「知らなかった」ではすまされない熱中症対策。正しい水分補給の“効果”と“限界”
2018年07月23日
コラム酷暑がつづく日本列島。本日お昼過ぎの埼玉県・熊谷市では国内観測史上最高となる「41.1度」を記録。そんななか、学校などは夏休みに入り日中にスポーツをする子どもたちの姿も多く見受けられます。もちろん、多くの指導者たちは気温の低い時間帯に練習時間を確保することや水分補給を促すなど熱中症の予防に力を入れていることでしょう。しかし、熱中症は人命に大きく関わる問題です。決して「軟弱だから」「根性が足りない」から発症するものではありません。指導者は十分な知識つけて配慮をしなければなりません。そこで今回は、日本サッカー協会フィジカルフィットネスプロジェクトメンバーの安松幹展さんの話に耳を傾けます。
取材・文●木之下潤 写真●松田杏子
※参照:「JFA指導指針2017」
水分補給は「15分」おきに
――例えば、7~8月にかけた夏のトレーニングで1週間というスケジュールを考えた場合、練習と休息はどのくらいが最適なのでしょうか?
安松「2017年にJFAが育成年代に関して指針(表1)を作成しています。10歳以下では1回60分以内の練習を2回、週末1回の試合は40分程度として週に合計300分以内のプレーを目安としています。11〜12歳では1回75分以内の練習を2回、週末の試合は60分程度として週に合計300分以内を推奨しています。夏場だと気温が上がるため、これ以上プレータイムが増えることは考えにくいでしょうから、これが適度な量だと言えるでしょう」
――JFAが掲げたジュニアのトレーニング量に関する指針があるとは勉強不足でした。ただ練習や試合の時間帯によると思います。何時頃が最適なのでしょうか?
安松「これはジュニアに限りませんが、朝の涼しい時間帯か、暑さが落ち着いた夜の時間帯が最適です。体が小さい方が熱の影響を受けやすいので、時間帯というのは非常に重要なポイントです。でも、実際は各クラブによってグラウンドが使用できる環境が違うので難しい場合もあるでしょう」
――おっしゃる通り、クラブによって環境が異なる上、指導者の経験も大きく左右すると思います。練習時間も年代に関係なく2時間ぐらいは行われていますし、試合だって1日に3試合ぐらいはやっているのが現状です。
安松「過去のデータでは練習を3時間半ぐらいやっているチームもあります。例えば3時間の練習をやったとして『水を飲むタイミングはどうなのか?』というところがあります。30分に1回、1時間に1回しか水分補給をしないクラブもあれば、15分ごとにこまめに摂るクラブもあります。3時間の練習をしたとしても、1時間おきに20分の休息をとるクラブがあって、そういう状況だと選手たちは水をがぶ飲みしてしまいます。そうすると、水が胃にたまった状態になり、気持ちが悪くなる選手が出てきてしまいます。まだ水の飲み方については浸透していないのが現実なので、水はこまめに少しずつ飲むことが大事です」
――水分補給はこまめがいい、と。
安松「夏は特に汗で水分が体から抜けてしまいますので、15分ぐらいトレーニングしたら水を飲み、また15分ぐらいトレーニングしたら水を飲む。そういうサイクルを作るのがジュニア年代にとっては体への負担が最小限にできるというのが調査結果です。練習時間についても短くて、質の高い内容がベストです。夏場に長い練習をやるにせよ、水分補給とともにまめに休息をとってあげるなどの工夫が必要です」
――練習を3時間はやりすぎですが、2時間は現実だと思います。
安松「練習時間を長くやると、どうしても『休憩も長めにとろう』と思いがちです。そうすると、水をたくさん飲んでしまってお腹がたぷたぷになるし、かといって『飲みすぎるな』というと脱水を起こす可能性があるため、私たちも言い方が難しいです。水をがぶ飲みすると、胃がたぷたぷして不快感につながり、気持ちが悪くなるという悪循環に陥ります。だから、夏場は特に短い時間に三口ぐらい、こまめに水を飲むことを推奨しているのです」
――そもそも練習時間を長くしても子どもたちの集中力が持続しません。
安松「60分や75分という数字を目にすると、実際は選手も指導者も『え?』という気持ちになります。私も最近は大学生の女子サッカーの指導をしていますが、逆に3時間の練習メニューを組むのが難しい。私の場合は75分で練習を計画し、その時々で90分ぐらいで終えられるようにつないでいます。それでも物足りない選手は自主練という形を取っています。先ほど朝や夕方の涼しい時間帯の練習がいいと伝えました。あれは涼しい時間が短いからだという理由も一つです。具体的には8〜10時の2時間が限度です。夏場は10時を超えたら気温が上昇しますから」
――練習内容にも課題があります。
安松「育成現場ではまだ技術練習ばかりが行われています。それでは子どもたちも退屈しますし、楽しくありません。もっとゲーム性の要素やフィジカルの要素を盛り込むなどトレーニングを工夫する必要性を、JFAの指導者養成講習会などで発信することが重要だと思います」
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