チャンスをつかめるかは結果論。湘南ベルマーレ曺貴裁監督が考える“指揮官の責任”。
2018年02月20日
コラムチャンスで普段の生き様が見えることが大事
必死に努力を積み重ねてきた選手がチャンスをつかめたかどうかは、すべては結果次第となる。結果がよければ「このチャンスをものにしようと思っていた」と言えるし、あるいは「チャンスが巡ってくることをいつも想像していた」と、終わった後で何とでも言い換えることもできる。
もっとも、試合に出て活躍することだけがチャンスではないと僕は思っている。試合に出られないときに何をどう感じるのかも長い目で見ればチャンスだし、プロになったものの活躍できず、サッカーを辞めざるを得ないときも、その後の人生を豊にしていく視点で見ればチャンスになる。
僕自身もコーチから監督になった12年に当たり前のことだが「よし、チャンスが来た」とは思えなかった。ただベルマーレというクラブから求められたことにどれだけ応えられるかを考えていた。たとえば将来的にヨーロッパのクラブで指揮を執りたいと望んでも、自分を高めるための努力には限界はない一方で、訪れるかどうかもわからないチャンスに対してどうすることもできない。
すべては考え方次第だからこそ、僕は指導者として「チャンスをつかめなかったお前たちが悪い」という気持ちを抱いたことは一度もない。
要は選手の立場から言えば、日々の練習を通じて自分自身を高めていく努力を積み重ねていくしかない。だからこそ、監督の立場から言えば、チャンスは与えるものとなる。
そこで「チャンスが来た、やってやろう」と臨んだときのプレーは余計な気負いが生じる分だけ、実はたいしたことはない。平常心で試合に臨むことが何よりも大事で、ヴェルディ戦で言えば十代の彼らが平常心でプレーできることは、直前の練習における一挙手一投足を見てわかっていた。
だからこそ、ヴェルディ戦後の監督会見では「チャンスは与えるものだと思っています」に、こんな言葉を紡ぐことも忘れなかった。
「与えられたチャンスで普段の生き様が見えることがその子にとっては大事で、それが良かろうが悪かろうが、責任は監督にあるわけです」
たとえばトップチームで初めて試合に出た若手選手が、終了後に「いい経験になりました」と心境を語ったとする。この選手の発言を聞くと次の試合の起用を迷わざるを得ない。彼に経験を積ませるために出したわけではないからだ。
初めて出る選手に、チームの結果に対する責任をすべて負えと無理難題を押しつけるつもりは毛頭ない。ただ、ボールをもらう、奪うといった自分がするべきプレーに対して意欲と集中力があって、相手と夢中で戦おうとするメンタルが備わっているかどうかを僕はまず見る。
そのうえでチームの状態、相手チームの状況、ホームなのかアウェイなのか、天候はどうなのかといった点を鑑みながら、彼らを出場させたほうがチームにとってプラスになるかどうかのタイミングを見極める。
ヴェルディ戦後の記者会見では、チャンスに対してこう言及してもいる。
「責任をもって然るべき時期にチャンスを与えていかないと、まいた種が花を咲かせないままくすんでいってしまうと思っている」
然るべき時期とは1種類でもなく、ましてや100種類でもない。タイミングは刻一刻と変化していく。選手は常に選ばれる立場であるからこそ、監督に課せられる責任は大きい。そのなかで、僕は絶対に邪心を抱いてはいけないと自らに言い聞かせている。
若手を育てるベルマーレというイメージを、周囲に対して発信するためにも十代の選手3人を先発で起用しよう――そうした邪な思いが入ればいい試合はできないし、何よりも使われる選手たちのためにもならない。
自分のなかで気がついたら「あっ、3人も出ていたのか」という状況にならなければ意味をなさない。ヴェルディ戦はまさにそういう心理状態で、試合前夜の段階で先発させる11人を決めていた。
【商品名】『育成主義』
【発行】株式会社カンゼン
【著者】曺貴裁
【判型】四六判/256ページ
【発売】2018年2月20日
2017シーズン、J2優勝! 選手育成によって湘南ベルマーレを強靭なチームに作り上げた名将・曺監督による指導論とは。
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