“フィルミーノ・ロール”とは? リヴァプールのFWに求められる「9番」の役割

2020年12月22日

戦術/スキル

伝統的な「9番」の印象とは何か。得点を取ることや前線で体を張ったポストプレーや裏への抜け出しなどが挙げられるだろう。しかし、そんな伝統的な「9番」とは一線を画す新たな役割を見せてくれているのが、リヴァプールで「9番」を背負うフィルミーノである。強力な攻撃陣を擁するリヴァプールの中で替えの効かない彼の重要な役割とは何か。12月14日発売となった『組織的カオスフットボール教典』から一部抜粋して紹介する。

文●リー・スコット 写真●Getty Images


「9番の役割」ではない「フィルミーノ・ロール」

 今回論じるのは、周囲のアタッカー陣のローテーションとポジション移動を可能とするために欠かせない基準点の役割を果たす選手、つまり「フィルミーノ・ロール」だ。

 なぜここで「9番の役割」ではなく、「フィルミーノ・ロール」という表現を用いるのだろうか。「9番」というのは、選手のポジションを背番号と関連付けて論じる時、[4-3-3]のCFに伝統的に割り当てられる一般的な番号だ。「6番」や「8番」「10番」、そして「9番」などが一般にそういった意味で用いられる。

 だが、この場合異なるのは、ロベルト・フィルミーノがチームにいるかいないかでは、リヴァプールのこのポジションの特徴が完全に変わってしまう点にある。2019シーズンの中でも、[4-3-3]のCFとしてサディオ・マネやディヴォック・オリジらの選手がプレーした試合もあった。もともとマネは左WGの位置から移動して中央のポジションでプレーする傾向が強いが、自身が「9番」を務める場合にはまったく違った光景が現れることがすぐに明白となった。マネは守備側の選手と肩を並べる体勢でプレーしつつ、常にDFラインの裏のスペースを使うことを狙い、スピードを活かしてスルーパスを受けようとする。

 選手のタイプを考えれば、これは驚くべきことではないだろう。マネはアウトサイドからインサイドへ入り込むプレーをする場合にもスピードと爆発的な動きを武器としており、相手の守備構造を読み取った上でDFラインの間に生まれるスペースを突く能力がある。この点では、マネはフットボール界で最も危険なアタッカーの一人だ。だが、「9番」の位置でプレーすると、そういったスペースが生じることが少なくなってしまう。相手DF陣を本来のポジションから引き出してスペースを作り出してくれる選手がいないためだ。

 それこそがまさにフィルミーノの役割である。リヴァプールがドイツ・ブンデスリーガのホッフェンハイムからこのブラジル代表を獲得したのは2015年のことだが、その時点ではFWを獲得したのか、攻撃的MFを獲得したのかも定かではなかった。ホッフェンハイムでのフィルミーノはより深いポジションでプレーすることが多く、そこから前方のエリアへと移動してFWをサポートしたり連携を取ったりしていた。だが、ユルゲン・クロップの下でフィルミーノは「9番」を不動のポジションとし、知能の高さを発揮してチーム全体の攻撃構造の基盤を成す選手となっていった。

 他のFWの選手、特にマネが中央のポジションでプレーすることもあったが、フィルミーノとはまったくタイプが異なっている。マネはDFラインを突破する動きを好み、ピッチの縦方向を大きく使ってプレーしようとするが、フィルミーノはピッチ上の深いエリアへ下がってきて他の選手たちに スペースを作り出そうとする。

 このスペースの創出こそが、リヴァプールが攻撃フェーズでボールを保持した際のゲームモデルの最も重要な部分のひとつだ。前線の3人がどう動き、どう連携するかはすでに以前の章でも見てきた。この連携こそが攻撃面のゲームモデルのカギを握る要素となる。前線から深いエリアへと下りてくるフィルミーノの動きは、両サイドのWGが内側へ移動して中央のエリアを使うチャンスを作り出すために欠かせないものだ。


全文は『組織的カオスフットボール教典』からご覧ください。


【商品名】組織的カオスフットボール教典 ユルゲン・クロップが企てる撹乱と破壊
【発行】株式会社カンゼン
【発売日】2020/12/14

【書籍紹介】
英国の著名なアナリストであるリー・スコットがペップ・グアルディオラの戦術を解読した『ポジショナルフットボール教典』に続く第二弾は、ユルゲン・クロップがリヴァプールに落とし込んだ意図的にカオスを作り上げる『組織的カオスフットボール』が標的である。

現在のリヴァプールはクロップがイングランドにやって来た当初に導入していた「カオス的」なアプローチとは一線を画す。

今やリヴァプールがボールを保持している局面で用いる全体構造については「カオス」と表現するよりも、「組織的カオス」と呼ぶほうがおそらく適切だろう。

また、クロップの代名詞だった激烈なプレッシングにも変化が生じ、もはやアイデンティティの主要部分ではなくなっている。
より効率的な形で試合のリズムをコントロールしようとしている最新のクロップ戦術が本書で赤裸々になる。


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