GKの弱点を見抜けば勝率は上がる。決定不足を嘆く前に知っておくべき“相手GKの分析法”
2020年01月16日
戦術/スキル相手GKを分析することでチームの勝率はあがる。FC東京トップチームなどでGKコーチを務めたジョアン・ミレッ氏は、そう断言します。なぜ、GKを分析することで勝率はあがるのでしょうか? 今回は『ジョアン・ミレッ 世界レベルのGK講座』より、2019年9月に行われた「ヘタフェ対バルセロナ」の試合で実際におこった現象を例に出しながら解説している部分を一部抜粋して紹介します。
『ジョアン・ミレッ 世界レベルのGK講座』より一部転載
著●倉本和昌 監修●ジョアン・ミレッ 写真●Getty Images
相手GKを分析すると勝率は上がる
GKを分析することによるメリットはこうです。
・自チームのGKの修正と改善、チーム力アップ
・他チームのGKの特徴を掴み、弱点を突く
「監督がGKのことを知らないからGKが改善されない」と何度もこの本の中で話をしていますが、裏を返せば「監督としてGKのことを知れば、試合に勝つ確率は上がる」ということになります。
対戦チームの分析をしたとしても、相手のGKの癖や得意なプレー、不得意なプレーまで分析している人はいません。その理由は分析の基準がないからということと、GKに重きを置いていないからです。
しかし、GKが攻略できれば試合で勝つ可能性は高まります。
なぜなら相手のゴールを守っているのはGKだからです。そのGKの不得意なプレーを知ること、その基準を持っておけば「相手を攻略する方法」が出てくるはずです。
友人のKAZU(翻訳者)は、この話を私としてから常に相手のGKを分析するようにしたそうです。その結果、どういうことが起こったか? それは本人に聞いてみてください。
私は「GKを準備する人」です。あなたの対戦相手で直接私が知らない選手であってもGKとして弱点を話すのは辛いのです。
とはいえ、全てを秘密にしてもGKの向上にはなりませんので、この章では、どこを見ると良いのか?それはなぜなのか?という相手GKを分析するという視点でお話をさせてもらいます。
例 ①GKのポジションはボールに合わせているか?(ポジショニングに基準があるか?)
一番わかりやすいのは、そのGKがボールと連動してポジションを取っているかです。詳しくはもう一度ポジショニングの章を読んで頂きたいのですが、見やすいのはディフェンスラインとGKKの距離感です
それぞれ味方のディフェンスラインがどこにいるか? を見るわけです。起こりやすいのはGKがゴール前にへばりついて、全くペナルティーエリアから出ないという状況です。そうなることでディフェンスラインと自分の間にスペースを空けています。
この動きを見るためにはボールばかりを見ていると分析できないのはわかりますか?
相手のディフェンスラインが高いということは自チームは押し込まれていることになり、ボールを追いかけていれば相手のGKの高さを見ることはできないのです。
このスペースを埋めていないことでカウンターで狙うべき場所と何度か背後にボールを送ってみることでGKが出てくるかどうかをチェックできます。
前に出てきたテア・シュテーゲンからのロングパスで裏に抜け出したスアレスがループで見事なゴールを決めるシーンです。
テア・シュテーゲンのロングパスからスアレスがワンタッチでループシュートを放ち、得点を奪った場面。最終ラインとGKの間が大きく空いてしまっていることがわかる
■LaLiga Santander公式「ヘタフェ対バルセロナ」ハイライト動画
スペイン中の新聞は「素晴らしいテアシュテーゲンのロングパス!」と大絶賛。ヘタフェの監督も「こんな子どもの試合のような失点はあり得ない。ロングボールの予測もなく、スアレスにスペースと時間を与えてしまった。」とコメントしています。
私はみなさんに聞きたいです。
「本当でしょうか?」
GKを準備する人であれば何がおかしいかもう気付いたはずです。
フィールドのコーチや監督はこのような失点をした時に何が原因だと分析していましたか?
ボールの失い方が悪かった? 取られた瞬間の切り替えが遅かった? DFの予測ミスでもありません。
時にはセンターバックはボールの方を向いている、相手のFWはそのままゴールに向かって走るだけになっていて、DFは反転しなければいけない分、遅れるという分析をする人もいるでしょう。
「本当にそうですか?」
この失点、何度も見てみてください。
テア・シュテーゲンがボールに触ったのはペナルティーエリア外、つまり相手コートのゴール前までロングボールが出ているのです。しかし、この時もヘタフェのGKは正しいポジショニングを知らず、ペナルティーエリアの中に留まっています。
もし、正しいポジショニングを取っていたら? ロングボールが来たとしても簡単にGKがクリアして終わりです。
これはトレーニングで改善できることではなく、「戦術的知識として知っているか知らないか」です。
つまり、GKコーチがGKに正しく教えることができてるかどうかになります。プロのトップレベルの選手でも基準がなくプレーしているわけですから、育成年代の選手が自然とできるようになることを期待するのはおかしいでしょう。
そしてポジショニングを教えるには「頭」からアプローチしなければいけません。
これも実際にあった話なのですが、私がポジショニングを伝えるための説明をしていたら、後から監督に「ちゃんと練習しろ!」と怒られたことがあります。
きちんとその時の練習の意図と「ポジショニングを理解するために大事な説明なんです」と監督に伝えたら、なんて言われたと思いますか?
