「守備はつらくて、つまらないもの…」。ではない! 元Fリーガーが提唱する新たな守備の概念『枝D』とは
2020年07月22日
戦術/スキル8月5日(水)に『枝D ボールも自由も奪い取る術〜守備からみるフットボールの新しい景色〜』が発売予定である。この本の著者である内田淳二氏は日本最高峰のフットサルリーグ「Fリーグ」などで長年活躍してきた。内田氏は、2014年に5種類の「型」を軸とした新たな守備の概念『枝D』を考案。現在も地域リーグでフットサルを続けながら、その画期的かつ理論的な守備概念をより多くのプレーヤーに届けるための活動を続けている。そもそも「えだディーって何?」「内田って誰?」という人のために、インタビューを実施した。『枝D』の基本的な考え方だけではなく、「フットボールにおける守備」の根底を見つめ直しながら、「ディフェンスが楽しくなったらフットボールは最高に面白い」という、本質的な話へと行き着いた。
※この記事は2019年7月に掲載した記事を加筆・再編集したものです。
取材・文●本田好伸 写真●ジュニサカ編集部
必殺技は不要
内田氏自身、「守備が嫌いで、苦手だった」。しかし2014年、フットサルブラジル代表にも携わっていたバウミール氏の指導者講習会に参加した際の「フットサル=ディフェンス」という言葉が人生を変えた。その言葉がずっと引っかかり、そこからボールの跳ね返り方を研究、緻密な分析と自身の経験を照らし合わせながら、現在の理論を確立させていったのだ。
あえて声を大にして言うが、「このインタビューを読むか読まないかで、今後のフットボールの楽しみ方が大きく変わる」と断言しよう。なぜなら、フットボールを攻撃と守備に大別したうちの一つである「守備」が、「嫌い」から「好き!」、もしくは「面白い!」へと変化してしまうからだ。おそらく、守備に対する世界観が180度、変わるに違いない。
――『枝D』というネーミングからして謎めいていますよね。
自分の体を木に見立てて、体重が乗っているほうの足を木の幹、もう一方のアタックに行く足を枝とイメージして『枝ディフェンス』と名付けました。
──どうして「枝」だったのでしょう?
DFの際の形や自分の中でのイメージです。もともとコピーライターをしていたので言葉いじりが好きだったということもありますね。僕自身、守備は嫌いでしたし、苦手でした。でも、守備を見るようになってから(ボールの)跳ね返りや(相手にアプローチする)角度が分かって、ボールが残って、マイボールにできるということに気がついてからはすごく楽しくなったんです。そのときに、もし子どもたちがこのことを知らないままプレーを続けていたら、自分と同じようにDFが嫌いなままになってしまうだろうと。子どもたちに伝える際にイメージしやすいものは何かと考えた結果が、枝だったわけです。
──最初から、子どもや誰かに伝えることを前提としていた。
それが一番にありました。個人的には「指導」という言葉が好きではなくて、「教える」わけではなくて「伝える」という意識です。コピーライター時代とリンクする部分なのですが、当時は、自分の意見を押しつけるようなタイプでした。でも、心理学であるとか、いろんなことを学ぶうちに、自分の考えがいかに小さいものかを知りました。キャッチコピーをつける際に、「通行人でもわかるコピーを書け」と言われていたことも重要な考え方でした。当時は、分厚い本を与えられて「この本がうちの会社にどのような利益を生むのか1行でまとめろ」と言われました。さらに、その理由をA4用紙1枚にまとめなくてはいけなくて。そういう作業をしていると、すごく上手な人とそうではない人の違いが鮮明になりましたし、余計なものを削ぎ落としていくという作業を意識し始めたんです。だから、子どもが一番わかりやすい形は何か、と考えていました。
──子どもをイメージした「必殺技」にはならなかったんですか?
必殺技のようなキャッチーさは不要でした。ドリブルやシュート、派手なパス回しであれば食いつくと思いますが、そもそも守備は嫌いで、興味が薄いもの。そういう人にどうやったら興味を持ってもらえるかを考えたら、ちょっとした面白さが必要だなと。「型」の名称も、親しみが出る人名にしました。
──「中西」とかですね。
お腹の中(内側)から行くから「中西」。相手の利き足から止めにいくディフェンスなのですが、その動きはお腹のほうに進んでいきます。仲間との会話で「利き足から行くやつ」というと面倒なので、短いワードで共有できたらいいなと。「中西」はすぐに浮かびましたね。
──「西」は?
響きです(笑)。イントネーションですね。中といえば中西でしょって(笑)
──次が「縦山」。
中西で利き足からアプローチした際に、相手が次に逃げるアクションを止めるのが「縦山」です。縦(方向)から行くと。「縦」と言ったら「山」だなと(笑)
──3つ目は「間(はざま)」です。
股の間から相手の懐に入る方法ですが、文字どおり股の「間」。じゃあ「はざま」だなと(笑)
──いわゆる中、縦、間の3つの角度からのアクションですね。
そうです。最初はその3つの動きを体系化して、クリニックを回っていました。そうしたら、足りない動きが出てきました。それが、“裏技”となった「裏中西」と「裏間」です。
──最初の3つに対応されてしまったから生まれたのですか?
