選択肢が増えたからこそ生まれた「地域クラブの選手人口の二極化」地域クラブの理想像とは何か
2019年12月04日
育成/環境現在、4種の競技人口は少しずつ減っている。地方からどんどん少子化の波が押し寄せるなか、サッカークラブに限らず、この問題はすべてのスポーツクラブを運営・協力しているコーチや保護者が向き合わなければいけない。
私たち「今」を支えるクラブ指導者は一体何ができるのか?
12月の特集では「ジュニアクラブはどう地域と関わるべきか」を軸に、これからのジュニアサッカーの在り方について考えていきたいと思う。そこで昨年に引き続き、3名のサッカー指導者に現場の立場から率直な意見を語っていただいた。第一弾のテーマは「地域との関わり」について話してもらった。
【司会】編集長/高橋大地
【指導者】FC市川GUNNERS(ガナーズ)=南里雅也 大豆戸FC=末本亮太 FC大泉学園=小嶋快
【担当ライター】木之下潤
各クラブは地域とどう関わっているのか?
高橋 まずは、みなさんのクラブの特徴から教えてください。
小嶋 東京都練馬区で活動している「FC大泉学園」の小嶋です。もともとは小学校を中心としたクラブでしたが、指導者が全員抜けてしまって手伝い始めたのが、このクラブと関わったキッカケです。当時は人数が少なく、今のような環境ではありませんでした。クラブの歴史は私が始めて18年ほどなので新しい部類ではないでしょうか。私以外のスタッフは、クラブOBたちなので卒業して戻ってきてくれている形です。そこはうちの一つ特徴なのかなと思っています。
末本 前身は「大豆戸はやぶさ」という小学校のサッカーチームでした。2004年にNPO化し、クラブとしての活動を始めました。ボランティアからスタートしたチームなので、設立時は地域の子どもが中心でしたが、現在は大豆戸小学校近隣で地区をまたいで入ってくる子も増えました。
地域の特徴は「文教地区」と言って横浜でも学力が高い地域で、近くにある大綱中学校はすごく学力が高い学校です。平均年収の高い小中学区ランキングというものがあり、大豆戸小学校は1位でした。そういう点においても、保護者の意識や子どもの教育に対する考え方は高いものを求めていて、私たちも期待を超えられるものを提供できるように取り組んでいます。
例えば、何事も「主体的に内発的な動機づけ、楽しんでやる」という考え方に賛同して頂ける方が多いため、クラブとしても自信をもって子どもたちに合った指導、またクラブ活動ができていると感じています。指導者についてはOBが一人だけで、外からの指導者が多いです。そういう点からも新しい発想で、客観的に見た地域に合うやり方を積極的にチャレンジできている環境にあります。
「地域とはどこを指すのか?」を定義しなければなりませんが、商店街や町内会とのつながりなどはなかなか持てていないのが現状です。
南里 「アーセナル市川」としてヨーロッパ型クラブのモデルケースを作るという目標を持ち、5年前に立ち上がりました。ただ、昨年「本国のアーセナルが世界のスクール事業を撤退する」ことになり、今年から目標は継続しつつ、自分たちの街クラブとして再スタートを切りました。名前は「FC市川GUNNERS(ガナーズ)」です。これまではアーセナルのビジョンのもとに指導をしていましたが、現在はそこから「地元に根ざした市川を代表するクラブを作ろう」と、チームのコンセプトなどを見直して指導メソッドも作っています。
現在、ジュニア、ジュニアユース、レディース、ユースがあり、トップチームも立ち上げました。環境面では、人工芝のグラウンドの横にテニスコートもあり、地域のスポーツクラブとしても機能し始めています。私たちの強みはハード環境なので、ここを中心に生涯スポーツとしてのあり方を示す役割も果たしたいと考えています。やはりクラブとしては地元選手を育成し、この場所から巣立っていくようなあり方を目指しています。
高橋 小嶋さんはFC大泉学園の出身ではありません。どちらの出身ですか?
小嶋 私は練馬区の別クラブでサッカーをしていました。大学時代に友人から誘われて、夏休みに手伝ったのがこのクラブと関わったキッカケです。もともと「指導者をやりたい」と思っていましたから。
高橋 OBとして指導しているコーチは教え子ですか?
小嶋 ほぼそうです。私が教えていた子たちがクラブに戻ってくる形で指導してくれています。名前がFC大泉学園なので、今も「私立の学校ですか」と聞かれますね。でも、地域の街クラブです(笑)。地域には、東映の撮影所があり、アニメがすごく人気ですね。人口は多いほうだと思います。
高橋 大豆戸FCは世帯収入の高さと学力の高さが特徴ですね。横浜でも高級住宅街に入るのですか?
末本 横浜の港北区という場所にあたるのですが、地域では一番だと思います。近くには日吉、大倉山、菊名とそういうエリアが続きます。
高橋 南里さんは東京や埼玉でも指導をされていました。市川でその違いを感じますか?
南里 大きな違いは感じません。市川は人口も50万人くらいいますし、千葉県でも3位の人口規模です。財政力指数も高いですし、東京がすぐそばですから。サッカーが盛んな地域で、ジュニアも4チームくらいあります。
高橋 末本さんが地域との密着感について触れていました。他のお二人はそこを何か気にされていますか?
