守備において「読み」を凌駕する「セオリー」の威力とは?

2020年08月10日

戦術/スキル

日本を代表するセンターバックだった岩政大樹氏は、鹿島アントラーズに入団する前は「読み」に頼っていたといいます。しかし、対峙するアタッカーのレベルが一気に上がったことにより、次第に自らの「読み」ではなく相手の「セオリー」に重きを置くようになります。では岩政氏が言う「相手に自分の狙い通りのプレーを選ばせる」策とはいったいどのようなものなのでしょうか? 岩政氏が示す具体的な対応策から、セオリーに則った守備を読み解きます。

※この記事は2019年3月23日に掲載した記事を加筆・再編集したものです。

『FOOTBALL INTELLIGENCE 相手を見てサッカーをする』より一部転載

著●岩政大樹 写真●鈴木康浩、Getty Images


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予測して先に動く「読み」がまずいと思ったワケ

 守備はどうでしょうか。

 守備において「相手を見る」というのはいささか当たり前すぎます。立ち位置の原則もずっと書いてきているように「ボールを持った相手と自分のゴールを結んだ線上に立つこと」といたってシンプル。常に〝良い対応のためにはいいポジションから〟が基本で、「良いポジションから」とは基本的に「ゴールを背にして正面から」となります。

 状況に合わせた細かい点については、できるだけ原則的な話に抑えておくために本書では取り上げません。ただ、加えて、私がプロに入って考え方を改めた「読み」の部分について言及しておきたいと思います。

 私はプロに入るまで、「センターバックは読みが大事」と思っていました。テレビの解説で「いい読みでしたね」と言われているのを聞いて育ちましたし、実際自分もスピードがない分、読みを頼りにプロまで駆け上がったつもりでいました。

 しかし、鹿島アントラーズに入団して練習に参加すると驚きました。まったく読めなかったのです。と言うより、読みで動くと、それを察知した選手たちが最後に足首の角度を変えたりして判断を変えてきていたのです。

 「これでは読めるはずがない」

 カルチャーショックと言える衝撃でした。小笠原満男、本山雅志、野沢拓也。天才的な彼らのプレーに魅せられながら、いかにすれば彼らを抑えられるのか日々悩みに悩みました。

 アマチュアの世界では体験したことがない感覚だったので最初は答えが出ませんでした。しかし次第に、「読みに頼ることがよくないのではないか」と考えるようになりました。

 つまり、「読み」とは相手が何をするかを予測して先に動くことですが、先に動いたら瞬時に彼らは判断を変えて、その逆を取ってしまいます。であるならば、先に動くことがまずいのだと思ったのです。

岩政図①
岩政図②

立ち位置で選択肢を消し、「二番目を選ばせる」

 そこで私は、相手の目線に立って、相手の判断のセオリーみたいなものを探してみようと考えました。相手がボールを持った時に、一番目に頭に浮かぶ選択肢を見つけ、事前にその一番目の選択肢を立ち位置で消してしまう。そうすれば、相手は二番目の選択肢を選びます。〝選ばせた〟二番目の選択肢には周りの選手も使いながら対応策を用意しました。

 こうすれば、読む必要などありません。相手に自分の狙い通りのプレーを選ばせることで自分の能力の無さを補っていったのです。

 少し小難しいので一つの場面を挙げて説明します。

 私は右のセンターバック。自分の前には相手のフォワードの選手がいて、相手の中盤の選手が中盤でボールを持って前を向いた時のシチュエーションです(図37)。

 「読み」で対抗しようとする場合はまずフォワードの背後に立ち、そこから相手の動きと出し手の目線や姿勢を見て判断します。そして一瞬で相手と〝ヨーイ、ドン〟と勝負をします。

 しかし、前述したように、私の場合、このやり方ではトップレベルの選手たちには簡単に裏を突かれてしまいます。

 そこで、私は、ほんの数メートル程のものですが、相手の立ち位置よりもボールサイド側に立つようにして、縦へのスルーパスをケアする立ち位置を取ります(図38①)。

 ボールを持った相手はフリーで前を向けると、ほぼ間違いなく縦へのスルーパスを第一選択肢とするからです。

 その立ち位置を事前に取ると、相手は一つ目の選択肢をやめざるを得ず、次の選択肢として足元へのパスを選びます。フォワードも、走りたかったスペースに私が立っているので動きを止めてボールをもらおうとします。その時が私のチャンス。足元に〝入れさせた〟私はここぞとばかりにボールを奪いに行くのです(図38②)。

 そして、このケースに対しては左のボランチの選手に説明をしておき、内側から挟みに来てくれるように伝えておきます。私は少し縦側からアプローチすることになるので内側へのコントロールを許してしまう局面もありますが、それも罠で、内側から挟みに来てくれたボランチとパッキングするようにボールを奪い取ります。

 このようにして、「読み」ではなく、「セオリー」に則ってプレーするように守備の仕方を変えていきました。

※続きは発売中の『FOOTBALL INTELLIGENCE 相手を見てサッカーをする』をご覧ください。


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<プロフィール>
岩政大樹(いわまさ・だいき)
1982年1月30日生まれ、山口県出身。東京学芸大から鹿島アントラーズに加入し、2007年からJリーグ3連覇に貢献した。3年連続Jリーグベストイレブンに選出された。2010年南アフリカW杯日本代表。13年に鹿島を退団したあとタイのテロ・サーサナ、ファジアーノ岡山、東京ユナイテッドFCを経て18年に現役を引退。ベストセラーとなった『PITCH LEVEL』(KKベストセラーズ)でサッカー本大賞2018受賞。解説や執筆を行うかたわら、メルマガ、ライブ配信、イベントを行う参加型の『PITCH LEVEL ラボ』を開設するなど、多方面に活躍の場を広げている。


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【商品名】FOOTBALL INTELLIGENCE フットボール・インテリジェンス 相手を見てサッカーをする
【著者】岩政大樹
【発行】株式会社カンゼン
【判型】四六判/304ページ
【価格】1,600円+税
【発売】2019年3月18日発売

 

 


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