今、親子で考えたいサッカーとの関わり方

2020年04月16日

インタビュー

令和2年4月7日から5月6日までの30日間、新型コロナウイルスの感染が都市部で急速に拡大していることから、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、大阪府、兵庫県、及び福岡県の7都府県に緊急事態宣言が発令されました。海外で見られる都市封鎖(ロックダウン)ではありませんが、密閉、密集、密接のいわゆる『3つの密』を避ける行動を徹底し、感染拡大の防止が求められています。子どもたちにとっても、学校が休校になり“サッカーどころではない”状況がつづきますが、サッカー少年・少女であれば、やがて騒動が収束へと向い、また再び、仲間とグラウンドに集まってボールを蹴る日を思いながら、心身のコンディションを整えておきたいことでしょう。シュタルフ悠紀リヒャルト監督(Y.S.C.C.横浜)のインタビュー後編は、昨今の状況下でのサッカーと子どもとの関わり方にフォーカスしてお話を伺いました。


【前回】今だからこそ考えたい活動休止期間中のメンタルの持ち方。シュタルフ悠紀監督に聞く


取材・文●山本浩之 写真●山本浩之、ジュニサカ編集部


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シュタルフ悠紀

緊急事態宣言下におけるジュニアサッカーとの関わり方

――ところで、シュタルフ悠紀監督は、育成年代の指導もされています。現在も、レコスユナイテッドと、日独フットボール・アカデミーで指導をされていて、やはり、どちらのチームも新型コロナウイルスの影響で活動自粛となっています。

子どもたちもサッカーボールを蹴ることのできない生活がつづいています。鬱々とした気分になってしまうかもしれません。でも意識すれば、子どもでも先にお話したプロサッカー選手に必要なポジティブシンキングに変えることができます。自分がネガティブ思考になりそうなときに、わざとポジティブな言葉に置き換えるようにしてみます。私の出身地ドイツでもよくする話なのですが、コップに半分水が入っていたら「もう半分も飲んでしまったのか……」と思うよりも「まだ半分も残っているぞ!」と思えれば気持ちが楽になりますよね。だから「サッカーができるのが1カ月も延びてしまった……」と思うのではなくて「1カ月後にはサッカーができるぞ!」と置き換えてみるわけです。サッカーは不確定要素の大きいスポーツですから、ゲームがプラン通りに進行することは、ほぼあり得ません。「プランが崩れたときにどうすればいいのか?」ということが選手には求められますよね。だから、自分ではどうすることもできない現象にいつまでもとらわれているよりも、そのとき自分にできることに矢印を向けられることが大切なのです。子どもたちにも常日頃から持って欲しいマインドの一つではあります。

――確かに前向きに進んでいける気がします。「1カ月後のために、いまから準備をしておこう!」と考えられればいいわけですね。いまはいつもより親子で過ごす時間が長くなっている家庭も多いようです。保護者が積極的にポジティブな声かけをすることも重要ですか?

実はそこが難しいところなのです。私は心理学の専門家ではありませんので、これまで20年ぐらい育成の現場に携わって子どもたちと触れ合ってきた経験談として聞いてください。つまり、このような働きかけは、子どもの性格など個の部分が大きく作用すると思っています。ポジティブな声かけをすることで、ポジティブになれる子もいますが、引きずり落とすことでポジティブになる子もいます。ダメだしをされることによって「負けるもんか、俺はやってやるぞ!」となる子もいます。ちょっと指摘しただけで「僕はもうダメなんだ……」とへこむ子もいました。子どもへの声のかけ方一つにしてもパターン化することはできないんです。とはいえ、そもそもジュニアサッカーの指導は「観察」から始まるといってよいと思いますから、指導者は子どもたち一人ひとりの様子を観察して長所や短所を把握していき、その子の個性に合ったアプローチを試みる必要があります。

――なるほど、それは保護者も同様ということですね。それでは、子どもの性格には左右されない、前向きにチャレンジするための寄り添い方はあるのでしょうか?

