「売られたケンカは買う」。恩師が語る井手口陽介のルーツとは

2017年11月06日

コラム
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問題児だった井手口の中学生時代

 サッカーを指導する上で、井手口は手のかからない選手だった。どのポジションで起用しても献身的にプレーする。ハードワークできる。目的とテーマさえ与えれば、何を言わずとも懸命に取り組んだ。ただ一方で、試合中にキレやすい面があった。

「高1か高2あたりかな。もうちょっとクレバーにやれと言ったことはありました。売られたケンカは買うぞというタイプで、僕らの感覚ではやられたらやり返すのは当たり前なんですが、あいつの場合はあからさますぎて印象が悪い。中1で入って きた頃は坊主頭のかわいらしい子やったんですよ。いつもニコニコ笑ってて、まあ、ぶさいくな顔でしたけど(笑)」

 問題児ではあった。梅津は私生活について口うるさく言うほうではなかったが、ルールを逸脱したときは注意せざるをえない。

「寮では毎日夜の 10時に点呼を取ります。初めはなかったんですが、陽介のせいでそういう形になって。あいつ、一応そこにはちゃんといるんですよ」

 タイミングを見計らって、こっそり抜け出すのだ。深夜、駅前で見かけたという情報がクラブに寄せられた。

「そうなったら周りに示しがつかないし、いざというときに守ってやれ ない。トラブルに巻き込まれたら、チームの足を引っ張ることになるぞという話をして、『はい、わかりました』という返事はあるんですけどね」

 年代別代表の合宿から無断で離脱したこともあった。

「原因はちょっとしたことでスタッフから怒られたとか、しょうもないことだったようです。相手が大人でも言い方が気に食わなかったら、すみませんでしたと言えないところがある。フラストレーションも溜まっていたんだと思います。トレーニン グの様子を見ても、顔が笑っていなかったし。ただ、勝手に帰るのは人としてダメ。ひと言、言うてきたら ええやんと」

 電話をかけ続け、ようやく井手口を捕まえた梅津は「一緒に謝りに行ったろか?」と提案している。だが、井手口は「いえ、ひとりで行きます」と言い、詫びを入れて合宿に戻った。相手を見て態度を使い分けない真っすぐさ、不器用さ。梅津はそれを面白いと感じた。小賢しい面従腹背の世渡り上手より、よほど気持ちがいい。育成年代の指導者の多くが、才能を見込んだ選手が辞めていくのに間近で接している。この仕事、特有の疵だ。梅津もまた例外ではなかった。

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