熱中症は「活動前の水分補給」で予防しよう! 状況にあった最適な水分のとり方は?
2019年08月06日
フィジカル/メディカル「運動中は、こまめに水分補給を」。近年のスポーツ現場では、熱中症のリスクとともに水分補給の重要性が広くうったえられています。その一方で、まだ意識が高まっていない現状もあります。活動中の水分補給も大切ですが、活動前から体内にしっかりと水分を蓄えておくことも重要なのではないでしょうか。そこで、8月は「朝からの食事で水分を蓄える」と題し、運動前の効果的な水分補給の仕方について、管理栄養士の川上えり先生にうかがいました。
監修●川上えり/構成●北川和子
補水と保水がキーワード。活動前の水分補給
今は、すでに夏休みの真っ最中です。宿題、レジャー、帰省、習いごとなど、ご家庭でもさまざまな予定が詰まっているお子さんが多いのではないでしょうか。夏休み期間中のジュニアサッカーの活動は、いつもの練習に加えて、合宿や遠征を通じて特別な練習メニューを体験する機会も増えると思います。
ただ、どんな活動をするにしても、夏にカギとなるのはやっぱり「水分補給の仕方」です。「運動中には、こまめに水分補給を」という言葉は、もう広く認識されていることでしょう。スポーツの現場でも指導者の声のもと、きちんと水分を取っている子どもが多いと思います。その一方で、数時間後に練習に備えて、体に水分を蓄えておくことについては、その重要性がまだあまり伝わっていないように感じています。
そこで、今月は「朝からの食事で水分を蓄える」をテーマとしました。
第一弾は、練習を控えた朝の水分補給の重要性や、体に必要な栄養と水分をバランスよく摂取できる理想の朝ご飯メニューについて解説していきます。ジュニアサッカーをはじめ、スポーツ活動の現場ではこまめに水分補給の時間が設けられていると思います。しかし、「試合や練習がある日には、朝のうちに水分を多めに補給しておこう」と声をかけているクラブは、そう多くはないと思います。
プロのアスリートの中には、体内に水分を蓄えておくために試合の前日からいつもより多めに水分を補給している選手がいます。また、朝起きてから練習が始まるまでの間に決められた水の量を、少しずつ飲むことを選手に啓発しているチームもあります。
つまり、活動中だけでなく「活動の前から水分を体に蓄えておくこと」は、ベストパフォーマンスを引き出すためには欠かせないことなのです。トップアスリートのように厳密に水の量や時間を測って飲むことまではしなくても、小学生の頃から子どもに「活動前の水分補給」を意識してもらうことはとても大切です。実際に「のどが渇いた」と感じたときには、すでに脱水が始まっていて、水分はのどの渇きを感じる前に摂ることが重要です。
「ごっくん」と水分を飲んでから体に吸収されるまでには、ある程度の時間を要しますから、練習前から体に水分を取り込むことを今夏から実践してもらいたいものです。暑さの盛りがやってくる8月、スポーツに打ち込む小学生の子どもがいるご家庭では、朝ご飯の段階から「保水」と「補水」を意識したメニュー作りをして頂きたいと考えています。
水分補給の方法は運動前と最中ではどう違う?
