湘南ベルマーレ・曺貴裁監督が語る“監督論”。「監督として最も咎められる言動は…」

2018年02月13日

コラム

「お前は本当に正直すぎるよ。それじゃあダメだ」

 早稲田大学ア式蹴球部の大先輩で、いま現在はJFLのFC今治のオーナーに就き、16年3月からは日本サッカー協会の副会長にも就任した岡田武史さんからは、機会があるたびにこんな言葉をかけられてきた。

「お前は本当に正直すぎるよ。それじゃあダメだ」

 年に一度は、昨年で言えば5月に練習の合間をぬって今治へ足を運び、直接話を聞いている。日本代表を一番上のステージ、ワールドカップの舞台に2度も導いた代表監督経験者の言葉には含蓄があるし、吉武博文監督以下のコーチングスタッフの方々と話すのも刺激になる。

 FC今治のオーナーになる前からも、さまざまなタイミングで連絡をいただいてきた。そうしたやり取りのなかで、自分のやりたいスタイルや戦い方を貫くだけではダメだ、嵐に見舞われたときはそれなりのことをしなければいけないのがサッカーだ、と幾度となく指摘されてきた。

 岡田さんには感謝しながらも、正直すぎると言われたことに関しては、心のどこかで「別にいいのでは」と思ってきた。実際、僕は子どものころから、嘘をつくことや格好をつけることが大嫌いだった。

 指導者になってからもそういう性格は変わらず、特にベルマーレの監督になってからは、真正面から正直に戦えば相手にとっても戦いやすいし、結局はその壁を乗り越えられていないとずっと言われてきた。

 それでも「自分が望んでいないことまでして勝ちたくない」と、自分に言い聞かせてきた。しかし、昨シーズンのチームを率いているうちに、どこか頑なだった考え方に変化が生じてきた。正直という信念にこだわるよりも、選手たちが抱く勝ちたい気持ちのほうがはるかに大事なのではないか、と。

 選手たちの気持ちに乗っかってみれば、試合への臨ませ方や勝たせ方も一本調子ではダメだと思えるようになった。もちろん、目の前の試合にどんなかたちでも勝てばすべてよし、というわけでもない。夢がなければ人生は面白くないけれども、だからといって変に理想をかざすような指導はしない。

 対照的な考え方のはざまで、常にバランスを取るようにした。自分なりの開き直りの境地に達したのは、スペインでのキャンプから帰国し、開幕までの最終的な準備を終えて、実際に10試合ほどを消化した昨年の4月の終わりごろだったと記憶している。

 考え方の変化がよかったのか、あるいは悪かったのかはもちろんいまでもわからない。もしかすると理想を追求していったほうが、長い目で見ればよかったのかもしれない。それでも、昨シーズンにおいては選手たちの思いを尊重するべきだと素直に思えるようになった。

PRETORIA, SOUTH AFRICA - JUNE 29:  Takeshi Okada head coach of Japan directs his team during the 2010 FIFA World Cup South Africa Round of Sixteen match between Paraguay and Japan at Loftus Versfeld Stadium on June 29, 2010 in Pretoria, South Africa.  (Photo by Mark Kolbe/Getty Images)
【曺監督の大学の先輩である元日本代表監督・岡田武史氏(写真●Getty Images)】

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