ぜひやっていただきたいのは、子ども自身が考えたことに従って自分で行動する“自律力”を高めるためのサポートです。いま、親子の時間があるのならば、子どもと会話をしながら意見を引き出してあげるのもよいでしょう。本来、子どもはこの能力に長けているものです。簡単な例をあげると、テレビゲームを買ったときに、説明書からじっくり読む子はあまりいないでしょう。最初から裏技なんかを検索する子もあまりいない。どちらかというと、とにかく試してみる。どうやってクリアできるか自分で考えて、遊びながら発見する。どうしてもわからなかったときになって、説明書を読むとか、ネットで調べるとか、攻略本を買うと思うんです。

――子どもは、まず自分で試して発見するわけですね。

子どもは、自分で考えて行動することができるわけです。ところが、大人が「このボタンを押せばいいんだよ」と先に教えてしまう。すると、子どもはボタンの押し方ばかりを練習するようになります。これは僕の持論ですが、日本にはミスを恐れる文化があります。ポジティブで目立つのもあまり好きではないけれど、ネガティブなことでは絶対に目立ちたくない。ミスして目立ってしまったら、もう最悪です。でもそうじゃないんです。「自分のアイデアはこうだよ!」ってチャレンジすればいいんです。だって、そもそもサッカーには正解なんてないんですから。大人は、子どもがチャレンジするときの“怖さ”を取り除いてあげるだけでいいんです。そうすれば、子どもは自分で考えたことを行動に移すことができるはずなんです。

シュタルフ悠紀

親にサッカーの知識がなくても、子どもに問いかけることに問題はない 

――そのような子どもの内面的なことを踏まえながら、家の中で実践できることはありますか?

(シュタルフ悠紀監督)子どもの試合を撮影した映像があれば振り返る機会をつくるといいと思います。ただ映像を眺めるのではなくて、子ども自身が自分のプレーを分析する時間にしてあげます。子どもは自分のプレーの良いところや悪いところをノートに書き出してみる。そのときに“たまたま1回だけ”のプレーはカウントしません。凄く良いシュートが入ったとしても、反復性がないプレーは自分の良さではなく偶然だからです。撮り溜めた映像を何本も観ているうちに「この角度からのシュートはいいな」とか「こういう状況だと前を向けていない」などが見つかると思います。その後にプロの試合映像を観て、自分と同じポジションの選手の動き方や、自分があまりできていなかった状況をフォーカスしてみる。そういう映像の使い方をしてみるのはどうでしょう。

―子どもの試合映像を観ているとき、保護者は口を出さない方がいいのでしょうか?

わからない子にはガイドが必要です。ヨーロッパの指導言語で「Guided Discovery ガイディッド・ディスカバリー」というのですが、子どもの手をとって発見に導いてあげます。もし、後ろ向きのプレーが目立つのであれば「後ろ向きのプレーが多くない?」とか、あるいは「後ろ向きの回数と前向きの回数を数えてみようか?」でもいいでしょう。そういったヒントが必要な子もいます。大事なのは発見させることなのですが、次につながる発見をして欲しいんですね。子どもが自分でテーマを決めるといっても、選手のスパイクのブランドに注目してしまう子がいるかもしれません。それでも構いませんが、その子のプラスになるかというと、そうではありませんよね。子どもがスパイクにばかり注目しているのであれば「じゃあ、よく滑っている選手は何を履いている?」と見方が変わるように導いてあげることも一緒に観るのであれば大切かもしれないです。

――問いかける言葉が大切なようですね。「そこは後ろに戻したらダメでしょ!」ではなくて「どうして後ろに戻したのかな?」とか。

そうです、そういうことです。なぜならば「そこは」というシーンは、もう一度現れないので意味がないわけです。「そこはこれだろう」って言っても、「そこは」とは何なのかということもありますよね。そのとき、残りの21人全員の立ち位置がどうなのか、自分の背中に1人いるからなのか、とか「そこは」の定義をしなければなりません。子どもと保護者の目に映っている「そこは」が全然違う可能性があるからです。U-12の選手であれば、映像では自分とボールの周りくらいしか見られていないかもしれません。「どうして相手の選手がすぐ近くにいるのに、俺はボールを戻しちゃダメなんだ?」ってなる。子どもは「相手の選手がここにいたから」と自分なりに解釈していたのに、保護者にはカバーリングの選手が遠くにいるように思えたので「そこは戻さずに仕かけろ」と言ったのかもしれません。ただ、サッカーの状況は常に変化するものなので、細かい状況まで指導していてもキリがありません。だから「どうして?」のほうがいいんです。「どうして後ろに戻したの?」と聞いて、子どもが「いや、これは何も考えていなかった」と答えたら「じゃあ、今度から相手の位置を見て、前を向けそうだったら前を向いた方がいいんじゃない」って言ってあげればいいわけです。あるいは「いや、このときは周りが見えていなかったから焦って戻しちゃったんだよね」って答えたら「その判断も悪くないとは思うけれど、もらう前にもうちょっと周りを見ておくといいんじゃない」って感じになってくる。原因を知るためにも問いかけ方が大事ですね。