いえ、僕がその動きを認知していませんでした。それまでは3つで押さえられると思っていましたが、相手の動きをさらに注意深く分析していくと、逃げられてしまう動きが2つありました。そうして6つ目の存在を探したのですが、どうやっても見つかりません。つまり、5種類の「型」で十分という結論でした。
──6つ目は存在しない?
守備とは逆側の立場になって攻撃を見ていくようになったのですが、自分の体の動きは、最終的にはどこかの型に戻ってきます。ループしている。最初は平面的に型を捉えていましたが、それぞれの型は円を描くようにつながっていました。ということで、理論上は5つの動きですべてをフォローできますね。
【新たな守備の概念『枝D』を提唱する内田氏】
『枝D』とは、ケガをさせずにボールを残すための理論
──少し意地の悪い質問かもしれないですが、その5つを超えられる選手は存在しますか?
超えられる選手?
──例えば、世界最高の現役フットサル選手といわれるリカルジーニョが超える可能性は?
ないです。
──ない?
少し語弊がありますね。例えばスピードが速すぎてぶち抜かれるとか、フィジカルがすごくて取れないといった可能性はあります。ただ、リカルジーニョが6種類目を出せるかどうかという点では、単純に体の構造上、5種類しかありあえないということです。
──なるほど。
あと、こうやって「型」としてお伝えしているからこそ勘違いさせてしまっている面もあるのですが、この理論は単純に1対1で奪うことではありません。そもそも1対1でボールを奪おうとすること自体が僕からするとエラーです。
──え、そうなんですか?
常にグループになって、できる限り数的有利な状態で取りにいって、奪ったら自動的に数的有利な状態で攻撃ができるということが根本的な仕組みです。
──枝D理論は1対1ではなくてグループ守備だと。ただし、ボールゲームの最小単位は1対1という考えもあります。そういう捉え方ではない?
それは「規準」からお話する必要があります。『枝D』には7つの規準があって、フットボールの本質は、それですべてを網羅できます。フットボールという分厚い本を7ページに集約したイメージです。
──そのテキストがほしいです(笑)
その中の一つに、「三角形+1」という規準があります。これはナンバリングという考え方なのですが、ボールに近い選手から1番、2番、3番と番号を振り分けて、順番にそれぞれの役割をまっとうしていけば、結果的にそれが三角形になっています。「ボールを残す」には最低でも3人、カバーに1人が必要です。
──ということは、一人だけが理解していても、残りの2人ないしは3人が理解していないと成立しない?
これも規準の話ですが、「時系列」と「高さ」というキーワードがあります。フットボールはカオスのようですが、すべてが同時に起きているわけではなくて、ちゃんと見ていくと、順番に起こっている事象です。だからこそ、一つずつ「時系列」に沿って対処できます。順番に対応していくので、エラーが起きても、原因を特定できます。ただこうしたものは、現状のサッカー日本代表でも整っているものではありません。1番目がどちらに誘導するのか明確ではないので、2番目、3番目もズレていきます。
──よくDFは「縦を切れ」とか「中を切れ」と言いますよね。その考え方が近いですか?
近いと思います。でもそれは「システム」の話です。僕はシステムにはこだわっていません。やはり「3人+1」の人数比が大切で、あくまでも規準となるのは「高さ」と「時系列」。例えばサッカーで「4-4-2」の対策を立てたとしても、別の相手が使う「4-4-2」は微妙に違うはずです。ボールホルダーの癖も11人が全員違いますからね。システムの中にある選手一人ひとりの「逃げ方」が異なるので、アプローチも違ってくるはずです。システムだと、「うちは4-4-2にはこうやって戦う」という形の話になってしまいます。選手それぞれの持ち方も視野も違うので、それではハマらないというのが、僕の考え方です。ボールは1つで、そこに意思はないので、あとはボールを持つ選手のマインドに先回りすればいいだけ。ボールホルダーに対して、5種類の型のうちのどれで立ち向かえば圧力をかけられるのかということです。
守備がすごく楽しいと思えたら、このスポーツは最高すぎる
──そもそも、守備はどうして嫌われるのでしょうか?
