「相手の背後を取り、DFを剥がす動き」を身につけるトレーニングメニューとは

2020年10月14日

戦術/スキル

前回の記事(「良い立ち位置を取り続け、スペースを支配する。」机上の空論にならないポジショナルプレーの指導法)で、2019年までベガルタ仙台を率いていた渡邉晋氏の相手を困らせる動きについて、最終ラインを破るシーンに言及しました。今回は、相手を困らせる動きをすることを前提として、相手の背後を取ったり、相手DFを剥がす動きについて、実際にトレーニングメニューも見せながら説明していきます。

『ポジショナルフットボール 実践論 すべては「相手を困らせる立ち位置」を取ることから始まる』より一部転載

文●渡邉晋


【前回】「良い立ち位置を取り続け、スペースを支配する。」机上の空論にならないポジショナルプレーの指導法


《レーン》を真っ直ぐ走り2人の相手を困らせる

 2016年は様々なベースを構築した1年になりました。そして2017年はシステムを変え、[3‐4‐3]の立ち位置を取った中で、1トップ・2シャドーを中心にいかにして相手の背後を取っていくか。欧州サッカーの視察で実感したことですが、それは最も大きな課題でした。どうすれば背後を取れるのか? そのための《良い立ち位置》とは何か?

 相手DFとDFの間のことを我々は《レーン》と呼びましたが、最初のキャンプで私が選手に伝えたのは、その《レーン》を「直線的に走る」ということでした。

 1トップ・2シャドーは、相手4バックの間にそれぞれ立ちます。シャドーの選手で言えば、そこから《レーン》を真っ直ぐ走ることによって、相手SBとCBの2人を困らせます。これを行えば、必ずWBが空いてくる、という連係です。この形をキャンプではとことんやりました〈図3〉。

図3

 そこで我々の手本になってくれたのが、石原直樹です。2017年に加入した彼は、《レーン》からの飛び出しを見事に実践してくれました。1トップの彼がDF間の《レーン》を真っ直ぐ走ることで、2人を引きつけ、シャドーがフリーになる。そのシャドーが走って大外のDFが寄ってくれば、ワイドにいるWBがフリーになる。そうすれば、サイドチェンジ一発で時間とスペースを得て、スピードアップしてゴールに迫ることができます。たとえ自分がボールに触らなくても、石原はそこまで考えてポジションを取っていました。

 逆に直線で《レーン》を走らず、斜めに走ってしまう癖のある選手は、相手2人を困らせることができていません。相手からすると、SBからCBあるいはGKへ「行ったぞ!」とマークを受け渡して終わりです〈図4〉。そこをズラせなければ、せっかくサイドチェンジしても相手SBにスライドされ、時間とスペースを充分に獲得することはできません。そこで攻撃のスピードを失えば相手に守備ブロックを再形成されてしまいます。《レーン》を真っ直ぐ走ることで、相手2人を困らせることができるのですが、体に染み付いた癖として斜めに走ってしまう選手は苦労していました。それまでは、「ダイアゴナルに走れ」と言われることも多かったのでしょう。またボックスの中へグッと斜めに入っていく瞬間は絶対にあり、それが効果的なことも多くあります。そこにパスが点で合えば、その一瞬で受けることも可能だと思いますが、我々が全体で相手の守備をズラして仕掛けることを考えたとき、《レーン》を真っ直ぐ走るという落とし込みが、1トップ・2シャドーには必要でした。何度も言うように、そうすれば相手2人を困らせることができるからです。

図4

 また、《レーン》を真っ直ぐ走るということは、ゴールに対しても真っ直ぐ向かうことができるということです。基本的に1トップ・2シャドーはペナルティーボックスの幅に留まっているので、走ってボールを受けたとき、トラップしながらグッと前へ行くことができればそのままゴールへ向かうことができるのです。さらに、直接ゴールへ行けない位置にボールが出たとしても、相手GKとDFの間にクロスを折り返すことができれば、1トップと逆側のシャドーで必ず2枚は飛び込める状況です。真っ直ぐ《レーン》を走ることで、このようなチャンスを確実に増やすことができるのです。

 とはいえ、相手の守備は大体、中に絞ってくるので、その原則を踏まえれば、最終的にはシャドーよりもWBが空くことが多くなります。シャドーとWBの動きをセットで考え、それに伴う動き出しを、私たちは整理していきました。ちなみに、私たちに「真っ直ぐ走る」という概念を与えてくれたのも、石原のランニングでした。キャンプの練習試合の映像をコーチ陣と一緒に見ながら、彼が常にCBの外側にプルアウェイしDF間に立ち位置を取っていること、そしてそこからのランニングの向きが真っ直ぐになっていることを、確認することができました。私の部屋でコーチ陣と夜な夜な話し合ったことは、今でもはっきりと覚えています。

