なぜ「量より質」の練習が良いのか?高校サッカー界の革新者が考える3つの理由

2018年10月20日

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本番を見据えたリアリティのあるトレーニングを
 
 試合を想定した練習安芸南高校の練習は、常に試合を想定した練習を心がけています。練習のときから本番を見据えたリアリティのあるトレーニングをしています。たとえば、ドリブル練習では、カラーコーンを並べて、その間をドリブルして抜けていくようなことはしません。カラーコーンを人と想定しているわけですが、試合中に相手選手が突っ立って動かないような場面はありえません。自分も相手も動く中での変化を感じながらトレーニングすることをポイントとしています。

 練習方法は、分習法と全習法とありますが、分習法は、試合の一部を切り取ってその場面を想定して行う練習です。一方、全習法は、試合全体を想定して行う練習です。どちらが良いか悪いかの判断は状況によりますが、私の場合は、試合を想定して、まずゴール、相手、スペース、そしてボールを使う全習法を基本としています。ウォーミングアップ一つにしても、 10メートル四方のグリットで3対3のボールの奪い合いをするよりは、ゴールラインからハーフウェーラインまでの実際のピッチの半分程度のスペースを使った、移動しながらの3対3の対人プレーでボールを奪い合う方が実戦的です。

 しかも、サッカーは、攻めと守りという切り替えの判断を伴う競技なので、ゴールを使用しないとしても、攻める方向、守る方向の設定は、欠かせません。ですから、比較的に試合形式の練習のなかでは、11対11や7対7の紅白戦など、試合に近い人数の練習をコンパクトにして行っています。

 安芸南高校で取り組んでいるリアリティのあるトレーニングとして、「脈拍トレーニング」があります。練習時の選手の脈拍を常に1分間に180~200という設定のなかで、トレーニングをしていきます。 15分6セット(試合と同じ90分)をタイマー時計で時間をはかりながら進めていきます。15分のトレーニングをしたのちに休憩を入れ、その際、選手各自が手首や首の動脈に指を添えて脈拍をはかります。各自が自分の脈拍の数値を認識したうえで、次のトレーニングに取り組みます。

 たとえば、脈拍が150であれば、基準値を下回っているので、もっとアグレッシブに動いて脈拍を上げなければいけないということになります。そして、次の15分のトレーニング後、再び脈拍をとり、基準値180~200に上がっているかを確認します。脈拍が常に基準値を保てるようにしながら、その中で技術を追求し、戦略を考えながら、しっかりプレーできるかのトレーニングをくり返します。

 これは、高校年代の世界大会などで活躍する、高いレベルの選手の試合中の脈拍を調べたところ、大体160~180でプレーしていることがわかったからです。そこで、安芸南高校のチームはフィジカルアップのために、もう20ほど高く設定してトレーニングすることにし、その状態でのスキルアップを追求していくことにしています。これも試合を想定したリアリティのある練習の一つなのです。


<プロフィール>
畑 喜美夫

1965年11月27日生まれ。広島県出身。広島県立安芸南高校教諭。小学生時代から地元・広島の広島大河フットボールクラブでサッカーをはじめ、東海大一高校(現・東海大翔洋高校)、順天堂大学でプレー。全日本ユース代表を経験、大学では総理大臣杯、全日本インカレ、関東選手権の3冠をとった。大学卒業後は、広島に戻って教鞭をとる一方で、広島大河フットボールクラブの小・中学生をサッカー指導。1996年に県立広島観音高等学校へ赴任し、同校サッカー部監督として指導。選手の自主性を促すコーチング術を取り入れ、2006年に広島観音高校サッカー部を全国優勝に導く。日本サッカー協会A級ライセンス、元U-16日本代表コーチ。


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