ビルドアップ時、センターバックはなぜ開く? CBが「見る」べきものとは
2019年03月23日
戦術/スキル近年のサッカーは、ポジショナルプレーや5レーン理論など、様々な用語が飛び交っている。例えば、ビルドアップ時にセンターバックが開く動きは、ジュニア年代でもよく見られる光景だが、指導者や選手は、なぜ開くのかを理解しているだろうか。今回は鹿島アントラーズや日本代表などでプレーした岩政大樹氏の新著『FOOTBALL INTELLIGENCE 相手を見てサッカーをする』から「センターバックのポジショニング」について、理解を深めていきたい。
著●岩政大樹 写真●佐藤博之、鈴木康浩
『FOOTBALL INTELLIGENCE 相手を見てサッカーをする』より一部転載
ビルドアップ時にセンターバックが「開く」理由
センターバックは視野に関しては難しくありません。特にビルドアップの時は最後尾から全体を見渡しながらプレーできるので、体の角度は意識しなくても全体が見えている状態です。
ただ、忘れがちなのが、ボールが来る前に、ボールと逆サイドの状況を見ておくことです。攻守において、右にボールがあるなら左を、左にボールがあるなら右を見ておく意識は忘れないように考えておかなくてはなりません。
というのも、センターバックはボールを持って判断する時の選択肢に「見えていないもの」は決して入ってきません。ミスが許されないポジションだからです。
ただ、ボールサイドの状況というのは最悪、ボールが来る途中に瞬時に把握することができます。しかし、ボールと逆サイドはそうもいきません。ボールが来る前に見ていなかったら、ボールから目を切って見ることなどできないので、必ずボールが来る前に絶えず移り変わる逆サイドの状況を見ておかなくてはならないのです。
私はよく思うのですが、センターバックの選手が慌てたり、判断ミスをしたりする時はだいたい「ボールと逆サイドを見ていなかった時」です。「視野(目線、角度)」は「逆サイドを見ておくこと」。これは意識づけと習慣でほとんどが解決できます。それが済んだら、あとは相手に対する「立ち位置」です。「視野」の中でも当然、逆サイドを見ながら「相手」を把握しているわけですが、大事なのはここからの「立ち位置」の定め方です。
ビルドアップ時のセンターバックに出される指示でよく聞かれるのが「開け!」という声ですが、開いた選手たちに「なぜ開くの?」と聞くと答えられない選手ばかりです。これでは意味がありません。開くことは相手の立ち位置に関わらず通用する万能のポジショニングではありません。それなのに「開け!」の声に判断なく開く選手は、相手に対応されると立ち位置を間違えることが多くなります。
センターバックが開くことの目的は、まさに「ボールを受けたときに、相手に自分と相手ゴールを結んだ線上に相手を立たせないこと」です。
つまり、立ち位置を定める基準となるのは「開くこと」ではなく「(自分に対応している)相手からずれること(相手に正面からアプローチされないこと)」。
つまり“相手”を見て決めるべきものです。
後ろでビルドアップに入る場合、相手は中央をやらせないために当然、中を閉めます。相手が中を閉めるから広がります。広がって、相手とずれたところでボールを受けると、相手のアプローチは正面からではなく、少し中からになります(図3)。そうすれば、縦パスを入れたり、前に運んだりという選択肢を持つことができます。
“前へ”の選択肢があれば相手は基本的に狙いを定めることができません。そうすれば、全体は下がらざるを得なくなります。その時点で先手が取れたことになるのです。
相手を基準に考えれば、判断は明確になる
「結局広がるなら同じではないか?」と思われた方もいるかもしれません。確かに、ほとんどの場合そうです。しかし、大事なのはここで、基準が“相手”であることを知っておくことが選手の判断には重要なのです。
例えば、次のようなケースがあります。
ビルドアップに入った時に相手2トップが中を閉めてきたから開く。ここまでは前述したのと同じです。
しかし、ボールを回している間にトップが開いて、それぞれがセンターバックを正面で見ようとしてきたらどうでしょうか? そのまま開き続けるとセンターバック同士の距離が開きすぎてしまいます。
こういう場合によく見られるのが、センターバックの間にボランチの選手が下りてきて3バックのようにする動きです。あるいは、チームによってはゴールキーパーが高い位置をとって二人の間に入るようにすることもあるでしょう。チームとしてのオーガナイズはそれでいいと思いますが、試合の状況によって二人の間に誰も入れない状況だったらどうしましょうか。
その時こそ「考えろ!」という声が飛びそうですが、この時の「考える」の基準が「(自分に対応している)相手からずれること(相手に正面からアプローチされないこと)」であれば、こういう場合でも判断は明確になります。
何も外側だけに外す必要はなく、内側に外すことが有効な場合もあるでしょう。とにかく、「自分と相手ゴールを結んだ線上に相手を立たせないこと」を考えればいいのです(図4)。
基本的にセンターバックへの高い位置からのハイプレスというのは、ボール保持者に正面からアプローチをした瞬間がスイッチになります。正面を抑えなければ、裏へ蹴る選択肢を持たれてしまうので、蹴られそうになると裏への対応をせざるを得ず、ラインは下がるからです。
よって、センターバックへのハイプレスは正面からとなります(ハイプレスではなく、縦方向への誘導をする場合は中からいく場合ももちろんある)。縦への選択肢を消せた時がチャンス。一気に襲いかかってハイプレス→ショートカウンターに持ち込もうとします。
逆に言えば、センターバックは常に縦への選択肢を持てる状態でボールを受けることが大切です。相手が縦方向にポジショニングしてきた場合には素早くそれを察知して、“寄るか、離れるか”の判断をしなくてはなりません。「離れる」より「寄る」が解決策になることもあるのです。
※続きは発売中の『FOOTBALL INTELLIGENCE 相手を見てサッカーをする』をご覧ください。
<プロフィール>
岩政大樹(いわまさ・だいき)
1982年1月30日生まれ、山口県出身。東京学芸大から鹿島アントラーズに加入し、2007年からJリーグ3連覇に貢献した。3年連続Jリーグベストイレブンに選出された。2010年南アフリカW杯日本代表。13年に鹿島を退団したあとタイのテロ・サーサナ、ファジアーノ岡山、東京ユナイテッドFCを経て18年に現役を引退。ベストセラーとなった『PITCH LEVEL』(KKベストセラーズ)でサッカー本大賞2018受賞。解説や執筆を行うかたわら、メルマガ、ライブ配信、イベントを行う参加型の『PITCH LEVEL ラボ』を開設するなど、多方面に活躍の場を広げている。
【商品名】FOOTBALL INTELLIGENCE 相手を見てサッカーをする
【著者】岩政大樹
【発行】株式会社カンゼン
【判型】四六判/304ページ
【価格】1,600円+税
【発売】2019年3月18日発売
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