オーバーワークになっていませんか? 大人が知るべきジュニア期の「疲労回復法」

2018年10月23日

フィジカル/メディカル

成長期の子どもにはいい運動といい食事だけでなく、疲労をためない体づくりも大切なことだ。オーバーワークに気づかず、またケガを抱えたまま運動しがちな子どもは大人のように体に向き合うことは少なく、それらに目を向けずに毎日を過ごしてしまう子も多くはない。そこで今回は疲労回復をキーワードに運動生理学の専門家、順天堂大学の内藤久士教授にジュニア年代の子どもたちに対してどのようなことをしてあげたらいいのか語ってもらった。

ジュニアサッカーを応援しよう!VOL.45』より一部転載

取材・文●木之下潤 写真●ジュニサカ編集部、佐藤博之


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指導者や保護者は『疲れていないか?』と注意を払うことが重要

――ジュニア年代の子どもがスポーツを続ける時に注意すべきことはありますか?

内藤久士(以下、内藤)「まず成長期を終えた大人とこれから成長していく子どもとでは違うことを指導者やご両親が知っておくことが必要です。子どもは日々体が大きくなり筋力も向上していくので、特に小学生の頃は特別なことをしなくても、たとえば足が速くなるなど運動能力も向上していきます。また、少々きつい練習をしても一日眠れば翌日には元気にサッカーをしているのが一般的でしょう。

 そのため、大人に比べると子どもは疲労しにくい、あるいは疲労から回復する能力が高いと考えがちですが、仮にその一部は事実であるとしても、同時にそこが落とし穴なのです。なぜなら子どもはオーバーワーク、またケガをしていることに気づかずスポーツをやり続けてしまうからです。

 子どもは疲れ知らずなのではなく気づかないだけですし、気になっていてもできてしまうんです。だから、指導者やご両親は『疲れていないか?』と注意を払っておくことが重要です」

――確かに。大人は自主的に休みますが、子どもは休みたがりません。

内藤「練習効果を高めることはトレーニングと疲労回復がセットです。疲れがたまったまま、またケガを抱えたまま練習をしてもその効果は上がらず、逆に疲れをためたり、ケガを悪化させたりする原因になるので練習効果を下げる結果になります。コンディション80%時に、100%時のトレーニングをすれば想像に難くありません。だから、子どものことを気にかけることが大切です。

『いつも通りに食べていない』『練習に行く気がしないという』『足を気にしながら歩いている』など、普段の生活での何気ない行動や言動に気を配り、疲れやケガ、精神的な落ち込みなどがないかをチェックすることです。これがジュニア年代の子どもたちが楽しくスポーツを続けていく上で、大前提として知っておかなければならないことだと、私は考えています」

――スポーツをやっている子どもたちは楽しいから、うまくなりたいからと体の状態は二の次にすることが多々あります。

内藤「特にサッカーはボールの有無、人との接触、様々な方向への運動など複雑な要素が絡み合う全身運動ですから練習の質が問われます。集中力が必要だからこそコンディションは大事ですし、だらだらした練習はその効果から考えても無駄なんです」

――子どもたちの体の変化に気づくためにはどうしたらいいでしょうか?

内藤「一番は生活のリズムを一定に保てているかに気を配ることです。食事の時間、就寝時間と起床時間などがわかっていれば『今日は7時に起きてこない』『いつもおかわりするのに一杯だけ』とか変化に気づきやすいと思います」

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水分補給はコップ一杯程度をこまめに分けて

──サッカーをはじめ、スポーツをしている子どもにとっては運動中の疲労回復という点で“水分補給”は欠かせません。

内藤「最近はスポーツドリンクを飲むことが一般的になりましたが、飲み過ぎは成長期の子にとってはマイナスです。真水と違い、カロリーが含まれるので飲み過ぎると練習後の食事を十分に食べられなくなって成長期に必要な栄養を満足に補給ができないことはもちろん、疲労回復にも悪影響を与えてしまいます」

──上手な飲み方は?

