8人制サッカー導入から見る、 日本のジュニアサッカー界の未来

2013年05月08日

コラム

これからのジュニアサッカー界に必要な視点

 ここ数年、横浜Fマリノスのアカデミー出身者がJリーグで多数活躍するようになった。

 そのジュニアチームであるプライマリーも追浜も、試合を見ればわかるが「勝負」を最優先していない。自分たちのプレーをいつ何時でも貫く。横浜Fマリノス・プライマリーの西谷冬樹監督はいう。

「僕も勝ちたいですよ。でも、やっぱり主役は子どもですから。指導者が勝負に拘りすぎてしまうと、子どもに強制させるケースが増えてきます。時には、指導としての強制も必要かもしれないけれど、そればかりになると、子どものプレーの選択の自由や判断力を奪うことになる。大事なことは自分の抱えている子どもを、次のステップに向けてどれだけ大きく成長させてあげられるかだと思いますね」  

 西谷氏のような指導スタンスで子どもに接している指導者は、4種年代に確実にいる。本誌の連載『町クラブでもうまい子どもは育てられる!』で指導理念を伝えている東京都武蔵野市の関前SC小島洋邦監督(東京都少年サッカー連盟渉外部長)であり、こちらも本誌で度々登場されるI.K.O市原アカデミーの池上正代表(現・京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクター)。

 三者とも、子どもの育成を長期的なスパンでとらえている点で共通している。子どもの将来の可能性を第一に考え、目の前の勝負に拘りすぎず、子どもに自分で考えさせながら、今を丁寧に指導している。

 目先の勝負に拘りすぎないための方策として、全少というチャンピオンシップを廃止して、勝負への拘りが緩和されるリーグ戦の導入を推進すべきという、根本の制度設計から見直そうとする考え方もある。

 しかし、西谷氏も小島氏も池上氏も、これまでの制度の中で長年指導を繰り返し、子どもを「長期的に育成する」姿勢に行き着いている。制度設計を議論することは、あくまで補助的なものなのかもしれない。

 もっとも重要なのは、指導者の姿勢であり、子どもを育成する環境だろう。

 FCコラソンのジュニアチームは神奈川県でベスト8ほどの実力を持つ。幼稚園から社会人チームまで一貫した指導環境が整っているため、ジュニアは勝負だけに拘っていない。

 コラソンの濱島一志コーチは「来春初めて教え子がJリーガーになるんですよ」と目を輝かせて話してくれた。

「10年かかりました。教え子にプロ選手が誕生する。そこに未熟ながら関われたことが僕の誇りです。長く愛情をもって大事に子どもを育てていく。そういう環境を整えていくことが大事ではないでしょうか」

 指導環境は異なるかもしれないが、純粋な街クラブの指導者にも「長く愛情を持って大事に子どもを育てる」ことは十分に可能なはずだ。

 この国には、子どものために底なしの努力ができる指導者がたくさんいる。サッカーが好きな子どもたちのために本当に必要な指導とは何か、そこを突き詰めて考えて、自らが深く学んでいく。

 そういう指導者に教わった子どもたちが、サッカーを好きな気持ちを失わずに育ち、サッカーとともに豊かな人生を歩んでいく。やがてその子が親となり、今度は自分の子どもにそれを伝える。そういう繰り返しが、日本において、サッカーが文化として根づくきっかけになるだろうし、そういう意味も含めて、今後のジュニアサッカー界が、一歩一歩着実に、より豊饒な実りを結ばせていくことを私は願っている。

 そして日本サッカー協会も、全国数多の指導者に「長期的な育成」の意識を引き出すアナウンスを続けるべきだ。できれば、地域の現場をくまなく歩いて伝えてほしい。さまざまな町クラブの指導者たちと会話をしてほしい。

 地域とともに歩む。地域とともに子どもを育てていく。日本サッカー協会が見せるそんな泥臭い姿勢は、少人数制サッカー改革をさらに推し進め、さらに日本のジュニアサッカー界がいい方向に進むための、大きなカギになるのではないだろうか。

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