体罰、しごき、イジメ……理不尽な指導はなぜなくならないのか?「育成」のあるべき理想像を考える
2013年11月26日
コラム高校の実態は明らかに「マネージャーズ・ファースト」
ところが現場に近づいてみると、まるで違った。
取材を進めてみて改めて気づくのは、いかに高校サッカー部が密閉され、隔離されているか、である。現場に近づけば、父兄や当事者である選手たちの悲嘆の声が溢れ返っている。ところが相当長くサッカーの世界に身を置くような人たちでも、意外と実態を知らない。
「ええ! 高校サッカー、って、まだそんなことをやっているの?」
呆れる声が上がる一方で、したり顔の諦観を口にする人たちがいる。
「高校サッカー? そういうものだろう」
つい最近まで日本代表は、大半が高体連出身者で構成されていた。むしろ中村俊輔や本田圭佑に象徴されるように、Jクラブでユース昇格を逃した選手たちの開花が目についた。「Jクラブの指導者の経験値が不足している」という指摘には一理ある。しかしだから高校のベテラン監督の方が優れた指導をしているという見解が正しいとも思えない。
日本の高校の監督は、文字通り全権を握っている。イングランドでは、監督がマネージャーと呼ばれ、クラブの全権を握るケースが多いが、それでも成績が伴わなければ更迭されるし、選手も契約が終われば移籍をする自由が認められている。ところが高校の監督(教員)は、不祥事が表沙汰にでもならない限り、交代することはない。それどころか、不祥事が発覚し、しばらく謹慎をしても復帰が許され、同じことを繰り返すケースが少なくない。しかも進路の問題も含めて生徒の未来に大きな影響力を持っている。
アンケートの中にも、こんな声がある。
「監督に長々と進路指導をされ、自分の希望を貫いたら試合で使ってもらえなくなった」(21歳・関東の強豪高校出身)
「指導者に媚びを売ったり、ゴマをすったりしないと、いじめられる。3年間、そんな環境にいたので、サッカーが嫌いになりました」(23歳・関東の伝統高校出身)
―中略―
しかしそれでも周囲から、体罰、しごき、いじめなどを、指摘、告発する声が挙がることは滅多にない。
選手自身や父兄は、さらに声を挙げづらい。単独で抗議をすれば、監督から何倍もの報復が来る可能性がある。音頭を取って仲間を募ろうとしても、足並みが乱れればリスクが増大する。
また今でこそメディアは体罰やしごきに批判的な姿勢を示すが、これまでも勝てば方法を問わずに賛辞を送って来た。
つまり1度名将になると、監督には誰も声を挙げることができず、完全にアンタッチャブルな存在として悠々と王国を築けてしまう可能性が高いのだ。
逆に選手の立場は脆弱である。もともとたった1人の監督と、100人を超える選手たち全員の相性が合うはずがない。ところが監督やサッカー部の体質と合わなくても、部の活動が学校とセットになっているので簡単に転籍はできない。しかも親の転勤、転居など、特別な事情がない限り、転校をした場合は半年間公式戦に出場できないというルールがある。
日本サッカー協会(JFA)は「プレイヤーズ・ファースト(選手第一)」を謳っている。しかし、高校の実態は明らかに「マネージャーズ・ファースト」である。
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