野洲高の日本一に貢献した岩谷篤人氏。異端の指導者が選手たちに強く求めたのは意外にも…

2021年09月08日

育成/環境

乾貴士選手らの活躍で一世を風靡した野洲高校の礎を築き、セゾンフットボールクラブの創設者・岩谷篤人氏。育成年代の指導に関して彼が選手たちに強く求めたものは、どのようなものなのだろうか。6日に発売された『フットボール批評 issue33』より一部抜粋して紹介する。

『フットボール批評 issue33』

文●加部究 写真●Getty Images


意外にも強調したのは安定した守備力

「サッカーは70%以上が運」

 それが岩谷の持論だ。

「私が野洲の指導に携わった初年度に優勝できたのは運が良かったからです。別に鹿児島実業(決勝戦の相手)が優勝しても不思議はなかった。ロシアワールドカップだって、フランスが優勝したのは運以外の何物でもない。ベルギー、クロアチア、ブラジル……、どこが勝ってもおかしくなかった。ただしワールドカップでベスト4以上に進出するには、そういうトップクラスの仲間入りをしていなければいけない。そこまで到達して初めて運を味方にできた時に勝てる」

 つまり岩谷は「最後は運」だと達観しながら、運に委ねるレベルに到達するための必然を追求した。

「日本が世界で勝ち抜いていくには安定した守備力が不可欠です。そのためにはスモールフィールドに相手を引き込む必要がある。相手がこんなに狭い所では難しいという状況を作るんです。とことんコンパクトにして素早く囲い込み、そこに相手が6人入って来ても平気でボールを動かす。これなら身体能力は大きな効果を発揮しない。そういう状況で戦える選手を育てていく競争なら、日本がブラジルやスペイン以下にはならないはずです」

 野洲はまるで今年の川崎フロンターレを先取りするようなパフォーマンスを見せていた。両SBを高く上げ、CBの間にアンカーが落ちてビルドアップを開始。選手同士の距離を短く保ち相手を自陣に押し込むと、高い位置から厳しい守備で奪い 再びハイテンポのパス回しを始める。岩谷が求めたのは、足もとの技術だけではない。「世界最速のプレスバック」と号令をかけ続け機敏な守備も加味していた。

「こういう守備を実現するには、こんな繋ぎが必要なんや。それをJFA関係者やJリーグの監督たちに見てもらって、将来の参考にして欲しかった」(岩谷)

 岩谷は32歳の時に退職をして、セゾンFCを起ち上げた。

「指導者を仕事にしようと決めた時に、日本が世界のトップに立つためには、どんな選手を育てるべきか、24時間考え続けた」 育成指導は、トップに比べれば勝敗への重圧は少ない。「でも難しいのは育成の方や」と言い切る。18歳でスペイン代表の中核を成すペドリのプレーを見て思った。

「サッカーは面白くて楽しくて美しいもの。夢を育むのも大人なら壊すのも大人です。子どもたちの技術と発想力を伸ばせば、あんなふうになりたい、と憧れの対象になるプレーをし始める。でも指導者の側は、こうしなきゃ勝てないと頭がガチガチに固くなっていないだろうか。ハードワークさせて厳しく寄せて縦に速く……そこには何の夢もない」


全文は『フットボール批評 issue33』からご覧ください。


【商品名】フットボール批評 issue33
【発行】株式会社カンゼン
【発売日】2021/09/06

【書籍紹介】
秋のフォーメーション集中講座

今さら「フォーメーション」だけに特化したサッカー雑誌が、しかも東洋の島国から出るとの報せを、もし、イングランドのマンチェスター界隈、それもペップ・グアルディオラ、フアンマ・リージョが奇跡的に傍受したとしたら―。「フォーメーションは電話番号に過ぎない」と切って捨てる両巨頭に、「まだ日本ではそんなことを……」と一笑に付されるのだろう。いや、舌打ちすらしてくれない可能性が高い。

しかし、同誌はそんなことではめげない。先月無事に開催された東京オリンピック2020におけるなでしこジャパン戦のような感情論一辺倒の応援に似た解説だけでは、フットボールの深淵には永遠に辿り着くことはないと信じて疑わないからだ。「フォーメーション」と「フォーメーション以外」を対立させたいわけでは毛頭なく、フォーメーション観をアップデートし、その攻防をよりロジカルに堪能したい、ただそれだけなのである。


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