内藤「スポーツドリンクは水分と栄養を補給するために飲むことに間違いはありません。ただ一度胃にとどまるので飲みすぎればお腹にたまります。そもそも激しい運動時は大量の汗をかいているため、体は真っ先に水分を欲しがっているんです。水分はどこから吸収されるかご存知ですか?胃ではなく腸なんです。したがって、飲んだものができる限り早く腸に届くようにすることが大切なことです」

──もう少し詳しく教えて下さい。

内藤「最近のスポーツドリンクは研究が進んでいますから早く水分を腸へと送れるように商品化されているものが多いようです。もちろん真水でも水分補給するには適しているので、そこはその時々で飲むものを変えたらいいと思います。水分補給で大事なのは飲み方です。注意すべきことは温度と補給する量や頻度です。冷蔵庫の室温と同じ10 ℃前後の水温が良いでしょう。体内に入れた時に冷たいと感じる方が刺激され腸での吸収が早まるんです。また補給頻度ですが、こまめに飲むことです。ただ量に気をつけて下さい。1回に飲む量があまり多いと胃から送り出すのに時間が掛かるようになってしまいます。つまり、水分補給はコップ一杯程度をこまめに分けて飲んだ方が効率よく体内に吸収できます。また、のどが乾く前にすでに水分は失われていますので、早めの水分補給を心がけて下さい」

――詳しくは知りませんでした。ところでどうして水分が足りないと疲労するのでしょうか?

内藤「運動をすれば汗をかき、汗をかけば 水分が失われますが、汗をかくのは体温を下げるためです。人間は39 ℃近くになると脳が極度の疲労を感じるようになります。そうすると脳は体に疲労信号を送り、運動を抑えようとするんです。だから、そうならないように水分補給が大切なんです。疲労はまず脳が感じ、これ以上体を痛めつけないためのとてもよくできた仕組みです。また、汗をかいて水分が失われると、血液が濃縮されて血流が悪くなることも疲労の一因となります。これが運動時の簡単な疲 労のメカニズムです」

――ところで、よく練習後や試合後にクールダウンをしますが、あれはどんな意味を持っているのですか?

内藤「必ずしもそうではないのですが、一般的に言われる疲労物質“乳酸”が筋肉の動きを鈍らせます。これが疲労です。筋肉が一生懸命に動いた結果、疲労物質が溜まって脳が動かさないように指令を送るんです。そうさせないために疲労物質を早く取り除く、つまりウォッシュアウトしたいわけです。そのためには筋肉に血流の供給が必要なんです。だから、最近のアスリートは試合の翌日に軽いウォーキングやジョギングを行い、積極的なリカバリーをしています。練習後や試合のクールダウンやストレッチも血流を送り込むことで積極的な筋肉の回復を図るという意味があります。血液には酸素や栄養(糖質)が含まれていますから。でも、クールダウンやストレッチは別の意味もあると、私は捉えています」

──どういうことでしょうか?

内藤「一般的に言われる疲労物質“乳酸”が蓄積するような状況が筋肉の働きを鈍らせます。これが疲労の一因です。筋肉が一生懸命に動いた結果、筋肉の内部の環境は 大いに乱されますが、その状態を早く元の状態にも戻したいわけです。そのためには筋肉に血流の供給が必要なんです。したがって、練習後や試合のクールダウンやストレッチも血流を送り込むことで積極的な筋肉の回復を図るという意味があります。血液には酸素や栄養(糖質)が含まれていますから。でも、クールダウンやストレッチは別の意味もあると、私は捉えています」

――どういうことでしょうか?

内藤「疲労回復を図ることもありますが、自分の体と向き合うという意味合いが大きいのではないでしょうか。今日は体力的にどうだったのか、痛いところはないかなど体と対話する時間を作り、打撲や腫れ、痛みなどに気づけば早く対処できてケガのリスクを減らせます。体と向き合うという点では、お風呂もその一つの方法です」

――ゆっくり湯船に浸かった時に、体をメンテナンスする意味でもいいことです。

内藤「よく『お風呂は体のケアにいいですか?』と聞かれますが、たった一回のお風呂やストレッチが科学的な数字として顕著に現れるかといえばそうではありません。しかし体と向き合うことを含め、長い目で見ればお風呂やストレッチ、また運動終了後のクールダウンは体にとっていいことで す。湯船で軽く体を揉めば痛みや疲労がたまっているところに気づくかもしないし、そうすればいち早くケアできます」

