選手の起用方法を考える。少年サッカークラブは子どもたちに何を与えるところなのか?

2017年06月09日

コラム

選手の起用法010

選手の起用法に“正解”はない

 それでは、実際にチビリンピック全国決勝大会に出場したチームはどのような選手起用法を実践しているのであろうか。ここで紹介してみたい。

「僕たちのクラブは『スポーツを使って人間を形成する』というモットーがあります」と語るのはSSSFCのU-12代表・小倉和彦氏だ。SSSFCは山口県宇部市で活動をするスイミングスクールを母体として1997年に立ち上げられたサッカークラブである。選手クラスはセレクションを行わず、現在は小学1年生から中学3年生まで各学年25名前後、総勢220名の選手が在籍している。チビリンピック全国決勝大会には、6年生13人、5年生5人のチーム構成で参加した。小倉氏は遠征メンバーの選考を次のように説明してくれた。

「荷物の整理、挨拶、集団行動ができることからはじまり、次に練習にしっかり取り組めている子を評価します。声出しひとつにしても普段の練習からできていないことが試合のときになってできるわけがありません。練習でできているからこそ試合でも発揮できるわけです。サッカーの上手い下手よりも、まずこの2つがメンバー入りの最低限の条件になってきます。そして、ここからは指導者が頭を悩ませるところなのですが、それぞれの子をストロングポイントやポジションに当てはめて最終的に18人のメンバーに絞り込んでいきます。

 もちろんメンバーから外れてしまった選手には指導者が必ず声をかけることは欠かしません。子どもたちには『くそー、出たかったなぁ』という悔しさがあるはずですので、次の機会には選ばれるように、悔しい気持ちを今後の練習にいかすことができるような流れをつくってあげることが必要だからです。子どもと目と目を合わせて細かく伝えるようにしていますし、子どもの書いてくるサッカーノートも有効に活用してコミュニケーションをとっています」(SSSFC・小倉和彦氏)

選手の起用法008

 SSSFCでは、メンバーから外れてしまった子どものフォローアップにつなげるためにも、子どもたちの試合への出場機会が減らないように試合数を調整している。地域リーグでは前後半でベンチ入りした全員の選手が出場できるような機会を設けたり、対戦相手についても、強度のあったチームと試合が経験できるように配慮したりすることから、遠征も多くなるという。子どもたちは小学3年生のときから隣接の広島県や九州までバスでの長時間の移動を経験することで、当然チームメイトと一緒に過ごす時間は長くなる。小さい頃からの共同生活は、仲間と助け合い、競い合い、時にはぶつかり合いながらサッカーというチームスポーツにとって大切なチームワークを育んでいくわけだ。

「うちは、子どもたちにサッカーだけを教えるクラブではありませんので、周りの人たちから『あのチームは生活態度がしっかりしている』と言ってもらえることがうれしいんです。『サッカーは強いけれど生活態度は全然できていない』と言われるようではダメです。いくらサッカーが上手くても、生活態度がおろそかになっているような選手は試合のメンバーに選びません。むしろ生活態度がしっかりとしてくれば、サッカーに取り組む子どもの目の色も変わってきますし、自然とサッカーも上手くなってくるものです」(SSSFC・小倉和彦氏)

 意識の変わった子どもたちは6年生になった頃には、食事のマナーから洗濯まで含めて、きちんとした生活態度が身についているという。SSSFCにとっては初出場となったチビリンピックの全国決勝大会ではあったが、見事に3位入賞の成績を収めることができたのには、そんな理由があったからかもしれない。

 選手の起用方法に「これが正解!」はないことだろう。勝利至上主義によるメンバー固定は論外であるが、前述したように、指導者が、選手やチームのその時々の状況を判断して最善となるように導いていくことが重要なのである。その時に、SSSFCの『スポーツを使って人間を形成する』ことのように道標が掲げられていれば、選手も指導者も迷うことなく進んでいくことができるわけだ。もちろん道標に嘘があったり、現実や時代とかけ離れたりしたことが書いてあれば、なんの意味もなさないものになるのは言うまでもない。

選手の起用法006

サッカークラブ子どもたちに何を与えるところなのか

 さて、チビリンピック決勝大会の取材の締めくくりとなったのは、5月5日(金)の決勝戦である。関東第2代表・江南南サッカー少年団と九州代表・サガン鳥栖の顔合わせとなった。そのカードを試合会場である日産スタジアムのメインスタンドから青森FC・伊藤氏と一緒に観戦させてもらった。スタジアムの広いフィールドを見渡すと、その上でサッカーをしている選手たちの姿は小さく見える。まだまだ小学生の子どもたちだ。そんな様子を見つめながら伊藤氏はこう教えてくれた。

「本当にサッカーが上手い子というのは、プレー以外の部分もスペシャルになるものです。プロになった高橋壱晟(現ジェフユナイテッド市原・千葉)もよく気の利く子でした。チームメイトでちょっと元気のない子とか、上手くいっていない子を見つけるのが上手かった。その子のところにそっと寄り添っていました。青森FCはそういう子どもを増やしていきたいんです」

 最近、少年サッカーチームには、保護者からサッカーの技術以外の指導も求められていることを、どの指導者も感じているのではいかと伊藤氏は言う。サッカーの指導者だからといって、サッカーだけを教えればいいのではなくて、遠征のときは保護者の代わりにもなるし学校の先生の役割もしないといけない。今回、子どもたちの試合への起用方法について、青森FC・伊藤氏、エスピーダ旭川・中川氏、SSSFC・小倉氏をはじめ、そのほかの参加チームの指導者にもご協力をいただいたが、子どもたちを育てるために、確かにサッカーというチームスポーツだからこそできる可能性と、そのためには少年サッカーチームの指導者の役割がいかに重要であるかということを強く感じることがあった。

 今後も引き続き「少年サッカークラブは子どもたちに何を与えるところなのか?」をテーマに考えていきたいと思う。


 

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