なぜバルサはうまくいってないのか? 監督が語るその理由/ワーチャレ取材日記②

2018年08月25日

U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2018

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11人制サッカーに切り替わる最初だからこそ哲学を植え付ける!

――昨年に比べて、日本人選手のプレーの印象はどうですか?

監督「昨年取材に応じた時には言っていなかったかもしれませんが、判断力に目がいきました。正しい判断ができていなかったり、判断が遅かったり、そういうところが気になっていました。バルサのスタッフとして働いている友人たちとも話をしていて、日本サッカーのことは追っていました。

 今大会を通して感じるのは、判断の部分が改善されてきています。日本人の特徴としては選手の能力は高いし、言われたことを素直に受け入れてプレーできるため、どんどん伸びてきています。これからもどんどんよくなっていくと思います」

――3試合目終了後の囲み取材では「チームはあまりよくいっていない」とコメントされていました。その理由を教えてください。

監督「一番の原因は先ほども答えた通り、7人制サッカーから11人制サッカーに切り替わる年代で、しかもバルサはここから7人制サッカーを戦ってきた2つのカテゴリーから選んだ選手がリーグを戦っていきます。つまり、2つのカテゴリーが融合する年代であることと、11人制サッカーへの適応という2つ目の面で苦しんでいるのかなと現段階では感じています。

 その一方で、逆にそこをポジティブに受け止めている部分もあります。そこからうまくいかないことによって選手たちが『もっとうまくやりたい』と貪欲になり、今後の成長につながっていくと考えている部分もあるからです」

――1試合目から2試合目と、私の印象では11人制に適応し始めてチームとしてプレーするサッカーの質がグンと1段階上がりました。昨日は「ここから今日はうまくいくかな」と思っていましたが、3試合目を見た印象だとチーム力としては停滞した感じがあります。1試合目から2試合目の変化としてはサイドバックの位置が高くなったことによって、様々な状況が変えられたと見ています。そのあたりはどうですか?

監督「おっしゃる通り、1試合目から2試合目にかけて改善されたことがありました。選手たちに指示したのは、サイドバックの位置を高くすることによって2対1の状況を作り出しやすくしました。そのことは改善点として挙げられます。2試合目から3試合目にかけてチーム力として伸びがなかったのは、3試合目は別のテーマを設けたからだと思います。そのテーマはもっと練習を積んでいかないとプレーがうまくいかない内容だったので、その部分で3試合目の最初の15~20分は選手たちが戸惑ってしまい、何をしたらいいのかがわからないようでした。他にも、実際にプレーしたことのないポジションで試している選手もいたので、個々が「どうプレーしたらいいのか」というのがまだ浸透していないというのがあります」

――なるほど。戦術的なところがあるので言える範囲で答えてもらえたらと思います。外から見た範囲だと、昨日はセンターバック2枚で横の幅をいっぱいに使っていました。でも、今日はボランチが1枚ディフェンスラインまで落ちてきてディフェンスラインを対称的にそれぞれ2枚ずつ斜めの位置に取らせることでゲームをうまく運ぼうというように見えました。

監督「ボランチが落ちてきてプレーしていた理由は、相手チームが3トップで全員でプレスをかけてきたからです。相手のウイングの選手を下げさせるためには、サイドバックに高い位置をとらせる必要がありました。そのためにボランチを落とし、相手のセンターフォワードと3対1の形をとってボールの循環を起こすためにそういうプレーに徹しました。ボランチが下に落ちることによって中盤にスペースが生まれるため、ウインガーの選手がそこを使うことができます。今日はそういうテーマを意識してプレーさせました」

――あえてチームとして一つ上の段階に上るために狙ってアプローチしていることなのですか? 日本ではそのために「子どもたちに壁を作る」ということもあるのですが。

監督「7人制から11人制に切り替わることでポジションの数が増えます。実際にプレーする上では各ポジションの役割などを知ることも重要になるので、そういうことを選手たちに教える必要があります。壁と作るというよりは、11人制サッカーのFCバルセロナのプレー哲学として必要なことなので、11人制に切り替わる最初のうちからそれを教えることでそういったアプローチをとりました」

――一概には比較できませんが、プレスバックが早かったり複数で囲んだりと、2試合目と3試合目は去年のチームに比べると守備のところで意識が高かったように感じました。

監督「去年の選手たちにも今年の選手たちにも伝えていることは同じなのですが、その内容はバルサのトレーニングメソッドやプレー哲学についてです。例えば、その哲学は他のチームと真逆のことを伝えていると思います。それは守備をする時は一歩前に出る、攻撃をする時は一歩後ろに下がるということです。攻撃をする時はスペースが必要になるのでそのためには一歩下がってスペースを広くとった方がいいし、反対に守備をする時は早く守るために一歩前に出ることは常に心がけてやっていることです。でも、この年代の子どもたちにとって、それは非常に難しいことです。なぜなら前に出ることで裏にスペースが生まれるからです。ただ、それは今後バルサのサッカーとして一貫してプレーしていかなければならないので、私たちのプレー哲学はこの年代から一貫して指導しています」

――そういうところでいえば、今年のボランチは前に出過ぎていますし、サイドの選手は前への意識が高すぎて体の作り方がうまくなかったりしています。そのあたりは監督の目から見ていかがですか?