「そんなの必要ないし、意味がない」と言われました。
そのような監督は毎回背後のロングボールで失点し続けてください。そして背後のロングボールによる失点の理由をGKとGKコーチのせいにしないでくださいね。
これは冗談ですが、監督がGKのことを知らなければいけないという一例です。
GKとディフェンスラインの距離が空きすぎている事象は育成年代に限らず、トップレベルの世界でも起こっていることなのです。
よく、監督が「ディフェンスラインを上げろ!」という指示を出してもなかなかあげられないという状況はどうして生まれてくると思いますが、その現象が起きる大きな原因はGKのポジショニングにあります。
DFの心理を考えてみましょう。毎回自分たちの頭を越えたボールを本来はGKが処理できるボールなのに、全然出てきてくれない。
するとGKを信用できないから毎回自分たちが下がって処理をするしかないとなっている状況です。
しかも夏場の暑い時期で、ディフェンスラインの上げ下げを繰り返していると次第にDFは辛くなって「ラインを上げるのをやめて待ち構えておこう!」となってしまうわけです。
そこに中盤の選手が連動しなければ中盤とディフェンスラインの間にスペースが空くことになります。もし、中盤の選手も連動して下がってくれれば、次は前線の選手も下がります。GKのポジション一つでチーム全体が後ろに引っ張られることになるのです。
ぜひ、フィールドのコーチのみなさんはボールに釣られずに、相手のディフェンスラインとGKの距離感がどうなっているかを分析してみてください。そこで相手の弱点が見えてくることがあります。
相手のGKがそうであれば、まず狙うところはどこかわかりますよね。
しかも、背後にボールを送った時にGKが出てくるか、来ないか見ることができますし、もし、出てこなかった場合に相手の監督、コーチはGKに対して「何と声をかけているか?」に注目してみてください。
万が一、味方のGKに対してコーチたちが「ビビらずに出ていけ!」と言っていたら、基準が全くなく、GKが出られないのは気持ちの問題と思っているということになります。
それを言われたGKは高い確率で次のボールは無謀なチャレンジをします。すると相手FWと入れ替わってしまうか、ファールで止めに行く。ここで大きな失敗が起こるとなおさら出られなくなるのです。
GKの準備ができていて、精神状態も安定しており、技術的にしっかりしていれば、いちいち監督が「上がれ」と言わなくても勝手にディフェンスラインは上がります。
しかもGKがコーチングしているから監督がいちいちベンチから叫ぶ必要がなくなるのです。
つづきは発売中の『ジョアン・ミレッ 世界レベルのGK講座』からご覧ください。
<プロフィール>
ジョアン・ミレッ
1960年11月1日生まれ、スペイン・カタルーニャ州出身。選手としてスペイン2部でプレーしたのち、1985年テラッサ(2部)の育成GKコーチに就任。2000~2012年までゲルニカ(4部)のトップから育成までのGKコーチを務めた。2013年に来日し、湘南ベルマーレのアカデミーGKプロジェクトリーダーを経て、2017~2018年までFC東京のトップチームGKコーチ。
【商品名】ジョアン・ミレッ 世界レベルのGK講座
【発行】株式会社カンゼン
2020年1月15日発売
【書籍紹介】
選手は海外のビッククラブに所属し、指導者も海を渡る。そんな時代が訪れ、日本のサッカーは、凄まじいスピードで成長している。しかし、数十年前と比べても発展しているとは言えないものもある。そのひとつがゴールキーパーのトレーニングだ。
GKはサッカーにおいても独自性が高いポジションであり、選手育成にも専門的な知識が多く必要になるポジションであるにも関わらずグラスルーツでは、大人が子どもにむかって強烈なシュート浴びせるばかりで、育成のためのトレーニングとは程遠いのが現状だ。
このままでは、体格や身体能力的に欧米人や韓国人に劣る日本からは世界に通用するGKは輩出されないのではないか? そんな状況を打破するためのヒントが、この本にはつまっている。
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