ミスしても「よっしゃ、よっしゃ」。決断は本人に任せる。“高卒Jリーガー”の家族に見るサポートのかたち
2019年01月18日
コラムレノファ山口への入団が決まっている起海斗選手は、12月中旬に開かれた興國高校Jリーグ内定者合同記者会見で涙を流した。涙の裏に秘められていたのは“家族への感謝”だった。起選手の家族はどのようなサポートで彼を支え続けてきたのだろうか。
取材・文・写真●吉村憲文
【起海斗選手の家族。写真左上はレノファ山口の石原正康ゼネラルマネージャー】
「失敗しても、その失敗が好き」
興國高校からプロに進む5人の選手(サッカー部3人、在校生でU-18セレッソ大阪所属2人)の記者会見でひと際印象に残ったシーンがありました。それは家族のことを聞かれた起海斗選手(レノファ山口)が、感謝の言葉を口にした瞬間、涙をこぼしたことです。その思いを本人に聞くと「中学の時は僕が学校に登校するのと同じくらい、親が学校にきている感じでした」と、ずいぶん迷惑をかけたといいます。逆にそんな彼を支え続けた家族があったからこそ、2019年シーズンをレノファ山口の選手として迎えることができるといいます。そこで起選手のお母さんにどのようなサポートを続けてきたのかを伺いました。
「(中学の頃は)確かにそうでした。でもサッカーのことは一切口を出していません。高校を(全国大会出場経験のない)興國に決めたのも。実際には静岡とか山梨とか何校からか声を掛けていただきました。いい話を貰っていたのですが、本人が『興國がいい』って。親としたら、すごくいい条件を出していただいていたので、普段はサッカーのことは何も言わないのですが、ちょっとだけ話をしたことがあります。でも最初から内野監督の下でサッカーをしたいと。それで最終的に任せたんです。やっぱり本人に任せたから今がありますし、サッカーのことを私たちは何も知らず、何もしてこなかったので。特に私は。
ただ、子どもがサッカーを本気で始めてからは、主人がサッカーの監督ライセンスを取ったりしました。学校の子ども会レベルなんですが、勉強をして一緒にサッカーを学ぼうとしていました。だからといって口出しはしないんです。別の形でサッカーを勉強しています。
主人もサッカーは知らないんですが、サッカーをしている息子が大好きなんです。全部『よっしゃ、よっしゃ』って。ミスしても『よっしゃ、よっしゃ』で。『そこあかんやろ』とかでなくて、ミスしても『次、次』みたいな。息子のサッカーを見るのが好きで、失敗しても、その失敗が好きで。とにかくサッカーをしている姿を見るのが好きです」
――現実的には試合中に大きな声で指示を出したり、悪態をついたりする親も実際にいますよね?
「それを見てて、絶対に子どもが気持ちよくサッカーをできないのを間近で見てきました。だから口を出さずに(本人に)任せました」
――起選手は何歳からサッカーを?
「小1からです。ホンマに小さい頃に公園でサッカーをさせてみたら、パッと左足が出たんです。それで『この子、左利きやん』って。それでサッカーをさせてみたら、思いのほか本人がサッカーにはまってしまって。私らはサッカーなんて全然分からないんですが、それがきっかけでした。
中学の時は大阪市ジュネッスというチームでした。ただ私たちが素人なので、どういう指導がいいのかというのが分からなかったんですが、とにかくサッカーが好きというのは日々伝わってきました。いいチームに入ったなと思いました」
――体を大きくするには食事など、母親としてのサポートがあると思いますが、そこはどのようにされましたか?
「ネットです。とにかく調べました。試合後の回復にはどうするとか、何を食べるかとか。かといってそのすべてができていたわけではありませんが、勉強はしました」
――チームによっては練習時間が長すぎて、他のことに時間を割けないというところもありますが。
「本人のプライベートはプライベートで充実していたと思います(笑)。でもそれがあるからサッカーも集中してできていたんだと思います。友達と遊ぶときは、ホンマに遊んでましたし、でもサッカーの時はしっかり切り替えてやってました。『そんなに遊んでて大丈夫?』って思うこともありましたが、サッカーとなるとパッと顔が切り替わっていました。オン・オフっていうのは大事だなって思いますね」
「最初は『もうちょっと、サッカーしなくてええの?』『自主練しなくてええの?』みたいに私たちは思っていたんですが、やっぱりこうしてみると、友達と遊んでいた時間もここに繋がっていたんだなぁって思います」
――彼は(レノファ)山口を選びましたが?
「山口の練習に参加してからは、チームの雰囲気であったり、監督さんのお話を受けて、本人が『山口しかない』と。山口の選手で小野瀬康介選手のようにG大阪に引き抜かれたりというものあるので。もちろん山口のためにがんばって欲しいですし、そこから巣立ってというのもあるかもしれません。でもここからは親としてできるのは応援だけですね」
親としてのスタンスは終始一貫。サポートはするけど口出しはしない。大事なことは本人の意思に任せる。誰もが大事なことだと分かっているけどなかなかできないことを、起家の家族は実践していたことが分かる。子どもをサッカー選手にしたい親こそ、こうした姿勢を学んでもらえたらと心から思う。
<関連リンク>
・個性的。“全国経験のない”興國高校サッカー部出身のプロ選手に「共通」するもの
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