中学3年生で越境して得たものとは? 松本山雅FC・田中隼磨選手の中学時代
2016年05月13日
コラムサッカーのための濃密な日々
幸い安達亮監督というプロの指導者に人生で初めて巡り合い、「サッカーのイロハ」を一から全部そこで教わった。周囲の選手たちのレベルの高さも含め、「これが自分の求めていた厳しい環境なんだ」と感じて、負けず嫌いの性分を存分に発揮しながら成長することができた。今にして振り返れば、真新しいスポンジがみるみる水分を吸収するみたいにどんどん新しいことを身に付けていった時期なんだと思う。
安達さんは市立船橋(千葉)で高校サッカー出身だったこともあるのか、ピッチ外の指導も重視する人で、「人間としてしっかりしていないとプロサッカー選手にはなれない」ということを繰り返し強調された。きっちり時間を守ること、普段の生活態度を真面目にすること。松本にいた当時にはなかなかそういう部分の必要性は感じられなかったから、その意味でまず鮮烈なインパクトがあった。安達さんは松本から出てきた自分が何も知らない状態だとわかっていたのだと思う。
だからこそ、寮長さんとか寮母さんにあらかじめ手を回して、食事面なども人一倍気を遣うように水を向けていてくれたらしい。高校に上がってからは、学校に訪問して校内での生活態度を先生から聞いたりとか、色々な側面で骨を折って「教育」してくれた。
もちろんピッチ内のプレーについても全てを教わった。中学校時代までに基本の部分は教わっていたかもしれないけれど、サッカーと言えるだけのサッカーを教わったのはそれが初めてだった。特に自分に対しては、個人戦術についての指導が多かったのを覚えている。ドリブルやトラップの精度はもちろん、状況に応じたプレーの選択などだ。カウンターのときはこう動く、そうじゃないときは無理して仕掛けなくていいとか。
チーム戦術の指導もあるにはあったけれども、どちらかと言えば自分に関しては個人にフォーカスして目を掛けてくれていた。体調管理にしてもそう。練習後にしっかりストレッチをすること、すぐに食べること。今でこそ当たり前だけど、言われないとなかなか自分で気づくことはできない部分だった。本格的にウエイトトレーニングを始めたのもそこからだ。松本にいた当時はトレーニング器具を使ってガンガンやるなんていう環境がなかったし、そもそも自分にとってもそんな発想自体がなかった。ユースの練習場には筋トレができるスペースがあったので、日々の練習の中はもちろん、練習前にも自主的に取り組み始めた。寮での食事もたくさんの量がバランス良く出てきたから、フィジカル面でも成長することができたと思う。
そして中学3年生の終わり頃には、何とトップチームの練習にも何度か参加させてくれた。子どもの頃に何度も見ていたバルセロナを率いていたカルロス・レシャックが監督をしている、到達点とすべき本物のトップチームだ。松本から出てきてまだ2、3カ月くらいの状態でいきなりそんな場所に放り込まれたのは強すぎる刺激だったけれども、「ここで力をつけて試合に出るんだ」と決意を新たにするには最高の時間だった。
田中隼磨、本人初の自伝。松本の街で成長して、どのような成長の軌跡を描いてきたのか。少年時代にスポーツに明け暮れた少年は、サッカーを選択して、15歳で横浜フリューゲルスユースへと越境した。消滅したチームでの思い、合併したアカデミーチームなかで「プロになる」意志を貫いて夢を叶え、横浜F・マリノス、東京ヴェルディ、名古屋グランパスでキャリアを歩んできた。二度のJリーグ制覇、日本代表招集、再び戻った松本山雅の昇格……。闘志をあらわにしながら、ピッチと人生を疾走してきたプレーヤーは、幾多の出会いに囲まれ成長し、育った街であらためてプロとして走り続けている。故郷に誕生したクラブに伝えたい、残したい、そして選手として声援をくれるファン・サポーター、将来の選手たちへの思いを詰め込んだ一冊。
【商品名】『闘走心 一戦一勝一瞬に身を捧げる覚悟』
四六版型/240ページ
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