それでは、運動前、運動の最中とどのようにして水分補給を行っていけばいいのでしょうか。
その前にまず知っておきたいのが、人間の体に含まれる水分量です。およそ体重の50~80%が水分で、成人男性と比べると、子どもの方が水分の割合が高い傾向にあります。個人差はあるものの、小学生年代の子どもにとって1日に必要な水分量の基準は1.5L程度だと言われています。当然、運動量が多い日には発汗量に応じて補給量を調整します。
ここで注意してもらいたいのが、「最低限、必要な水分量1.5L」を「どんな飲み方で1.5L飲めば命の安心安全につながっていくのか」ということです。
人間が水分を吸収できる量は限られていますし、一度に飲むと、お腹の中がタポタポになってしまいます。水分補給の仕方でベースとなるのは、運動前後にかかわらず「のどが渇く前に、こまめに少しずつ」を意識することです。そして、それは練習を控えた朝から始まっています。水や麦茶とともに、食事や果物に含まれる水分を摂取して、体に水を取り込んでおくこともとても有効です。なぜなら、取り込んだ水分が吸収される時間を踏まえての行動だからです。さらに、運動前30分にはおよそ250mlの水や麦茶を飲み、これから流れる汗に備えて、あらかじめ体内に蓄えていきましょう。
続いて、運動中の水分補給についてです。
運動中の水分補給のポイントは運動前とちょっと異なります。それは、運動中は体温が上がり、常に汗をかいている状態だからです。運動前の「保水」という目的から「失われた水分やミネラル分の補給を」という意識に切り替えることが大切です。
一度に大量に水分補給するのではなく、当然、運動中も「こまめに、少しずつ」がポイント。一般的には、15分程度に1回200ml~250mlの水分を補給することが推奨されています。一回に「ごっくん」と飲む量は、約20ml~30ml。小さな子どもには「○回ごっくんしようね」と教えてあげるのもいいようです。
発汗が激しいときには、真水を補給するだけでは、体内の塩分濃度のバランスが崩れてしまいます。そうすると、結果的に疲労がたまりやすくなり、運動のパフォーマンスの質が落ちる可能性があるため、真水やお茶だけではなく、疲労予防のための糖質、失われたミネラル分を補給するために塩分を含んだスポーツドリンクを上手に活用しましょう。
一つ避けてもらいたいのが、スポーツドリンクを水で薄めてしまうことです。
保護者や指導者の中には「糖質の過剰摂取」を懸念して、スポーツドリンクを薄めて子どもに与えている方もいるようです。スポーツドリンクの濃度は人体への吸収力を高めるために最適な濃度として作られているものなので、運動の最中の素早い水分補給を目的とするのであれば、薄めずに飲みましょう。
子どもが「自分の体調」を観察する訓練を
さきほど「のどが渇いている」状態が、脱水の始まりだとお伝えしました。
しかし、運動前後に関わらず、子ども自身がのどの渇きを自覚する前に水分補給をするのは難しいものです。特に小学生の子どもの体調管理は「親の目」「親の手」が欠かせません。それと同時に、子ども自身が折に触れて自分の体調の変化と向き合い、気候や体調に応じた水分補給の習慣を身につけておくことは、将来のサッカー活動の質にも関わるのではないでしょうか。
子どもが自分の体に関心を持つひとつのきっかけにできる簡単な方法があります。それは、自分で「尿の色をチェック」することです。まず、子ども自身がいつもの尿の色や状態を把握することが大事です。そこで、普段より尿の色が濃かったり、ニオイがいつもより強くなったりした場合には、水分量が足りていない状態だということを教えてください。
「おしっこの色が濃かったら、体の水が足りていないサインだよ」
「おしっこの色はいつも通りだから問題なし」
などと、コミュニケーションの延長線上で子どもにセルフチェックを促すといいでしょう。便が体の状態を届ける「体からのお便り」だとすれば、おしっこは「水分の状態を知らせるバロメーター」です。
「おしっこの色はどうだった?」
そういう質問を通じて、自分の体調がどのような状態にあるのか観察する機会になると思います。尿の色のチャートと比べる時は、実際の尿はトイレの水と混ざって薄まりますから、ひとつ濃いものを目安として測るといいと思います。何より尿チェックは「普段と比べてどうか」という変化を見るようにするとでいいでしょう。
第二弾は、サッカーの練習や試合を控えた日に朝ご飯を通じて水分補給をする方法についてお届けします。
>>第二弾は来週8月13日(火)に配信予定
<プロフィール>
川上えり(かわかみ・えり)
管理栄養士。FCジュニオール(大分県中津市)の栄養アドバイザー。海外で活躍するプロサッカー選手の食事などをサポートし、チームの遠征・合宿にも帯同。アスリート向けのレシピ制作、子育てママ向けのコラム執筆など幅広く活動している。
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