なくならない「指導」という名の暴力――。いい加減、スポーツの現場は変わらなければならない

2018年11月15日

コラム

なぜ指導者の暴言が後を絶たないのか?

 現代のしゃべらない子どもをしゃべらせるためにはどうすればいいか。子どもが自立した逞しい個人になるにはどうすればいいか。再度、ボトムアップ理論を提唱する畑氏にご登場いただこう。

「ボトムアップというのは、下からの意見を吸い上げながら組織を運営している手法です。子どもが、観て、感じて、気づいて行動する。それがキーワードになります。自ら考えて動き出せる子どもを育成するなかで、最終的には、道徳観、倫理観をもった人間力をサッカーを通じて作っていく。指導者は、そういう子どもたちの将来の姿から逆算して、目の前の子どもを育てていかないといけない。目の前の結果だけに目がくらむから、指導者の暴言が後を絶たないんです」  

 畑氏が実践するボトムアップ理論は、現代の子どもを変える一つの手法として全国に広まりつつある。その基本にあるものは、怒鳴る指導とは真逆、教えない指導、ノーコーチングだ。

「ボトムアップを初めて実践するのであれば、教えないというよりも、基本となる軸、止める、蹴る、運ぶは、教えてもいいと思うんです。だから最近は『トップボトムアップ』という言葉を使わせてもらっています。トップダウンとボトムアップの融合です。指導者が最初から何でも黙っているのではなく、まず基本を伝えたら、いいタイミングで手を放しましょうと。指導者の姿をどんどん消していって、子どもが独り立ちできるようにするんです」
 
 畑氏は長年、広島の純粋な町クラブ、大河フットボールクラブで四種年代の子どもたちの指導も続けている。たとえば、全国にも無数にある、うまい子もうまくない子も混在する町クラブでトップボトムアップを導入するとすれば、どうすればいいのだろうか。

「まずは、ある程度サッカーができる子どもと、できない子どもを見極めて、できない子には1対1で基本軸をしっかり教えていきます。教えるのは、選手同士でもいいんです。どこのチームでもうまい子どもはいるもので、子ども同士で伝え合わせることも大事です。

 僕自身、子どもの頃に、恩師である浜本(敏勝)先生にサッカーのすべてを1から10まで教えてもらったわけではありません。それよりも、うまい選手から技を盗んだり教えてもらったりすることが多かった。浜本先生ももともとはバスケットボールの選手でした。それなのに、大河フットボールクラブからは、木村和司さんをはじめ、二十数名の日本代表、プロ選手が輩出されている。

 要は、子どもたちが教え合うなかで楽しみながらやっていると自己流が生まれてくるんです。その環境づくりをどんどんしていくと、ワクワクしながらサッカーに取り組める。勝ち負けだけじゃない全体の雰囲気ができていきます。 僕が子どもの頃は、浜本先生が観守るなかで、子どもだけで戦略を練っていたので自分たちでサッカーをやっている感覚があったから、休みの日にサッカーができず寂しかったくらいなんです」
 
 とはいえ、これまで子どもにあれこれ指示を出していたような指導者が、心を改めてトップボトムアップを導入するとしても、“言わない”という我慢が必要になるのではないだろうか。畑氏は、「観察」をキーワードにあげる。

「花の水やりと同じで、種を撒いても次の日に実はなりません。観察しながらいいタイミングで栄養を与える。観察というキーワードを大事にしてほしいです。我慢をするとストレスが溜まってどこかで暴言になってしまう」
 
 子どもが自分を表現できる瞬間を、そっと観察する、という感覚。畑氏は子どもの内なる力を高めるべく、「観える自己表現」としてチームで整理整頓を実践している。トップボトムアップを導入する第一歩としてお勧めだという。

「勝利に繋がるからやろう、というわけではないんです。オフ・ザ・ピッチの基本です。自分のものを綺麗に片付ける。整理する。それは大人になっても必要なことで人間は綺麗なものを見ると心も綺麗になる。汚いものを見ると心もすさんでしまう。脱いだ靴は綺麗に並べる。ご飯を食べたら必ずご馳走様でしたとやる。日々コツコツ積み重ねると、目配り、気配り、心配り、そんな気づく力のレベルが上がっていきます。それがサッカーの気付く力に繋がる。心が綺麗になり、ファウルや暴言も少なくなるんです。

 僕は広島観音高校にいたときから 『朝読』(朝に本を読むこと)というものをやり始めて、心を落ち着かせてから授業に入るとスムーズにいくことを体感してきました。今の学校では朝掃除。学校全体で整理整頓に取り組んでいます。結局は、人づくりを先にしないと、良い技術を持っていてもそれを表現できない子になってしまう。どんなにうまい選手でも、人として挨拶ができない、礼儀ができないと、世の中は誰も認めないですよ、と」

 そうしたオフ・ザ・ピッチの取り組みとともに、ピッチ内ではトップボトムアップを実践する。畑氏曰く、「小学4年生以上になれば、ボトムアップミーティングが可能」だという。

「U-10年代になれば、戦術ボードを使って、攻撃や守備の戦略を練ることは可能です。それくらいの頃から、子どもたちでメンバーを決めて、2対2や4対4をやってみるんです。そして、そこでスタンディングミーティングをして、自分たちで振り返るんです。つまり、PDCA(プラン・ドゥ・チェック・アクション)です。小4からPDCAを伝えていいと思います。やったことを振り返って、次はどううまくできるか。それを指導者が観察しながら、うまく伝えることを融合させて伴走してあげると、子どもはすごく伸びると思います」
 
 畑氏は自らが指導した卒業生の後追いをするというが、公務員や消防士、教師のほか、若くして独立してお店を出したり、会社で人を動かすポジションに配置されたりする卒業生が多いという。50歳を過ぎた今、年に2回は畑塾を開催し、卒業生たちがボトムアップを振り返る機会も設けている。

「僕がこうなれたのも、浜本先生がボトムアップで育ててくれたおかげです。いいことは伝染します。いいものを小学生の頃から伝えていけば、大人になって世の中に良いものをもたらしてくれる。逆に、体罰や言葉の暴力で育てられると、負の連鎖で、大人になって同じことをやってしまう。今、若い指導者がたくさん出てきているのですが、言葉を知らないように感じます。言葉を知らないから、怒鳴ってしまう。

 僕は若い指導者に3つのキーワード、旅をして、 色々な人と出会い、本を読みましょうとよく伝えています。そうやって学ぶ気持ちを持って、自分の言葉があれば、怒鳴る必要はなくなるんです。怒鳴る指導者から離れた子どもは途端に何もできなくなる。指導者は、自分の手から離れたときにしっかりと羽ばたける子どもを育てないといけないんです」

 

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