流行を模倣してしまう日本サッカー界。求められるのは“ひとつの言葉”に惑わされない指導者の判断力

2015年08月05日

コラム

「いま、世界の主流である縦に速い攻撃」。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が日本代表の監督に就任してから、メディアを中心にそういった類の言葉をよく目にするようになった。これは、数年前に「世界の主流であるバルセロナのようなポゼッション」という言葉をよく目にしたのと似たような状況である。こういったメディアが“流行”させたひとつの言葉を切り取って、それを鵜呑みにしてしまうことは、日本サッカー界が陥りがちな悪癖であると、現在発売中の『フットボール批評issue06』(カンゼン)のなかでサッカーライターの西部謙司氏は解説している。

(文●西部謙司 写真●Getty Images)

『フットボール批評issue06 決定力不足の正体』より一部抜粋


MELBOURNE, AUSTRALIA - JANUARY 20: A general view during the 2015 Asian Cup match between Japan and Jordan at AAMI Park on January 20, 2015 in Melbourne, Australia.  (Photo by Robert Cianflone/Getty Images)

流行に左右される日本サッカー界の悪癖

 ボールゲームで速攻が有利なのは論を待たない。速攻と遅攻のどちらをどれだけ重視するかの線引きはあっても、カウンターのチャンスをみすみす見逃す手はない。

 危惧されるのは、「ハリルホジッチがそう言っているから」「流行だから」という理由だけで、若い選手たちに「縦に速い攻撃」を強要する指導者が続出しないかということである。まさかそんなことはないと思いたいのだが、過去には「フラット・スリー」でオフサイドトラップをかけまくる少年チームや、「バルサのポゼッション」を模倣してポゼッションは高くなったが得点は増えず、カウンターから失点が増すという結果に陥ったチームも実際にあった。

 筆者が知らないところでは、もっと多くの〝流行に敏感な〟指導者も大勢いたようなので、ひょっとしたら日本サッカー界の傾向なのかもしれない。
 
 ポゼッションの時代は終わっていない。というより、そもそもポゼッションの時代などない。ボールポゼッションの高さを利用して成功を収めたチームがいくつかあり、それを阻止するために守備を強化したチームがいくつかあっただけだ。従ってカウンターの時代というのも来ない。

 カウンターが得意なチームはあっても、わざと持っているボールを相手に渡すチームは見たことがない。ポゼッションもカウンターも、パスもドリブルもセットプレーも全部あるのがサッカーだ。そのどこを強調して、勝つための攻守の流れを組むのかはチームそれぞれの事情による。当たり前だが決めるのは流行ではない。(続きは『フットボール批評06』でお楽しみください)。


vol36

⇒ハリルホジッチ監督でも治せない「決定力不足」という病。はたしてその正体は何なのか? また、ブラジルW杯のギリシャ戦、アジアカップのUAE戦、W杯予選のシンガポール戦と日本代表が引いた相手を崩せないのは偶然なのか? この命題を解かないかぎり、日本はアジアでも勝てなくなるだろう。

 

フットボール批評issue06 決定力不足の正体
【発行】株式会社カンゼン
B5判/128ページ


 

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