大学生指導者から見た日本サッカー。サッカーを学問として考える必要性【4月特集】
2019年04月03日
コラム
勝利以外の評価が町クラブには必要
——日本でサッカーを学問化するって、すごく難しそうに思いませんか?
小谷野「思いますね」
——どうして学問化すればいいと思いますか? 私自身の個人的な意見ですが、JFAがどこかのスポーツ専門学部がある大学と手を組み、『サッカーはどういう要素ができているのか』という部分から日本的な解体をして文字に起こし、学問として体系化を行い、ライセンス制度に結びつけていく取り組みは時間をかけても行うべきだと考えています。それはヨーロッパであれば各国でそういうことをやっていることですが、『だから日本も』というよりは今後の日本のサッカーを考えた時に必然だと思っているからです。
例えば、トップレベルの選手であっても監督から『こうやってくれ』という指示があった場合、そこには理由付けが必要です。『君たちは今こういう勝ち点のとり方をしている。負けの方が多いからこういう心理になっていて、こんなプレーに躊躇がある』みたいな話をする場合に、これまでの背景があって気づくことがあるけど、選手だけでは気づくことはできないことも多いです。小谷野さんが思うに、どういう専門家がいて学問化をしていった方がいいと思いますか? 何かイメージはありますか?
小谷野「日本って体育とスポーツが混在しています。体育とスポーツの差がわからない。まず、サッカーはスポーツなので、スポーツとしてサッカーはどういう立場にあるのかを考え、文化的な位置づけから専門家などの有識者会議を開いた方がいいと思います。分野として言えば、身体的、栄養的、心理的、もちろん技術などの専門家が必要ですし、サッカーを言語化するのであれば日本語の専門家も必要だと感じています。日本語の理解をさせるには海外のニュアンスとは異なってきます。日本語で言語化するのであれば、よりわかりやすくするためには、スポーツ以外の日本の文化を加味した専門家が大事だと思います」
——これまで発言した内容を、ご自身と関係のある指導者の中でそのように感じている方はいると思いますか? そのあたり、先輩指導者についてどういう感覚をお持ちですか?
小谷野「単純に学ぶ姿勢があるかないかの二つの指導者に別れると思っています。学ぶ姿勢のある指導者はSNSや様々なメディア媒体から情報を得て、それを現場に落とし込んでいる指導者がいるのも私自身は知っています。知り合いの先輩指導者で実際にいますから。でも、グラスルーツを見てどちらが多いかと言えば、学ぶ姿勢のない指導者の方が多いという感覚はあります。それは『経験則でいい指導ができる』と思っているからです。私が見ている限りだと、8対2くらいだと感じています」
——実際の現場指導という部分で、ライセンスの話に少し触れたいと思います。ご自身ではライセンスは持っていますか?
小谷野「C級ライセンスは持っています。今シーズンからB級ライセンスにチャレンジします」
——C級ライセンスを取得した時の感想はいかがですか?
小谷野「ベースとなるものは学べるのですが、指導の基礎を築く段階だと思うので、サッカーの知識の部分をもうちょっと学びたかったなと思います。実技もありましたが、サッカーがどういうスポーツでとか、こういう原理原則でとかをもっと深く学びたいという思いが残りました」
——C級ライセンスでは『サッカーとは?』『原理原則とは?』という話はなかったのですか?
小谷野「あったことはあったのですが、もっと『こういうプレーはどうする?』と深める作業がしたかったです。例えば、サッカーの4局面『攻撃/攻撃から守備の切り替え/守備/守備から攻撃の切り替え』といった内容はあったのですが、もっと『ここでどういうプレーをするべきか』など議論をしながら深めていきたかったです。なんか表面上の部分を情報として与えられて終わりという感じがして。それはA級ライセンスでもそういう印象があるので、そこからさらに議論とか映像を見たりとかして深めることが足らないのかなと思っています」
——例えば、ビルドアップというテーマがあったとして、自陣なのか、中盤での自陣なのか相手陣内なのかでも話が違います。そういう具体的なエリアでの何かのテーマを深めていきたかったと、そういうことですね。
小谷野「そうですね。ビルドアップってなんなのか? そういうところまで話がいかなかったので。例えば、『こういうところでは、日本サッカーとして守備の切り替えはこうしよう』というような話が出なかったので、『あれ?』というのは正直な感想ですね」
——JFAとしては「こういう方向で行きたい」という打ち出しもなかった、と。私の知り合いの町クラブの代表の方も同じ意見を持っていました。『正直、合っているとか間違っているとかは関係ない。ただ日本サッカーとしてこうしたいがあると、そこから現場の指導者はいろんなチャレンジができるから、JFAもそういうものを示してくれると次のステップに進めると思うんだけど』と。そういうことについてはどうですか?
小谷野「まさにその通りだと思います。育成年代では、指導者の好みで子どもたちを教えている現状があって、そのベースとなるのが日本サッカーです。だから、JFAとしては『こういうことをやりたい』『この年代ではこういうことを落とし込みたい』というものがなくてはいけないと思うのですが、今しか見ていない。目の前の試合に勝つためだけにしかつながらず、だから指導者によってバラバラになるのだと思います。そこは本当に変えなくてはいけないと心から感じています」
※第2回は4月10日公開予定です
<プロフィール>
小谷野拓夢(こやの ひろむ)
北陸大学4回生。サッカー部のコーチをしながら中高年代も指導する。SNSを活用して積極的に「理不尽・根性論など日本が抱える指導者問題を考え直すキッカケになるような情報」を発信中! ※note/twitter
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