――そうすると保護者はサッカーに詳しくないとダメですか?

いや、逆に全くサッカーを知らない人の問いかけもヒントになると思います。自分では思いつかないような不思議な問いかけをされる可能性もあって、それはそれで考えさせられるものです。視点が違うのは悪い事ではないと思います。だから、サッカーに全く興味がないとか、サッカーを全く知らない保護者の方にも、ぜひ問いかけはしてもらいたいですね。サッカーの知識がない人の指導はリスキーですが、問いかけはサッカーの知識がなくてもできます。問いかけは、子どもに間違いを教えることがないのでノーリスクなんですよ。

――子どもから答えが返ってきたら、話しの落としどころというか、どのような形でまとめればいいのでしょうか。

「へえ、そうなんだ……」とか「なるほどね!」などの相槌でもいいですよ。子どもの答えとは違う発想があるのであれば、もっと深く掘り下げてもいいですしね。例えば子どもが「ディフェンスに当たると思ったからシュートを打たなかったんだ」って言ってきたら「ディフェンスに当たるところまで考えているんだね。でも、当たってからゴールに入ることもあるんじゃないの?」みたいな感じでより突っ込んであげる。それはサッカーの知識がなくても、普通に出てくる発想だと思います。もしくはルールを知らなかったら「ディフェンスに当たってからゴールに入っても点数にはならないの?」って素朴な質問をしてみる。そういう素人の質問は意外と考えさせられるものなんです。「え~っ、そんなことも知らないの~」なんて言ってくるかもしれないですけれど、もしかしたら、その子のなかで「そうだよな、ディフェンスに当たって入るかもしれないから、今度は打ってみようかな……」って発想が芽生えるかもしれませんよね。ヒントになるものは何でもいいんです。さっきも言ったように問いかけには間違えがありませんから積極的にやった方がいいです。「お前、シュートがヘタだな」とか「みろ、お前は全然走れていねえじゃないか」っていうのはポジティブではないと僕は思いますね。

――ありがとうございます。それでは、最後に今後について伺います。新型コロナウイルスが収束しても、サッカーの活動はこれまでと同じようにはできない難しさもあると思います。

Jリーグも少年サッカーの現場も変化はあると思います。嫌なことですが、これからもウイルスとは付き合っていくことになるかもしれません。だからこそ人間本来の免疫力を向上させることが大切になってきます。サッカーをすることで運動はしているわけですから、あとはレスト(休み)と睡眠と栄養をしっかりとることです。チーム練習も長時間やるのではなく、ハイインテンシティで60分取り組む。子どもが短い時間ですべてのパフォーマンスが出せるような環境にする。オーガナイズで無駄な時間を使わずにトレーニングの強度を高くして終わったらサッと帰る。そういう形にトレーニングも変わってくると思います。

――少年サッカーのチームによっては、活動再開後に、これまで練習ができなかった分を取り戻そうと練習量を増やすかもしれないです。

それは逆効果だと思います。子どもは、そんなに早くヘタにはなりません。初めは少し戸惑うこともあるかもしれませんがすぐに戻ります。むしろ、これまで日本の子どもたちは休みが足りなかったぐらいです。それが今回の事態で強制的にレストが与えられています。子どもたちにずっとかかっていた負荷が抜けるわけです。だから、今年12歳のサッカー少年が成人したときに平均身長が伸びているんじゃないかって興味があるんです。いずれにしろ育成に焦りは禁物です。どんなときであっても、一夜にしてスーパースターにはなれませんから長い目で見ることが大切です。帳尻を合わせようとするのではなく、いまできることを少しずつ積み上げる方が良いんじゃないかと私は思います。


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