優れたGKに必要な“8つの能力”とは?
2020年01月15日
読んで学ぶ/観て学ぶ試合中の1つのミスが失点に直結してしまうのが、ゴールキーパーというポジションです。だからこそ求められるものは、様々です。ただシュートを止める部分だけ優れていても、理想のGKとは言えないでしょう。試合中は、ピッチ全体を見渡せる数少ないプレーヤーとして、どのような能力が必要なのか。本日発売となった『ジョアン・ミレッ 世界レベルのGK講座』より優れたGKに必要な8つの能力を説明していきます。
『ジョアン・ミレッ 世界レベルのGK講座』より一部転載
著●倉本和昌 監修●ジョアン・ミレッ 写真●Getty Images
GKに求められる具体的な要素とは
GKはフィールドプレーヤーとミスに対する責任の度合いが大きく異なります。だからこそより完成された選手でいなければいけません。
だからGKコーチはGKについてもっと知らなければならないのです。
・選手を観察し、特徴・技術を分析
・選手の成長に沿うトレーニングプランの提案
トレーニングは試合でより高いパフォーマンスを発揮するために行います。トレーニング自体がうまくなるためではありません。トレーニングのためのトレーニングになってはいけないのです。
それでは私が考えるGKに求められる能力を見ていきましょう。
GKに求められる具体的な要素は8つある。そのうち一つでも欠けてしまっては理想のGK像には近づけない。ジョアン・ミレッが中でも強調するのは「賢さ」の部分。GKというポジションは賢さがなければ務まらない。
・リーダーシップ
勘違いされることがあるのですが、リーダーシップと、試合中にずっとコーチングし続けることは違います。とにかく何かをずっと話し続けていれば良いというのはリーダーシップではありません。しばしば、味方のDFや守備や攻撃に対してもコーチングをし続けるGKを見かけます。
それが悪いということではありませんが、長い間コーチングし続けるとフィールドの選手はほとんど聞かなくなるでしょう。コーチングとは一番重要なメッセージをシンプルに実行できるように伝えることです。だから、コーチングは、
○明確
○具体的
○短く
伝えることが大切です。
GKはチームで唯一ピッチ全体を見渡せる場所に立っています。監督、コーチは横からピッチを見ていますが、GKは縦に見ています。
試合を最も見ることができるのはピッチを縦から見渡すことです。棋士は将棋盤を横から見るように座りませんよね。
だからGKはピッチ内の監督であり、そのGKがチームを引っ張っているのです。GKが弱気であればそのチームは弱気になり(守備で引っ張られてしまう)、GKが強気だとチームも積極的になります。
例えばチームの約束事、タスクがロッカールームに書いて貼ってあったとしましょう。セットプレーの約束事や相手チームの特徴などです。
GKがロッカールームに入り、紙が貼ってあるのを見ました。そのGKの選手は何気なく通り過ぎてはいけません。
そこに書かれていることは監督がチームとしてやってほしいことです。チームがやってほしいことを一番知っておかないといけないのはGKです。
試合中ではある意味GKは監督以上の存在だといえます。
監督はあくまでもピッチの外にいてベンチから試合を見ています。その時にベンチと反対側にいるサイドバックの選手に上がってほしくない状況が出てきた時に監督が「上がるな!」と言っても周囲の声や観客の声で聞こえないのです。または聞こえていても耳に手を当てて聞こえていない振りをする選手もいます。
サイドバックの選手は監督の言う通りにしなくても別にいいのです。上がりたいから上がってみようかなということができる。しかし、GKは絶対にその動きを許してはいけないし、同じピッチに立っている以上「上がるな!」と強制力を持って伝えなければいけないのです。
・賢さ
GKは賢くなければプレーできません。だからこそ学校の勉強も必要なのです。賢さが足りないと相手FWの心情を読んだり、変化し続ける状況に対する予測ができなくなってしまいます。
○プレー中の全ての情報を知覚、認知していること
○コレクティブにプレーし、全体が見えるように学んでいくこと(戦術的知識の蓄積)
○スペースも少なく、時間も短い中で適切な技術を選択していくこと
○常に「なぜなのか?」と考えていくこと
以上が必要になります。
・競争力
公式戦で結果を残す能力とも言えます。戦う気持ちや闘争心というニュアンスとは少し違って試合で持っている能力を発揮し、チームに貢献できることです。
この能力は決してトレーニングや練習試合では磨かれず、公式戦を戦う経験によって磨かれていきます。
・優れた基礎技術
この本の大きなテーマです。
その完璧な技術を習得するには一つのアクションに対する細かい動作の分析が必要になります。
正しい技術を発揮するには、正しい動き方、順番があるのです。そうすることで
○最小限のエネルギー消費
○効果的なエネルギーの使い方
ができるので、怪我のリスクも減ります。
一つひとつ技術的なアクションには正解があります。その選手に合ったやり方とか、背が高いから、背が低いからというのではなく、「正しい動き方と正しい順番」ということです。
