GKコーチになったばかりのころに経験した挫折…。育成には“なぜ”基準が必要なのか?【GKを準備する】

2019年07月26日

メンタル/教育

      
Joan Miret
  
GKがうまくならないのは「なぜ?」
    
――ここで「準備」につながるんですね。
 
 スペイン語で『Entrenador』とは、『監督・コーチ』という意味で、動詞の『Entrenar』は『トレーニングする』という意味なんです。『Entrenamiento』は名詞で『練習(訓練)』という意味になります。
 
 普通の監督やコーチは『Entrenador』です。でも、私の中では、『練習をこなす人』という意味でもとらえています。
 
 だから彼(倉本さん)は私のことを『Entrenador』ではなく、『Preparador』“準備する人”だというんです。『Preparar』が『準備する』という意味で『○○dor』で『○○する人』という意味になります。
 
『Preparador de Portero』で『GKを準備する人』。GKの育成においては、『Entrenador』と『Preparador』の違いを明確にしなければなりません。ただ練習をこなしてしまう人は、監督に与えられた時間でひたすらボールを蹴って終了、という人。だから講習会に参加してくれた人たちには「キーパーコーチになってはいけませんよ。キーパーを準備する人になってくださいね」と話しています。
 
『準備』だからこそ、メンタル的にアプローチすることが大切なんです。だから私のトレーニングでは、何時間もしゃべるだけで終わりのときもあるんですよ。
 
――ジョアンのよく使う言葉に「Por que(ポルケ)」という言葉があると思うのですが、これはどういった意味ですか?
 
『Por que』は『なぜ?』という意味で“魔法の言葉”です。
 
 なぜか?
 
 さまざまなキーパーやキーパーコーチを見続けていると、多くのキーパーコーチが自分と同じ方法で練習をやっている。でも、キーパーは全然良くならない。その経験から、なぜ良くならないのか? と考えたんです。
 
 あるキーパーの子は、偶然にも高い身体能力を持っていて、世間からも評価されている。でも、その選手の成長がとあるタイミングで止まってしまい、プロにもなれずサッカーをやめてしまった。これは誰の責任になりますか?
 
――多くの場合、その選手の指導者に責任があると思います。
 
 なぜ? というアプローチにも問題があります。それは、必ず答えを提示しなければならない、ということです。
 
「今日は失点ゼロだから、ミスもあったけど、まぁいいや」とはならないんです。なぜ? を使いはじめると、常に完璧を突き詰めて考えます。なぜか? 自分が完璧に理解したものでないと、人には伝えられないからです。
 
 例えば、一つの技術アクションを実行するためには、ものすごく細かい身体的なアクションが積み重なっています。それを考慮すると、セービング練習をするときに「とりあえず飛んでみよう」とはならないはずです。どうやって手を出して、どのように足を運んでボールを止めるのか。また、ケガをしないために、落下したときの衝撃を吸収するにはどうすればいいのか。ボールを弾いたあとは、どのように立ち上がれば、速く立ち上がることができるのか、これら一つひとつの動作を積み重ねてやってセービングができる。
 
――なるほど。
 
 キーパーを準備する人は、これらの動作を試合中に分析しなければなりません。講習会で最初にキャッチングをやりましたよね? あれをどんなレベルのキーパーに対しても一つひとつやっていきます。
 
 私のトレーニングの順番に関しては、年齢や性別など関係なく、誰に対しても同じ順番で行います。参加した人が、実際に言われたとおりに手を出してみると「たしかにこれのほうが楽だ」とみんな言います。
 
 だからグラウンダーのボールがきました「とりあえず取れ」とは、しません。なぜグラウンダーのボールでは、この体勢で、こういう形で手を出すのがいいのか、すべて理由があるからです。
 
――たしかに、「なぜそうしなければならないのか?」と理由を聞くといつも納得します。
 
 余談ですが、おそらく、私はスペインのキーパーコーチの中で練習映像を撮影した最初の人間です(笑)
 
 当時のビデオカメラは、プロのTVカメラマンが持っているようなカメラしかなく、値段も高くて大きかったんです。何度も何度も撮影した映像を見返しているうちに、同じ選手でなぜ今のボールは取れたのに、さっきのボールは取れなかったのだろう? という疑問が浮かび上がってきたんです。その原因が本当に小さな動作の違いにあることがわかってきました。失点の可能性を減らすためには、どのような技術を習得するのがいいのだろう? と、それをもとに考えはじめたことが私の原点です。


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【連載】「ジョアン・ミレッはGKを準備する」


<プロフィール>
ジョアン・ミレッ
1960年11月1日、スペイン・カタルーニャ州出身。選手としてスペイン2部でプレーしたのち、1985年にテラッサ(2部)の育成GKコーチに就任。2000~2012年までゲルニカ(4部)のトップから育成までのGKコーチを務めた。2013年に来日し、湘南ベルマーレのアカデミーGKプロジェクトリーダーを経て、2017~2018年までFC東京のトップチームGKコーチ。現在はJFL奈良クラブのアカデミーGKダイレクター。

■講習会情報
関西開催
http://naraclub.jp/gkproject

東京開催
開催予定日:8月10日、17日、19日
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