小嶋 正直、うちはあまり気にしていません。サッカーの指導に専念しています。置かれた環境としては、地域周辺に活発なサッカークラブが少ないことが大きいです。なので、自分たちのクラブが重要なポジションにつける存在でいたいというスタンスです。地域にはチーム数もある程度多いのですが、少年団がたくさんあり、平日に活動しているクラブが少ないんです。だから、「平日預かってくれる」という側面で選んでくれる保護者の方も多いのは事実あります。土日をメインに活動しているクラブが多いですから。
高橋 なるほど。ガナーズさんはどうですか?
南里 最初はヨーロッパ型の近代モデルを作っていこうと参入したので、地域からすると「受け入れ難い」部分はあったと思います。ただ、時間とともに情報が浸透してきて、実際に地元で交流する機会も増えました。そこで理解は徐々に深まっていったかなと。もちろん時間はかかりますが、うちはハードがあるので地域の運動会の会場提供、また幼稚園や小学校のスクール事業などに貢献して少しずつつながっていこうと努力は続けています。
末本 私たちは7年前に保護者と分科会を開きました。そこで「クラブが地域になくてはならない存在でないといけない」という結論に至りました。自分たちだけでやる、それだけで満足するのではなく、「地域の中にあるクラブ」を意識して、地域清掃活動、地域のお祭りに参加したり、土曜日に未就学児を対象に学校開放をしてサッカーをする遊ぶ場所を提供しています。
最近では、クラブの垣根を越えて、地域の子どもたちが気軽にボールを蹴れる場所、サッカー広場を創るイメージで小学生対象の個人フットサルタイムを地域の施設を利用して企画しています。毎回、参加者が定員を超えるほど集まりますよ。また、地域のタウン誌ともお付き合いがあり、クラブの活動を掲載してもらったりして認知拡大を図っています。
南里 クラブによって強みがあるので、そこは地域との関わり合いもさまざまかと。うちは人工芝のグラウンドがあり、テニスコートや、交流できる屋内施設があります。例えば、サッカーは20歳くらいになると、急にやらなくなる現状があります。スポーツは本来「生涯スポーツ」であるものだと思うので、私たちは「シニアになってもスポーツのできる環境づくり」をしたいと考えています。海外のスポーツクラブは子どもから大人まで同じエンブレムを身につけて、みんながサッカーを含めたスポーツにたずさわっています。目指すべきは、そこです。今年から地域の社会人チームと提携してトップチームも作ったので、次はシニアを作って生涯スポーツとしての人々が楽しめる場所を作っていきたいなと、全員で力を合わせて取り組んでいます。
地元のJリーグクラブとの付き合い、選手数の減少について
高橋 地域といえば、Jリーグがあります。大豆戸さんの近くには横浜F・マリノスがありますが、何かつながりはありますか?
末本 指導者間では、交流はあります。マリノスができないことを私たちが担うという意識でやっています。上のカテゴリーに上がれない選手の相談や、逆に大豆戸所属選手の情報交換なども他のJアカデミーとも行っています。
高橋 市川は柏レイソルやジェフユナイテッド市原・千葉があります。
南里 ガナーズからは柏レイソルやジェフユナイテッド千葉に行く選手もいます。スカウティングの担当者とも仲良くしています。私たちは数年以内にJクラブ宣言ができるクラブを作れるように動いていますので、「地域から上のカテゴリーに進む形」を作り、選手の選択肢を広げる準備を整えている感じです。現在は身の丈にあった規模でやっていますし、県内のJクラブの指導スタッフとも交流させてもらっているので、いい関係で情報交換をしています。
高橋 大泉学園だと、どのクラブとの交流が多いですか?
小嶋 JFLのクラブだと東京武蔵野シティFCです。卒業生がお世話になっています。Jクラブだと大宮アルディージャが近いですね。お声をかけていただいたり、指導スタッフの方が試合を見に来たりされています。うちはジュニアユースがありませんから、いろんなクラブが声をかけやすいと思います。でも、場所を理解されていない方もいて、去年は横浜FCのスカウトの方から声がかかりました。ただ、「セレクションに受かってもちょっと通えません」とお断りすることになりました。FC東京でも1時間ちょっとかかりますから。立地的なことでは不利な部分はあります。
高橋 JFAのデータボックスを見ると、地域のクラブの数が微減を続けています。地域の指導者の立場として「子どもが少なくなって来ているな」と感じることはありますか?
末本 私たちは幸運なことにあまり感じない地区にいるんですよね。ただ選手が減っているチームや合併して活動しているチームは増えている感覚はあります。あと、U-8の大会に出場するチームはすごく減っています。私は茅ヶ崎に住んでいるのですが、所属人数の差が激しいです。あるチームは2桁の人数がいるのに、あるチームには1桁しかいないとか。県内でも、チームの環境や力関係によって選ばれるチームとそうでないチームとの差が明らかに出てきています。また、チーム活動の大変さを知り、サッカースクールに通っているだけの子どもも増えていますね。選択肢が増えて良いことだと思います。
小嶋 普段やっていて「サッカー人口って増えてんじゃないか?」と思っています。うちの地域はチーム数が増えていますし。末本さんが言われたように「二極化が進んでいる」印象です。人数が多いところが増えているし、少ないクラブはどんどん減っている気がします。「見て選ぶ」ような時代になっています。
南里 市川も同じ印象です。アクセス面も含め、都市部に人口が集まる意味では人がいますけど、チームによる取り組みで差別化が進んでいて、「このチームはすごく増えている」みたいなことはあります。でも、実際は地方や田舎に行けば、人数が減っている傾向があることも感じています。チームの価値観やチームの情報も、「保護者が調べられる」時代なので、格差は間違いなく開いています。
つづきはこちら
子どもが減ればコーチも減る。押し寄せる少子化の波。解決の手立てはあるのか
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