もしあなたがマンチェスター・シティのCBで試合に出場したとしたら…

2019年08月04日

読んで学ぶ/観て学ぶ

サッカーを思いつきでプレーした経験は誰しもがあるに違いない。しかし、ペップ・グアルディオラのサッカーに理由なきパス、ドリブルが入り込む余地はない。はたしてペップが追及する“究極の秩序”で彩られるピッチ内でプレーする境地とはどういうものなのか? ペップ戦術に詳しい“サッカー店長”こと龍岡歩氏が、「もしあなたがマンチェスター・シティのCBで試合に出場したら…」と仮定し、リアルな疑似体験に我々を誘ってくれた。
 
『フットボール批評issue25』より一部転載

文●龍岡歩 写真●Getty Images


  
Yokohama F.Marinos v Manchester City - Preseason Friendly

次の選択は「相手が決めてくれる」
    
 まず、マンチェスター・シティのサッカーを理解するうえで指揮官ペップ・グアルディオラのサッカー観を知るのはその助けとなる。以前、ペップはインタビューで「理想のサッカーは?」と聞かれ、「私にとってのいいプレーとは相手の動きからプレーの決定を下していくもの」という主旨の発言をしている。
   
 彼にとって「どこにパスを出すのか?」は決してその場の思いつきであってはならない。そこには理由があり、それは「相手が決めてくれる」からだ。あなたがもしシティのCBとして試合に出ているとしよう。ボールが足元にある。すると目の前から相手の選手がボールを奪おうと迫ってきている……さて、どうする? トップレベルでは、ここで次のプレーを考えているようではもう遅い。すでに選択肢は相手のプレッシャーにより、大幅に削られている。
   
 しかし、ペップのチームは違う。あなたがすべき次のプレーはあらかじめ定められており、迷う必要がない。なぜならそれは相手が決めてくれるからだ。迫ってきているのがWGならばSBがフリーになっているのでサイドにボールを出すべきであり、1トップのFWであれば隣でフリーになっているCBを使うべきだ。
   
 このとき、右足を使うのか左足を使うのか、それともボールを一度運んでからパスをするのか? その方法は託されているが、ボールを届けるべき目的地は定まっている。ペップのチームでプレーする境地とはおそらくこういうことだろう。
   
 こういったとらえ方を今ではポジショナルサッカーなどと呼ぶようになったが、その狙いは定点的なポジションを明確にすることで流動的なスペースを掌握することにある。
   
 サッカーではフィールドの大きさと選手の数は決まっている。決まっていないのはスペースで、選手が移動したあとに現れては消えていく蜃気楼のようなものだ。だがペップに言わせればスペースは 確実に「ある」。なぜならボールを動かせば相手も動く。「ほらそこに」「次はあそこに」「そして最後はここに」と予測可能なものとしてとらえている。
   
 ペップにとって「悪いプレー」とは生まれているスペースを気づかずに思いつきでプレーし、わざわざ窮屈なエリアにボールを運ぶことだ。だが味方と相手のポジションがわかっていれば、「こにいる」「そこが空く」という感覚でプレーできるので試合からカオスが削られ、ピッチには秩序が保たれる。一つひとつのプレーとその集合体である90分間は極めて再現性の高いものとなり、必然的な勝利の積み重ねが圧倒的な強さにつながっている。
   
※続きは発売中の最新号『フットボール批評issue25』からご覧ください。
 


<プロフィール>
龍岡歩(たつおか・あゆむ)
1980年、神奈川県生まれ。Jリーグ開幕戦に衝撃を受け、12歳から毎日ノートに戦術を記し徹底的に研究。28歳からブログ『サッカー店長のつれづれなる日記』を始め、現スポーツX社に鋭い考察を評価され入社。同社が経営する藤枝MYFC(J3)の戦術分析長として4シーズン在籍。現在はJFL昇格を目指すおこしやす京都AC(関西1部)の戦術分析長。


 
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【商品名】フットボール批評issue25
【発行】株式会社カンゼン
2019年8月6日発売
  
 今号は「哲学」をテーマにフットボールの最前線を探究する。
  
 哲学なきフットボールは早晩淘汰されるものだが、哲学があるからといって勝てないのもまたフットボールだ。テクノロジーや分析の進歩によって、ピッチ内外での情報戦は熾烈を極めている。監督や選手、審判の失態は瞬く間に暴かれてしまう。そんな殺伐とした時代にあって、明確な哲学を感じさせるフットボールは何よりも尊い。現実にただ流されていては面白くないと教えてくれるからだ。
  
 今号ではそんなフットボールの荒波をしなやかに泳いでいく賢人たちの言葉に耳を傾ける。


 

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