「やる気を出せ!」から見える指導の問題点。育成指導者に必要なものとは?
2019年01月17日
メンタル/教育「やる気を見せろ」「やる気を出せ」などと、指導者が選手に活を入れている場面を耳にすることがある。しかし、ドイツで15年以上指導者を務める中野吉之伴氏は、「そもそもやる気のない子どもなんていない」と語る。子どものモチベーションが下がる理由を探ると、指導者のスタンスに原因があった。
取材・文●木之下潤 写真●佐藤博之、Getty Images
やる気が生まれる環境をつくる
――日本では「やる気を見せろ」、「やる気を出せ」という言葉がトレーニングの現場に飛び交います。そもそもドイツでは、やる気という言葉はあるのでしょうか?
中野「あるにはありますが、『やる気を見せろ』とは言いません。『やる気はある?』とは問いますが…。たとえば、子どもたちにその投げかけをしても日本の子どもたちとは答えの内容が全く異なります。最初はコーチに言われた通りにやったとしても、わからなかったり、単調すぎるとだれてしまう。ドイツの子は『サッカーはしたいけど、この練習はやる気がない』と答えるし、コーチが 『どうして?』と聞くと『やることが難しいからわからない』とちゃんと理由を口にします。だから、コーチも『そうか。なら、もう一度説明しよう』となるし、『だったらメニューに変更しよう』とアプローチを変えてみたりする。そもそもやる気のない子どもなんていないですし、やる気がないなら練習場にまで足を運ばないでしょう」
――その通りですね。サッカーが好きだからやる気はみんな持っているはずです。
中野「やる気は子どもの中から自然に湧き出てくるものだからコーチやお父さんお母さんが無理にやらせようとするものではない。ただし、大人が思うサッカーと子どもが思うサッカーが違う場合、子どもたちにやる気に起こらないことはよくあります。やりたくないことをやらされようとすれば、大人でもやる気は起きませんから。ドイツではコーチが提示したトレーニングに対して納得できなければ『こんなのをやりに来たわけでなない』という気持ちが態度に出るのは普通です。その場合、コーチが選手たちにきちんと練習の内容説明や意図を伝えて納得させるのは当たり前の務めです」
――そこは日本だと「お前にやる気がないからだ」という都合のいいやる気の使い方をして片付けられたりもします。
中野「コーチが考える“やらなければいけないこと”を優先し、子どもがイメージする練習の“やりたいこと”から遠ざかるとモチベーションが下がってしまいます。そういうことが必要なこともあるし、選手のレベルにもよるところです。ただ、ドイツのコーチにはその部分への気配りがあるような気がします。やらなければいけないことをやるために子どもがやる気をなくすのなら、やらなければいけいことを調整して子どもがやりたいものの中からやらなければいけないことにできるだけ関わるような練習のやり方に修正しますし、コーチはそう学びます」
――ドイツでは子どものやる気を妨げない工夫と学びが一般的な考え方なんですね。日本のようにやる気がネガティブな使われ方をし、子どもにとって精神的にマイナスに働くことはない、と。日本だと練習開始時にMAX100あったやる気が時間とともに減っていく現場もたまに見かけます。そういう現場に限って「やる気出せ」という言葉が耳に入ってくることがあります。
中野「こっちでは、練習中にあるプレーがダメだったからと激怒するコーチを見ることは少なくなりました。競技者数が多く競争が激しい大都市とのんびりとサッカーができる小さな町というように地域にもよりますし、チームのレベルにもよりますが」
――やる気という観点でコーチ・中野吉之伴として心がけていることはありますか?
中野「たとえば、アップの段階で子どもたちのノリが悪ければちょっとしたゲーム形式のトレーニングでやる気を起こす環境づくりはやるようにしています。ただゲームをするのが楽しいからそれで満足というのであればコーチは必要ないし、私も他にやりたいことをやる。クラブに属してチームの一員である以上はみんなで目指しているサッカーがあり、限られた練習の中でそれと向き合わなければなりません。全員が決意を持ってグラウンドに来ているはずなんです。
ならば、一人ひとりがチームの一員として練習をすることがその責任を果たすこと。最終的にやるやらないを決断するのは選手だし、コーチがどんなに働きかけたところで選手に取り組む姿勢がなければそれは選手の責任で、コーチが必ずしも尻拭いをしなければならないわけではありません。
たとえば、シュート練習が終わって次の練習を始めようとしているのに、まだボールを蹴っている選手がいるとします。その時、僕ははっきりと伝えます。『大きな目標をないがしろにして、その時の楽しさだけを優先するのはどうだろう?』と。『いい練習をして、いい試合をして、いいチームになりたいのであれば協力してほしい。でも、やるやらないは君たち次第だ』。そこの線引きは子どもたち自身が行うものです。僕はそういう距離感を保っています」
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