子どもたちが「食べること」以外も興味を持つ。ジュニア年代から身に付けたい“食の自立”
2020年01月14日
フィジカル/メディカル毎日の食事が子どもたちの体づくりや将来の健康を作っていきます。だから、スポーツを楽しむ子どものパフォーマンスは、日々の食事が大きく関わります。家庭での「食育」って大切ですよね。とはいえ、最近では「食育」=「食トレ」みたいに言われ、お母さんにかかるプレッシャーも相当なものです。そこで、今月の食育連載は3回に渡って「食育って何?」をテーマに、管理栄養士と連載担当ライターと編集の三人がその考えや思いを語り合ってみました。
【参加者】
川上えり/管理栄養士
北川和子/ライター(息子2人はサッカー少年)
木之下潤/編集者(食育連載企画考案者)
食べることだけが食育ではない
北川 食育という言葉が普通に使われていますが、たまに「そもそも食育って何だろう?」と本質が見えなくなることがあります。子どもにちゃんと食べさせることなのか、料理を教えることなのか、食事に感謝させることなのか、栄養管理など専門的なことにも触れることなのか…。子育て中の私自身も「どんなゴールを目指したらいいのか?」と迷っています。
川上 私はアスリートの指導も行っています。どんな選手でも共通の目標だと思っているのが、「食の自立」です。そのためには、子どもの頃からの意識づけが大切だと感じています。例えば、小学校高学年くらいの子が「今日の朝は、僕が作る」と朝食にホットケーキを焼いてくれたりしたら、お母さんも助かるだけでなく、成長を実感できて楽しいですよね。そういう経験って、子どもに直接役立つものだと思うんです。
お手伝いなどを通じた「食の自立」に向けた取り組みは、ジュニア(小学生)の時期に積極的にさせたいですよね。私にはアメリカ人の義理の姉がいるんですけど、レストランにいっても親がお子様ランチを頼むのではなく、メニューを見せて「どれにするか?」を考えさせ、「全部食べられるか?」を確認して子どもが「食べられる」と答えたら注文しています。
北川 選択には責任が伴いますからね。
木之下 とても興味深いですね。私も小さい頃に親から「食育」を特別に受けたわけではないけれど、食事についていろいろ言われることがあったし、お手伝いもさせられていました。ありきたりですけど、例えば両親の誕生日のとき、自分に何ができるかと考えて、料理くらいしかできないから「カレーを作ってあげようかな」と材料を買ってきて作ったり。
誰かのために食事を作ったことも、一つの体験の一つでした。
結果的にそういう体験が将来役立つんですよね。一人暮らしをしたらお皿を洗ったりすることは強制的にやらざるをえないんだろうけど、やっぱり小さい頃にやっているかやっていないかで、全然違う。そういう何気ない食事との結びつきから、大げさですが、食育について考えるキッカケが生まれる気がします。
北川 そうですよね。でも、子育ての忙しい最中にあるときは食事って毎日支度することだし、いつも料理に追いかけられて、子どもに「とりあえず食べさせる」ことで頭がいっぱいです(苦笑)。お手伝いなんて二の次です。
木之下 食育だからって「何かやらなきゃいけない」「言わなきゃいけない」ってスタンスよりも簡単なことでいいから、例えばで「きた料理を運ぶ」とか、日常のふれあいの中でのちょっとしたことの積み重ねでもいいんじゃないかなと思います。
川上 食に対しての興味を持つキッカケって食べることだったり、運ぶことであったり、キッチンでコミュニケーションをとることであったり、食卓を囲むことであったり。できることは、いろいろありますよね。
木之下 この食育連載の最初に川上さんは「食卓でみんなで料理を食べる」ことが大切だと話されてました。たぶん、その何気ない食事を通じて「おいしい!」と感じることができて、食事自体に興味が出て、そこで子どもの中に「何かが生まれるのでは?」と思います。
こっち(大人)から押しつけるよりも、子ども自身に食事というものに対する何かが芽生えて、初めて成立するものなので、食育って教育することではないのかなと。
食を通して生まれる親子の会話
川上 同じ食事でも、子どもって大勢で食卓を囲んで食べるのと、お母さんと二人で食べるのと、保育園や幼稚園でお友達と食べるのと、食べる量が全く変わってきますよね。
北川 食事の雰囲気って大事なんですよね。
川上 雰囲気ひとつでおいしく感じられる経験も一つの食育なのかもしれません。
木之下 例えば、お母さんが詰めたお弁当がいつも空っぽの状態で戻ってきていたとしますよね? ある日、弁当箱に残っているものがあったとき、そういうことに気づくかどうかって大事だと思うんですよ。それをキッカケに子どもと会話を交わすだろうし。
「おいしい」と言われるとうれしいから「次も作ろう」思えるし、次も作ってあげたら子どもがそれを喜びますよね。そして、「嫌い」と言われたら、どう作ろうかとお母さんが工夫して、その工夫を子どもが何かのタイミングで知ったときに「うれしかったな」と感じるだろうし。そういうことも食育の根幹になっているのでは?
実際に、お子さんのために作ったのに食べられないことってありますか?
北川 もちろん、ありますよ。小学校3年生の次男は嫌いな野菜があって、あれこれ工夫して食べさせようとしても全然食べてくれません。この間、とうとう「お母さんは愛を込めて書いたラブレターをビリビリに破られた気持ちだよ」と怒ってしまいました。でも、あとから「あー、言いすぎた」と反省しました。愛って言葉は乱暴だったな、と。
だから、「食育」って言葉を使うと、期待に応えてくれない子どもに親自身がイラだってしまう原因になるような気がします。
最近は、まわりのご家庭を見ても二極化している風潮があります。子どもの健康を守るために「いいもの」だけを食べさせなければならないという家庭も一定数あって。例えば、「白砂糖はダメ」とか、「オーガニックの食材がいい」とか、「お菓子は手作り」とか、そういったことまでこだわっている人もいます。大勢で遊んでいても、子ども同士がアレルギー以外の理由でチョコやスナック菓子をシェアできないこともあります。
川上 もしかしたら、食にまつわる情報が多すぎるのかもしれませんね。
北川 情報が多すぎて、「食育とは何か」というところが見えなくなってしまっているような気がします。
木之下 サッカーのトレーニングでもそういうことがあります。例えば、「ヨーロッパサッカーのトレーニング方法がいい」という情報が入ってくると、すぐ飛びつく人がいるんですけど、子どもが度外視されている状況になってしまっていることが多々起こるんですよ。大人は大人の視点で子どものことを見る傾向があって、残念ながらそういう取り組みが「子どもの主体性を育む」ことにつながるわけではないんですよね。
例えば、「最先端のトレーニング方法を取り入れています」というコーチがいた場合、練習で「子どもが楽しんでいる」と自信をもって言えるかどうかが優先されなければいけない。でも、実際には最先端のトレーニング方法を取り入れるという目的が優先されてしまっている。「毎回子どもが全員楽しんでいる」と自信をもって言えるコーチはそう多くはないような気がします。
僕が練習を担当したときは、必ず最後に「楽しかった?」と聞きます。なぜか? それはサッカーは僕が楽しむことではなく、子どもが主役だからです。子どもが楽しんでいない、満足していないことは非常にマズいととらえています。どんなに知識があって、トレーニングの方法論やメソッドを知ってて実践できても、子どもが「楽しくなかった」「やらされている」と感じたら、経験にも学びにもならない。
ここは食育にも通ずるものがあります。
>>1月の食育連載第三弾は「1月21日(火)」に配信予定
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