田嶋会長が描く『トレセン』の理想像。日本サッカー協会として「大切なことは言い続けなければならない」

2017年05月10日

インタビュー

第14代会長就任から1年あまり。日本サッカー協会のトップとしてさまざまな現場へ足を運んだ結果として何を見て、何を感じたのでしょうか。ジュニア世代(4種)へのサッカーの普及と育成にテーマを絞り、田嶋幸三会長(59)のビジョンをうかがいました。

第3回となる今回は『トレセン』についてです。日本サッカー協会が考える『トレセン』の理想像とは。田嶋会長が語ってくれました。

【特集】就任から1年――。JFA田嶋幸三会長と考えるジュニアサッカーのこれから

取材・文●藤江直人 写真●佐藤博之、ジュニサカ編集部


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現トレセンは必要ないのか?

――今回は制度発足から四半世紀以上の歴史をもつトレセンについてうかがいたいと思います。地区トレセンから47都道府県トレセン、9つの地域トレセン、そしてナショナルトレセンに至る子どもたちの発掘育成システムはいま現在、どのように機能しているのでしょうか。

「トレセンはもう必要ないのでは、と言われた時期があります。僕からすればとんでもない話で、有能な子どもたちを育てていくうえでトレセンこそが大事なんです。クラブだけで活動していると、いわゆるお山の大将になる子どもがいるわけです。その子の成長がそこで止まりかねないところで、たとえば地区トレセンに選ばれたとします。当然ながら他のクラブからも上手い子どもが大勢集まってくるわけで、いい意味での刺激を受けながら『あの子に追いつこう』と発奮します。

 そうした伸びしろが都道府県トレセン、地域トレセン、そしてナショナルトレセンに選ばれるたびに大きくなっていく。いわゆる天井効果というものを、日本サッカー協会としては排除していきたい。トレセンに選ばれることは子どもたちの誇りにもつながりますし、クラブとは異なる指導者に教わることもまた刺激になる。トレセンでの活動を終えてクラブに帰れば、引きずられるように他の子どもたちも上手くなっていくという相乗効果もある。同じことはクラブの指導者にも言えることですので、子どもたちが選ばれたトレセンでの指導をぜひ見て欲しいと思っています。

 同じ子どもが選ばれ続けている、もっと入れ替えて欲しいという意見ももちろんあります。たとえば東京都は16のブロックがあり、それぞれから20人ずつ選べば320人になりますが、実際にはもっとタレントがいます。ピックアップすること自体が難しい面はありますけれども、どこかの時点で選ばれ、あるいは選ばれないという経験を積みながらみんな上手くなっていく。サッカーに限らず、どのスポーツにおいても競争は大切です。トレセンにしても一度選ばれなかったからといって自分を卑下することなく、ライバルにどんどん追いつき、抜かしていこうと思って欲しいですね」

――「トレセンはもう必要ないのでは」と言われたのは、いつごろのことなのでしょうか。

「5、6年前ですね。必要ないと言われればどんどんレベルが下がるし、むしろ日本サッカー界にとって逆効果です。いま現在のトレセンはユース育成ダイレクターの須藤茂光さんのもと、全国9の地域に地域統括ユースダイレクター、チーフコーチ、サブコーチを置く体系に整備しました。たとえば関東地域の統括ユースダイレクターは城福浩さん、関西は松田浩さん、東北は鈴木淳さんとJクラブの監督経験者が、四国はなでしこジャパン元監督の大橋浩司さんが務めています。

 ただ、そういった肩書以上に、アカデミーにおける本当の意味でのスペシャリストとして日本サッカー協会が彼らを選び、小学校年代のU‐12、中学校年代のU‐14、高校生年代のU‐16とそれぞれのカテゴリーで、トレセンをこれまで以上にしっかり機能させていきたいという考えに至りました。女子ならU‐12 、U‐15、U‐18となりますが、日本サッカー協会としてはトレセンにきちんと評価を与えていかなければいけないと考えています。

 ここで言う評価とは、外側から見られるトレセンと、内側から見られるトレセンの両方が対象です。特に内側においては、具体的には指導者の報酬を上げていくことで地位と価値をも上げていく。諸外国の協会やクラブを見れば、アンダーカテゴリーでプロフェッショナルと呼ばれる指導者が大勢いるわけです。日本サッカー界にも、そういう指導者がどんどん増えて来なければいけないと僕は考えています」

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