 その意味では、最初からこうした明確なセオリーを選手に提示できたわけではありませんでした。本当に一緒に作り上げていく感覚でした。《レーン》については、特に石原と小林慶行コーチが何度も話をしてくれました。石原も私に「シャドーがそこにいてくれないとダメですよね」など、盛んに戦術的な話をしてきました。キャンプ中の石原のプレー映像を作って選手に見せることもあったくらい、もう本当に〝石原先生〞でした。そして、これらの要素を踏まえ、相手の背後を取ることを習得するため、私たちがキャンプから行ってきたのが、このファンクション・トレーニングです〈図5〉。シンプルに《レーン》を走ってシュートまで行く、という内容ですが、1トップの選手がプルアウェイしてCB間の《レーン》に立ち、それに呼応してシャドーの選手も同じように《レーン》に立ち位置を取ります。パスの出し手に対し、2つの《レーン》をランニングして一気に背後を取るか、あるいは下りたシャドーの足元に楔を刺すかという選択肢を与えます。もし下りたシャドーが足元で受けたのなら、ワンタッチで反対側のシャドーへ展開しコンビネーションを生み出します。

図5

 このように、全体の良い準備がなければ、せっかく良いタイミングで《レーン》を走った1トップがいたとしても、選択肢は一つで終わってしまいます。相手を困らせた後、素早くスピードアップして次の仕掛けが行えるよう、トレーニングを重ねました。これと併せてトレーニングしたのは、相手DFを《剥がす》動きです〈図6〉。

図6

 こちらはワイドを起点にしたとき、そのワイドにいる選手と対峙した相手の内側をシャドーがインナーラップする動きのことを指します。相手の最終ラインの1枚をべりべりと剥がす、というイメージです。この動きでペナルティーエリアの端が取れればよいのですが、なかなかそうもいきません。しかし、たとえ一発で取れなくても、その犠牲的なランニングによって相手DFが1枚でも付いてくれば、剥がしてくれた場所には必ずスペースが生まれます。だから、剥がした後、次にそこを誰が使うのかをセットでアイデアとして持っていれば、WBがボールを受けたときの選択肢が増え、相手の守備組織を崩すことができるのです。

 ただ、このシャドーの《剥がす》動きについては、様々な捉え方があります。WBに1対1で勝負させるために大外のスペースには剥がしに行かないことも一つで、選手の特徴を踏まえたとき、あえてWBの横、いわゆるハーフスペースに立ちサポートに回ることも一つです。走力に自信があり、勢いとパワーを持って積極的に剥がしに行くのか、あるいは留まってサポートするのか。いずれにしろボール保持者(このシチュエーションではWB)に選択肢を増やすことが重要です。

 そして、この《剥がす》動きを一番うまく実践できたのが、後にロシアへ移籍することになった西村拓真です。彼は石原や野津田岳人のプレーを見ながら学び、本当にタイミング良く、ダイナミックな動き出しができるようになりました。彼以外では奥埜博亮も非常に効果的なアクションを繰り出せていました。


つづきは『ポジショナルフットボール 実践論 すべては「相手を困らせる立ち位置」を取ることから始まる』からご覧ください。


ポジショナルフットボール

【商品名】ポジショナルフットボール 実践論 すべては「相手を困らせる立ち位置」を取ることから始まる
【発行】株式会社カンゼン
【発売日】2020/10/14

【書籍紹介】
渡邉晋は《切る》《留める》《解放》など独自の言語を用い、
ベガルタ仙台に「クレバーフットボール」を落とし込んだ。

実は選手を指導する際、いわゆる『ポジショナルプレー』というカタカナ言葉は一切使っていない。

にもかかわらず、結果的にあのペップ・グアルディオラの志向と同じような「スペースの支配」という攻撃的なマインドを杜の都に浸透させた。

フットボールのすべては「相手を困らせる立ち位置」を取ることから始まる――。

ゴールからの逆算、すなわち「良い立ち位置」を追い求め続けた監督時代の6年間を時系列で振り返りながら、
いまだ仙台サポーターから絶大な支持を得る「知将」の戦術指導ノウハウをあますところなく公開する。


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