監督「実際にコーチたちがミーティングで問題点として挙げていることをズバズバと当てられてしまっています。バルサは常に優位にサッカーを進めることをテーマに掲げています。一般的に数的優位という言葉が使われますが、そういうことだけでなくポジションの優位性やスペースの使い方の優位性というのもテーマとしてトレーニングしています。そのポジショニングとしてはセントラルミッドフィルダーの選手が相手のディフェンスの裏のスペースで受けることによって相手ディフェンスのラインを一つ超えていているということです。バルサとしてはそういうことを意識してプレーしています。今年のチームは全体的に前がかりになりすぎてしまっていたり、それぞれのポジショニングが悪かったりしてボールを失ってしまっています。その時に何が起こるかといえば、ボールよりも前に人数をかけてしまっている状態です。そこに問題が起きているので、そこは改善しないといけないなと思っています」

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――そこは攻撃と守備は表裏一体で、そこが改善されると守備にも攻撃にもいい影響が生まれるということですか?

監督「バルサの基本的な考え方として攻撃と守備は切り離せないものです。いい配置で攻撃をしていれば、もしボールを失ったとしてもそこはいいポジションにいるのでいい守備に移ることができます。すぐにボールを奪い返せなかったとしても、相手にとっていいスペースを突かれない守備をできるので、そこは常に意識しながら関連付けながらプレーしています」

――U12といえば、11人制に上がる狭間の年代で指導の難しさを感じるコーチも多いです。それはサッカー指導の点と子どもたちの発育・発達という成長の点の両方が理由に挙げられると思います。スペインではどういう指導をしているのか教えてもらえますか?

監督「特にこの11人制の切り替わりの三ヶ月は難しい時期です。メンタル的な理由、フィジカル的な理由、環境的な理由、様々なことが起因していると思います。ボールの大きさ、ピッチの大きさ、多くの面で環境が変わるため、指導者にとっても難しいと思います。その一方で選手が一番成長できる時期であるため、彼らを全力でサポートすることが大切です。ただ選手たちにメンタル的な適応を求めなければいけない時期に切り替わっていきます。これまでは試合にも均等に出場できる環境でしたが、11人制になることでベンチに座る機会が増えたり、ベンチ外になったりすることを受け入れられるようなサポートが必要になってきます。日々そういうことに向き合うことで誰が本当にプロになりたくて、誰がプロになれない選手なのかの見極めが徐々にできてくる年代へと入っていくので、コーチたちも命がけと言ってもいいくらい真剣に向き合う時期になってくると思います。

 特に今大会を戦うバルサの選手たちはインファンティルのリーグを戦う1年目になります。他のチームはほとんどが2年目として戦います。つまり、年上の選手たちと1年間リーグ戦を戦うことになります。この年代での一年の差は身体的な差が出てきてしまうのですが、バルサとしてはそういう環境下でも忍耐力を持って体で勝負をするのではなく、バルセロナのサッカーをして、技術的にいいプレーをして相手を圧倒することによって今後の成長につなげたいと考えています」

――今年は監督自身がすごく感情を選手たちにストレートにぶつけるシーンが見られます。そこには意図的なものがあるのですか?

監督「結論からいえば、わざと意識的にやっているところはあります。サッカーの面でいうと、今の時期はプレシーズンにあたり、子どもたちとの時間がたくさん作ることができます。選手たちに多くのことを伝えてトレーニングをする時間が持てます。まず、こちらが何を求めているのかが大事になります。それは選手たちがチームに慣れてしまってからではそれを浸透させるのは遅かったり難しかったりします。やはり、シーズンの始めに『バルサとしては何をしないといけないのか』、『どういうふうにプレーをしないといけないのか』を最初に強く伝えることで選手たちに植え付けることをしています」

――そのあたりは基準を与えるためですか?

監督「何がいいのか、何が悪いのかをはっきりさせるというよりは、バルサが何を求めているのか、何を求めていないのかをはっきりさせることが大事だと思っているし、そういう時期だと捉えています。何を求めているのかを伝えるためには、そういうプレーをできた時にすごく褒めたりして、『これが求めていたプレーなんだ』ということを選手たちが意識してくれるように接しています。逆に求めていないプレーをした時に罰を与えるわけではありませんが、『それがほしいのではないよ』ということをしっかりわからせることが大事です。この時期は人間関係を作っていくための時間でもあるので、『選手たちがコーチを知る』『選手たちがコーチを知る』という意味でも大切な時期です」

――時間も迫ってきたので、最後にこの大会をチームとしてどのレベルまで引き上げたいと考えていますか?

監督「バルサとしては常にどのトーナメントを勝ちに行っています。ただ、それは内容の伴った勝利を目指していることがベースにあります。そうやって勝つことを知ることが選手育成の一環だと捉えているので、常にいいプレーをして勝つことを意識させたいと思います」

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