018年06月02日
戦術/スキルボールを止めて、ボールを蹴る、この基本的な動作はジュニア年代からしっかりと磨いていく必要があります。南米出身のリオネル・メッシ(バルセロナ)やネイマール(パリ・サンジェルマン)はこの「止める・蹴る」の基本ができているからこそ、ドリブルでDFを抜いたり、ゴールを奪うことができています。高校卒業後に単身でアルゼンチンへ渡り、ボカ・ジュニアーズでプレーした経験を持つ亘崇詞さん(現:なでしこリーグ2部・岡山湯郷Belleで監督兼ゼネラルマネージャー)に南米と日本の「止める・蹴る」の違いを教えて頂きました。
取材・構成●鈴木康浩 写真●Getty Images
ト・トンというテンポで
■ポイント1
常に動きながら 「止める・蹴る」を!
僕がアルゼンチンにいた頃、「止める・蹴る」についてよく言われていたことがあります。日本と同じように、「止める・蹴る」は基本的なトレーニングとして毎日繰り返すのですが、大事なポイントとして強調されたのが「動きながら止める」ことでした。
日本ではウォーミングアップ代わりに二人一組の対面のパスをしながら「止めて・蹴る」を何本もこなす風景が一般的かもしれません。もらったボールを足下に止めて、1、2、3のタイミングで蹴り返す、といった風景です。しかしそういう練習をしていれば、僕が以前教わっていた南米の監督やコーチなら「その練習をしていて試合で通用するの?」と言ってこう指摘してくれたと思います。
「ゲームに近いシチュエーションを意識しなさい」
そうやって常に試合を意識するように繰り返し伝えられました。動きながら「止めて・蹴る」。さらに、その動作をスピードアップして行うことでトレーニングのレベルがグンと上がるでしょう。さらに、「止めて・すぐに蹴る」だけでも難易度が上がると思います。その場合は、たとえば、左足のインサイドで止めてからすぐに右足のインサイドで蹴ることで、ト・トンというテンポで速く蹴るというプレーが可能になります。
また、パスを出すほうも試合を想定しながら動いている相手に合わせてパスを出すことになるので、難易度が上がります。このときに相手へのパススピードも上げることを意識すれば、さらに難易度は上がるでしょう。
つまり、大事なことは試合を意識することです。試合を意識をするだけで 日本によくあるパス&コントロールのトレーニング風景は変わるし、毎日行う基本的なトレーニングからより良い成果が生まれるでしょう。
日本の選手はいい状態のボールなのに助走をつけて蹴る
■ポイント2
止めてミスしても 早く処理すればOK!
もう一つ、南米で繰り返して言われていたことは、「止める・蹴る」を行うときに「ミスは絶対にあるんだ」ということでした。試合中にミスは必ず起こります。たとえば、トラップをするときにボールが浮いてしまうことはうまい選手でも起こり得ることです。このときに「3タッチしてでもボールを早く処理すること」を強調して言われていました。
これが日本の場合ならば、コントロールミスをしてボールが宙に浮いてしまったときに、「ああ……」という反応をして、トラップミスがミスのまま終わってしまう風景が多々あると思います。
「止める・蹴る」において、まず止めることでミスし、蹴るまでに時間がかかってしまえば連続したミスになるので、それは重大なミスとなります。しかし、このときに浮いてしまったボールを時間をかけずに早く持ち直してパスをすることができれば、最初のトラップミスは帳消しになる、と南米では教わりました。ミスを二回連続で繰り返さないことが大事だと教わったのです。
僕が東京ヴェルディで指導していたときのメンバーには、現在トップチームで活躍している渡辺皓太選手、日本代表のボランチに成長した三竿健斗選手(鹿島)らがいましたが、僕が教えていたからプロになれたのです!と自慢しているのではなく、素晴らしいトップクラスの選手たちだと思っていたからこそ、基本技術や大切なことを伝えなければと思っていました。自分が南米で指導されていたことを日本語に置き換えながら伝えていました。
彼らのボールを止めるとき、蹴るときのリラックス感をみてあげてください。次のプレーの準備がしっかりできているとも言えます。ミスをミスと感じさせないプレー。止めるミスを引きずりながらパスをするようなことが少ない選手たちです。二つの大きなミスをしないところが、彼らの正確なつなぎのパスの秘訣かもしれませんね。
「早く処理をする」ことに関連して、日本のトレーニング風景に悪しき習慣と言えるものがあります。たとえば、二人一組で距離をとってロングキックをするにしても、まずボールを止める、そして、いい状態のボールになったあとに、何歩か下がって助走をつけて蹴る、というものです。
しかし、この状況は本来試合ではあまりないシチュエーションでしょう。試合中に、ロングキックをトラップしてから何回もタッチし、いい状態のボールにしてから次のプレーに移行する時間的な余裕はほとんどありません。
ボールを止めてから次に蹴るまでの速さを徹底的に意識する。それを1日10分、年間300日くらいは練習する時間があるでしょう。その時間を漫然とだらだらとやるのか。明確な意識をもってやるのか。毎日10分を積み重ねたら1年間でかなりの差が出ると思います。
シチュエーションごとの使い分けを意識する
■ポイント3
状況によって 「止める」を使い分けよう!
もう一歩進んだ段階にいけば、DFラインで繋いでいるときの「止める」なのか、アタッキングサードでの「止める」なのか、というように、シチュエーションごとの使い分けを意識することです。
それを意識するようになると、同じ基礎練習でもまた違いが出てくると思います。DFラインで繋ぐときは、相手のプレッシャーを回避すべく、なるべく離れた位置でゆったりと深みをとってボールを止めたほうがいいでしょう。
一方、相手のゴール前での「止める」は、ダイナミックにスピードをつけてプレーしないと有効ではありません。相手から一瞬だけ離れながら、それを動きながら「止める」ことができると有効なプレーと言えるのです。
もちろん、ボールを止めるときはしっかりとその場に止まって止めたほうがトラップの精度は上がります。それでも、香川真司選手やリオネル・メッシ選手らコントロールがうまい選手たちは動きながらでも自分が置きたい場所にボールをコントロールできるから一流選手と言われるのです。
続きは、『ジュニアサッカーを応援しようVol.49』でご覧ください。誌面にあるQRコードをスマートフォンなどで読み取っていただくと、動画のページに飛ぶようになっています。動画を参考に、ご活用ください。
<プロフィール>
亘崇詞 (わたり・たかし)
1972年、岡山県出身。高校卒業後に単身アルゼンチンへ渡り、ボカ・ジュニアーズとプロ契約を結ぶ。その後、アメリカやペルー、JFLでプレー。指導者としては、東京ヴェルディやエルフェン狭山や中国で指導。ヴェルディではジュニアのバーモントカップ全国大会優勝やさわやか杯優勝に貢献。現在は、なでしこリーグ2部の岡山湯郷Belleで監督兼ゼネラルマネージャーを務める。
価格:1,320円(税込)
A5判/176ページ
2018年6月6日発売
◆特集 『止める・蹴る』の基本
◆W杯直前 ジュニサカプレゼント祭り
◆「僕らがサッカーボーイズだった頃~Jリーガーのジュニア時代~」
都倉賢(北海道コンサドーレ札幌)
長澤和輝(浦和レッズ)
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