技術を完璧に仕上げることが、自信につながります。それがメンタルの強さにも通じますし、GKの自信がチームとしての自信を決めていきます。GKの能力、技術が高い分、チームは安心して前へ行ける、あいつに任しておけば大丈夫という信頼感につながるのです。
GKは技術が足りない、どうやって修正したらいいかわからないとなると、自信を持ってプレーすることが難しくなります。
結果的に、守備のシステムのせいとか、他の選手のせいにすることになります。
要するに跳ばなくていいなら跳ばない方がいいということです。どこにポジションをとれば、より速く、より的確にそのボールに到達できるのかを考えることが必要なのです。
中には、ポジショニングが悪くても身体能力の高さでボールに届いてしまう選手がいます。GKコーチはそれをそのまま許してはいけません。なぜなら、身体能力に頼ったプレーをしていると、18歳の時には届いていたボールが、30歳になったら届かなくなってしまう
からです。
私自身が同じような経験をしました。私はポジショニングが悪くても、遠くにシュートを打たれても、絶対に届くから大丈夫だと思ってプレーしていました。私はジャンプ力もあったし、速かったので確かに防ぐことができていました。結局21歳の時に怪我をして最終的には早く引退しなければいけなかったのも、理由を考えてみたらそれだけ無理に体を使っていたからなのです。
・メンタル(学習能力)
「GKをするのが好き!」というのは一番大切なポイントであると話しましたが、ポジティブにも、ネガティブにもバランスを取ることが必要であり、学習する能力、スピードも必要です。
バランスを取るというのは、良いプレーができても冷静で、上手くいかなかったとしても過剰に落ち込まない、引きずらないということです。どちらか極端になってはいけません。
メンタルが弱くなってしまう原因は、自分に矢印を向けていないからですし、正しいアクションを知識として知らないからです
ミスに対して、なぜこのミスが起こったのか、次はどうしたらいいのかがわからなければ、恐怖心からさらに動けなくなります。そうなるとチームは後ろ向きになってしまいます。
だから受け身になってしまい、押し込まれることが多くなってしまうのです。
・キャラクター
例えば机にペットボトルが置いてあったら、たいていのフィールドの選手は「ペットボトルがあるな」と見るだけで終わりですが、GKだけは通り過ぎる時にペットボトルを倒していきます。
なぜか余計なことをしてしまう、普通の人と違うことをしてしまう。それがGKです。
それをコーチが理解していないと「他の人と違うことをするな!」「変わったことをするな」と彼自身の個性を押さえつけてしまうことになります。
・身体的コーディネーション
もともと持っている体の大きさや強さは個性として強みになりますが、トレーニングすることで高められるものもあります。
私は身体能力が高い選手は技術やポジショニングが雑でもボールに届いてしまう、止めることができてしまうことは要注意だと思っています。
能力だけでプレーしてしまうと本来はもっと高いレベルまで到達できた、またはもっと長く現役を続けられたはずの年齢と共に身体能力の衰えが出ると、今まで届いていたボールが届かなくなることで引退を余儀なくされる選手をたくさん見てきました。
・アクティブ
元気のない、熱量を感じられないことはGKとして致命的です。常に明るく、活発的でGKに対する愛情、情熱が行動に出ているかが重要です。
つづきは発売中の『ジョアン・ミレッ 世界レベルのGK講座』からご覧ください。
<プロフィール>
ジョアン・ミレッ
1960年11月1日生まれ、スペイン・カタルーニャ州出身。選手としてスペイン2部でプレーしたのち、1985年テラッサ(2部)の育成GKコーチに就任。2000~2012年までゲルニカ(4部)のトップから育成までのGKコーチを務めた。2013年に来日し、湘南ベルマーレのアカデミーGKプロジェクトリーダーを経て、2017~2018年までFC東京のトップチームGKコーチ。
【商品名】ジョアン・ミレッ 世界レベルのGK講座
【発行】株式会社カンゼン
2020年1月15日発売
【書籍紹介】
選手は海外のビッククラブに所属し、指導者も海を渡る。そんな時代が訪れ、日本のサッカーは、凄まじいスピードで成長している。しかし、数十年前と比べても発展しているとは言えないものもある。そのひとつがゴールキーパーのトレーニングだ。
GKはサッカーにおいても独自性が高いポジションであり、選手育成にも専門的な知識が多く必要になるポジションであるにも関わらずグラスルーツでは、大人が子どもにむかって強烈なシュート浴びせるばかりで、育成のためのトレーニングとは程遠いのが現状だ。
このままでは、体格や身体能力的に欧米人や韓国人に劣る日本からは世界に通用するGKは輩出されないのではないか? そんな状況を打破するためのヒントが、この本にはつまっている。
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