指導の質を高めるには常に考えを他人にさらす必要がある。その勇気が育成指導者には問われる

2018年10月08日

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ドイツサッカー連盟公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)を持ち、15年以上現地の町クラブで指導を行う「中野 吉之伴」。帰国時には、指導者講習会やサッカークリニック、トークイベントを全国各地で開催し、日本が抱える育成の問題や課題に目を向け続けていている。このコンテンツは、ジャーナリストとしても活動する中野が主宰するWEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」が提携を結んだ媒体にのみ提供を行っている。

【前編】育成指導者がサッカーを教えられないようでは問題外。でも、サッカーしか教えられない指導者は失格!

取材・文・写真●中野 吉之伴


なぜライセンスは必要なのか?

 元プロサッカー選手にライセンスは必要か?

 この点についてだが、以前「footballista」の企画でドイツサッカー協会の指導者育成インストラクター元主任のフランク・ボルムートにインタビューをしたので、その内容を例に挙げたい。その記事「ドイツの指導者育成教官に聞く『ラップトップ監督』の育て方」を読むと、「なぜ、何のためにライセンスが必要か」がよく理解できる。まだ読んだことがない方は、ぜひご一読いただきたい。特に、私が興味を持ったのは次の質問に対するボルムートの答えだ。

中野「ドイツではプロコーチライセンス(日本でいうS級相当)の講習会を受ける条件として、A級ライセンス所得後に一年以上ブンデスリーガ(1〜3部)コーチ・監督、6部リーグ以上の成人チーム監督、U19・17のブンデスリーガ監督、女子ブンデスリーガの監督といったポストでの実績が必要になります。こうした措置は、なぜあるのでしょうか?」

ボルムート「いい選手がいい監督になるには、長い道のりが必要だと考えている。選手と指導者の能力は分けて考えなければならない。元プロ選手も、プロ指導者として最初から学ぶ必要があるわけだ。そして、何より監督としての実戦経験がなければならない。指導者の育成に必要なのは、講習会やセミナーでの理論習得や指導実践の向上、さらに現場での経験とのコンビネーションなんだ。監督としての経験がない人間に育成のチャンスを与えるつもりはないんだ。講義室で話を聞くよりも、現場に立つ方がよっぽど学びになる。どのように知識を生かすのか。学ぶことではない。学び方が大事なのだ」

 プロコーチライセンス所得のための条件設定は、元プロ選手が監督としての経験を積む機会を作るための措置である見方がそこにはある。そして、選手経験の少ない指導者としても、そのポジションで起用されるくらいの人材でなければプロライセンスを取るにふさわしいとは認められないという厳しい線引きだ。自称プロ指導者が乱立し、関わる人が多ければ多いほど競争力が増していく図式にはならない。競争には健全さがなければならず。チーム内のポジション争いもそうだし、ポストをめぐる争いも同じだ。

 だから、その基準となる線引きはあるべきだろう。いい指導者を増やすために必要なのは指導者としての素質を見出し、伸ばしていく環境を整えていくことが重要。そしてそこには相互からのアプローチが欠かせない。指導者ライセンスを受けられる人数を制限するのであれば、その選抜・選出方法も健全でなければならない。指導者としての才能があり、学ぶべき人がスムーズに学べる環境を作ることも、もっと整理されていく必要はあるだろう。

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