体罰、しごき、イジメ……理不尽な指導はなぜなくならないのか?「育成」のあるべき理想像を考える

2013年11月26日

コラム

指導者による体罰という名の暴力、執拗なしごき、非合理的な練習、放置される部員同士のイジメ、公式戦に出られない大量の補欠部員……理不尽な指導はなぜなくならないのか。加部究氏の近著『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(カンゼン刊)では、高校サッカーの現場を丹念な取材によってその実情、問題の背景をあぶり出すとともに、新風を吹き込む指導者の実例も挙げながら育成のあるべき姿も照らし出している。
本書のテーマは高校サッカーにあるが、ジュニア年代の指導者や保護者の方々にも、決して当てはまらないというわけではないはず。今回は、その内容の一部に触れて、「育成」のあるべき理想像を考えてもらいたい。

文●加部究 写真●編集部

 


そう簡単には一掃できない体罰問題

仙台育英学園高校出身の武藤真一は、ジェフ市原(現千葉)などでプロ選手として10年以上のキャリアを積み、現在は東京国際大学のコーチを務めている。

武藤が同校のサッカー部員に尋ねてみると、7割近くが体罰を受けた経験があると答えたという。東京国際大は、前田秀樹監督の方針で、スカウティング活動を行っていない。希望者は全員受け入れるスタンスなので、2013年4月時点で部員は300人に迫るほど膨れ上がっている。そこには強豪校の出身者もいるが、そうではない高校で部活を続けて来た選手も在籍している。そういう意味では、現代の一般的な傾向を反映していると言えるかもしれない。

逆にWEBサイト「フットボールチャンネル」のアンケート(注:3ページ目参照)は、今でもサッカー愛好者であり続ける人たちが高い割合を占めているので、比較的幸せな競技生活を過ごして来た人たちの比率が高かった。こうしたことを踏まえれば、今でも高校サッカー界では、少なくても5割前後は体罰を受けていると推測される。そして体罰や理不尽なしごきは、強豪校になるほど頻出していると見ていいだろう。

大阪市立桜宮高校バスケット部のキャプテンが自殺する事件が起こる前なら、おそらく体罰の是非は半々くらいに分かれたのではないだろうか。それまでは「生徒との信頼関係が築かれていること」や「生徒の行為が明らかに社会規範から逸脱していること」などを条件に、時には体罰も必要だという見解が高い割合を占めていたはずである。だが体罰や人権が焦点として浮上し、追いかけるように日本柔道界や元Jリーガーの指導者などの暴力事件が次々に明るみになると、たちまち世論は、体罰を完全否定する方向に傾くのだった。

裏返せば、今まで日本のスポーツ界では、いかに理不尽な指導が当然のこととして継続されてきたかを物語る。またこれだけ国中で体罰問題が議論されていても、依然として体罰が発覚し続ける状況を思えば、そう簡単には一掃できないと考えるべきだろう。

サッカーは他の競技に先駆けて指導者資格制度を確立している。一般的には、根性論などからは真っ先に脱却したスポーツだという印象を与えていたと思う。

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