プレイヤーズファーストを実践! 『選手が主役』のサッカー大会で見えたものとは?

2013年12月04日

コラム

幼いころから自主的な行動を馴染ませるために

そんななかで、今回が初めての参加となる千葉SC(千葉県千葉市)の子どもたちは「いつもとは違ったポジションを体験できて、これまでは気がつかなかったことにも気がつきました。そういう、よかったところもあるけれど、自分たちだけでやるのは難しかったです」と戸惑うこともあったようだ。

「普段、もちろんトレーニングではいろんなことを伝えないといけないのでコーチングをしますが、ゲームでは口を出しません。自分たちでできることは自分たちで、というスタンスで指導しています。その子どもの年齢に見合った内容で、やれることから任せていきます。低学年のうちには、自分ひとりで着替えられるようになり、準備も自分でできるようになる。そうやって自主的な行動に幼いころから馴染んでいって、それがサッカーのプレーにも還元できればいいと考えています。ですから、この大会に連れてきた子どもたちも、この日に経験した『自分たちのできること』に、これから取り組んでいけばいいと思います。彼らにとって、今後のために貴重な一日になったのではないでしょうか」と千葉SCの鵜飼和裕コーチは教え子にエールをおくる。

ボトムアップ導入は、そう簡単にうまくいくものではないのか。運営担当の金崎さんに聞いてみた。
「そうですね。その学年で対応できる部分から取り入れていくのが大切です。最近『小学生でもいきなり(選手主体の)ボトムアップをやれるんですか?』と質問されることが多くあります。高校生であれば可能でしょうが、小学生に、いきなり全部を任せてしまうのは無理な場合もあるかもしれません。できることから徐々に任せていくことが大切でしょう」

確かに、いつもは指導者が中心になって試合をコーディネートしているチームの子どもたちが、いきなり試合当日になって「きょうの試合は、君たちだけでやってごらん!」と言われても、どうやって対応したらよいのかわからず、混乱を招いてしまうだろう。

前出した長津田ドラゴンズの石原コーチは「だから、『今回は、こういう趣旨の大会に参加します』と事前に子どもたちに伝え、少しずつ、自分たちだけで考える時間を増やしていきました。例えば、子どもたち同士でのコミュニケーションについても、試合が終わってから、いきなり『何か気づいたことのある人?』と言っても子どもたちは黙ってしまいます。けれども、誰かひとりから意見が出ると連動して次々に発言されます。僕ら指導者は、子どもたちからそういう意見が出やすいように、引き出し役に徹していました」とこれまでの取り組み方を教えてくれた。

「本当は6歳の子どもでもできることを指導者や保護者が手を出してしまうこともありますよね。そのほうが大人にとっては面倒ではないし、楽だということもあるのでしょうが、任せられるものがあれば任せていきます。小学1年生でもカバンをきちんと並べることくらいはできますよね。そんな小さなことから取り組んでいけばいいのです。とはいえ、僕らは、このような指導方法について『絶対に子どもたちのためになりますから取り入れてください』と周囲の指導者や保護者に押しつけたりはしていません。『こういうやり方もあるので、参考にしてみてください』というスタンスで活動しています。僕たちがfootball connectionでやっているのは、ひとつの提案なんです」
football connectionの運営スタッフとして活動する田部宏和さん、丸山聡さん、奥山祐人さんはそう話す。

ピッチに目を向けると、二日目の最終試合が行われていた。東京世田谷FC(東京都世田谷区)対大豆戸FCの決勝戦。東京世田谷FCが1-0で逃げ切り優勝を決めた。あと一歩及ばなかった大豆戸FCの子どもたちは涙を浮かべ悔しそうな表情を見せていた。「自分たちで決めて、自分たちで行動して、すべて自分たちの力で真剣に取り組んできた。だからこそ試合にも勝ちたかったんでしょうね」そんな声が子どもたちを見守っていた大人たちから聞こえてきた。それでも二日間を通して、子どもたちはさまざまな困難にぶつかったり、それをどう解決していくか考えて話し合ったりしたことが、今後社会で生きていけるような“自立”を育む糧になったのではないだろうか。

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