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規則正しい生活がサッカーの上達につながる

──科学的な視点を持って疲労回復というテーマに向き合うと説得力があります。ここで食についても話を聞かせて下さい。

内藤「人間にとっての主なエネルギー源は 炭水化物、脂質、たんぱく質の3つです。軽い運動時にはエネルギーとして炭水化物(糖質)と脂質を使いますが、激しい運動時には炭水化物、つまり糖質を使うんです。糖質が体内に蓄えられるのは血液、肝臓、 筋肉の三カ所しかありません。しかも限られた量しか貯蓄できないんです。

 激しい運動時はそれを様々なところで奪い合うことになりますが、脳のエネルギー源は糖質だからそこはキープしたい。筋肉中にある糖質“グリコーゲン”も限られた量しかありません。グリコーゲンはサッカーでダッシュを繰り返すなど高強度間欠的な運動をする時のエネルギー源として重要ですが、体内に貯められる糖質の量はサッカーの1試合分ぐらいだと言われ、なくなれば血液中の脂肪をエネルギーとして利用します。

 ただ脂質は糖質よりも酸素を使ってエネルギーを生み出す効率が少し悪いため、ハイパフォーマンスを発揮するには適していません。そのため、サッカー選手をはじめ、アスリートは食事を大切にしているんです」

――だから、試合前は炭水化物を多めにとると様々な選手が言っているんですね。

内藤「サッカーのような比較的長い時間の競技種目においてハイパフォーマンスを発揮するためには、どれだけ体内に糖質をため込めるかがカギを握っているんです。特に筋肉に!それが一般的に言われている 炭水化物の負荷(グリコーゲンローディング)です。

 食事に含まれる炭水化物の割合を高めることで、筋肉内のグリコーゲン貯蔵を高める方法です。欧米では食事に含まれる脂質の割合が多く、炭水化物の割合が低いことから、その効果に多くの関心が向けられました。反対に、もともと米を主食とする日本では炭水化物の割合は高いことが特徴で、期待される効果は欧米ほどではないかもしれません。

 しかし、日本人も食生活の欧米化によって炭水化物の量が割合減っているため、最近着目されています。 実際、プロのサッカー選手も試合に向けた食事の取り方として、2〜3日前から炭水化物の量を増やし、体内に糖質を溜め込むことをよくやっているようです。選手によっては週の前半に少し炭水化物の量を抑えます。

 それは一度体内の糖質の貯蔵を減らし、その後一気に補給するとより多くの糖質が溜め込める体になるため、週の前半は抑え、試合の2〜3日前から糖質を溜める食事法を取っているのだと思います」

――やはり食事もルーティーン化されているんですね。そう考えると、規則正しい生活があらためて大切だと気づかされます。

内藤「体内の生活リズムを刻むのに必要なものは太陽の光を浴びることと食事をとることなんです。朝食をとることが体にスタート信号を送ると言われますが、食事は体内のリズムを作るのに一番大きく作用している要素です。体内に刺激を与えるのに重要なのは炭水化物だけではなく“タンパク 質”が入った食事をとること。朝、日本ではご飯と味噌汁とたまご焼き、欧米ではトーストとハムエッグといった食事をするのは自然にできていったものでしょう」

――先人たちの知恵はすごいですね。

内藤「朝食は一日のスタートの合図だと捉えたら大切なことですし、一定の時間帯に取るのなら夜の規則正しい就寝、つまり睡眠時間も関わってきます。だからこそ、規則正しい生活を送ることが大切なのです。睡眠という視点では、眠気は体温が下がった時に起こるので、たとえばお風呂に入って体を温めて血流を良くして疲労ケアをサポートし、体温が下がった頃に床に着けば心地よく眠りにつくことができます。そうやって良いコンディションを作ることができれば必然的に練習効果が上がるのでサッカーが上達するというわけです」


<プロフィール>
内藤久士教授(順天堂大学 スポーツ健康科学部 学部長)

「加齢および運動トレーニングが骨格筋 に及ぼす影響」「運動とヒートショックタンパク質に関する研究」など運動生理学を専門に研究を行う。プロアスリートから子どもまで幅広い人たちにわかりやすく運動生理学の指導・解説をすること に定評がある


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