仕組みがよくわかっていないので効率が悪くなり、取れないから面白くないですし、何も残らないということがあると思います。指導者も攻撃に偏り気味で、ボールを取って「ナイス」と言うことがある一方で、抜かれたら大抵は怒られます。結局、ゴールを決めた選手が評価されます。つまり、ハイリスク・ノーリターン。そういう文化的な背景にも原因があると思っています。
──たしかに。
例えば「鳥カゴ」ってありますよね。あれでますます守備が嫌いになります。4対2や3対1は、そもそもDFが不利な設計ですから、それを毎日のアップでやっていたらジワジワと嫌いになります。取れない状況で「取れ」と言われ、罰を与えられ、しかも「鬼」と言われる。誰がやりたいのかと(笑)
──では、内側のDFは3人か4人ですね。
4対3、5対4でやりますね。DFに少し負荷をかけたいので数的不利にはします。でも、取ったあとに、全員でパスを経由して点数を競うというように、(DFから始めて)どれだけ得点を奪えるか。それをグループで争うような仕組みでやります。よく、外側の選手に「2タッチ以内」とか「ダイレクト」といった制限を加えますよね。でもそれはパス交換のリズムが早くなるので、守備が難しくなります。逆に、取れるような環境、人数比、「3タッチ以上」というようなボールを持つ時間を長くしてあげる制限がいいと思います。攻撃の視点ではなく守備で奪う喜びを感じてもらえる設計にするといいのかなと。そういう理解がないまま「寄せろ」と言っても「嫌い」が加速するだけ。まずは成功体験を積んでもらえるようにしないといけないと思います。
──ボールを取れる喜びを知って守備が楽しくなる。
みなさんそう言いますね。型を伝えて実践すると、目の前の相手がすごく嫌がるようになる。それだけですごく成果を感じますし、それをグループで狙いどおりに追い込んで取れたら、超気持ちいい。嫌いでも必要だから頑張れというのは簡単ですが、頑張れないマインドの人に対して守備だと言っても頑張れません。エースが守備をサボっているけど試合に出場し続けていたりすると、余計に報われないのかなと思います。
──オフェンスはみんなが好きだからこそ、守備が好きになればチームはすごくいい方向に進む。
まさにそう思っています。
──ということは、指導者は守備を楽しめるようなアプローチがいいですね。
そうだと思います。フットボールは大きく分けると攻撃か守備しかありません。『枝D』を始めた当初は毎回アンケートを取っていたのですが、500人くらいの回答をデータにしたら90%以上が「嫌い」「苦手」「怖い」と答えていました。「必要だから頑張る」が数%でしたし、そもそもが「嫌い」というマインドなんです。思った以上にみんなが嫌いなんだなと(苦笑)。それでふと思ったのですが、片一方が超嫌いなのに何十年も続ける人がいるスポーツは他にあるのだろうか、もし仮に、守備がすごく楽しいと思えたら、このスポーツはとんでもない可能性を秘めているのではないか…と。
──みんな、攻撃へのモチベーションでプレーを続けている。
守備が好きになったら、すごいモチベーションになりますよ。「守備が大事」という指導者がどうしてそれでも守備をしないのかというと、守備のやり方がわからないからという結論になりました。ボールを奪ってマイボールにしたいけど、相手は思うように動いてくれない。つまり、コントロールできないものだと思っている。先ほどの1番目が決まっていない状態ですね。システムの話で完結してしまうと、異なる逃げ方をする相手に対応できないので、現象が読めない。すなわちトレーニングできないので「頑張れ」となる。
──それを分析すれば、5種類の型で対応できる。
いろんな現象を現場で見て、削ぎ落として、これだけは外せないというものが残りました。自分の中にあった答えではありません。現象を整理していったらこうなったという事実。詳しくは講習会でもお話ししますが、ボールに行くというより幹と枝、腕を使って相手の重心を崩すものなので、ケガもしないですし、ファウルもしない、得点にもつながる。僕としてはやらない手はない。でも「これが正解」と押しつけるつもりはありません。みなさんのプレーの反応を見ながら考えて、どんどんよくしていこうとやっていって作られたもの。絶対に正しいとは思わないですけど、これが守備の事実ではあると思っています。
<プロフィール>
内田 淳二(うちだ じゅんじ)
枝Dの人。1981年2月27日生まれ、東京都町田市出身。ピヴォとしてFリーグのシュライカー大阪などで活躍し、2009年にFUGA MEGURO(現フウガドールすみだ)で全日本フットサル選手権優勝を経験。現在は関東1部のカフリンガ東久留米でプレーする傍ら、5種類の「型」を軸とした新たな守備の概念『枝D』の普及活動を全国各地で行っている。
【商品名】枝D ボールも自由も奪い取る術〜守備からみるフットボールの新しい景色〜
【発行】株式会社カンゼン
2020年8月5日発売
枝D(ディフェンス)とは、元Fリーガーである内田淳二氏が考案するまったく新しいディフェンス理論のことです。
サッカーやフットサルはもちろん、ゴールを目指す球技であれば、広く活用することができる概念です。
枝Dは、意図的に数的優位を作り出せる攻撃的なボールの奪い方のことで、自分の足元にボールを「残す」ことができます。
なぜ「残す」なのか ?もちろん答えは1つ。全ては得点(ゴール)のために─。
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