なぜ『PK』は決まらないのか。スポーツ心理学者が語る『PK』失敗につながりやすい“回避行動”とは

2015年12月21日

メンタル/教育

『悪い出来事が及ぼすネガティブな影響は、良い出来事が及ぼすポジティブな影響よりもはるかに大きい』

 理由はこうだ。9歳のアシュリーという少年がいるとする。初めて観戦した大きな大会でイングランドがPK戦に敗北したのを見た。そのことが彼自身に心の傷を残した。アシュリーは成長してプロサッカー選手となり、イングランドがまた2回PK戦に負けたのを見た。ベテランになったアシュリーは、クラブでPKキッカーを任されるようになる。だがイングランド代表選手としてPK戦に勝利するのはクラブとは違ってむずかしい、という意識がすでにアシュリーの中に深く根をおろしていた。31歳になった彼に、いよいよイングランド代表としてPK戦に臨む機会が回ってきた。そして彼は失敗した。

 ヨルデットの研究結果は、社会心理学によっても裏付けられている。悪い出来事が及ぼすネガティブな影響は、良い出来事が及ぼすポジティブな影響よりもはるかに大きい、という研究結果があるのだ(注:ロイ・バウマイスターによる論文「悪いことは良いことよりはるかに強力である」2001年)。PKにはそれがにじみ出る。ほとんどのPK戦において、戦績の良いチームと悪いチームとの差は露骨に出る。イングランド代表の失敗は、次の失敗を招く。だがそもそもなぜ彼らは失敗するのか?

 ヨルデットは心理学者の見地から、過緊張になった選手がとる心理的な二つの回避戦略が原因だと鋭く指摘する。クラブでPKキッカーを任されている選手では心理的な影響はさほど大きくない。なぜなら日常的に十分に練習を積んでいるからだ。だがまれにしかPKを蹴ったことがない選手には、二つの回避戦略が相互に絡み合ってパフォーマンスに影響する。ヨルデットは「普段からPKを蹴っていない選手の方が私には興味深い。彼らのPKは、純粋に心理的要素で決まるからだ」という。

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