いわきFCが取り入れる“東ドイツの知見”。発育に応じて「育成プランを変えていく必要がある」
2019年01月28日
コラム2017シーズン天皇杯全日本サッカー選手権でJ1の北海道コンサドーレ札幌を撃破するなど、衝撃的なジャイアントキリング旋風とともに脚光を浴びたいわきFC。天皇杯での躍進をキッカケにJ1のクラブにも勝るとも劣らない施設や、クラブのヴィジョンに掲げる「日本のフィジカルスタンダードを変える」というセンセーショナルな言葉が様々なメディアに取り上げられ話題となった。一方で彼らは「育成」にも力を入れ、着々と地域に根差したクラブになっている。今回はいわきFCでアカデミーアドバイザーとして育成に携わる、小俣よしのぶ氏の言葉から「暦年齢」と「生物学的年齢」について考えていく。
【連載】いわきFCの果てなき夢
取材・文●藤江直人 写真●Getty Images、ジュニサカ編集部
【小俣よしのぶ氏インタビュー第2回】「有能感」を持たせる。それが一番大事。いわきFCが運動能力にアプローチする理由

【いわきスポーツクラブ(いわきFC)でアドバイザーを務める小俣よしのぶ氏】
中1と小1が同じ条件下でプレーする可能性
東西冷戦時代にスポーツ強国として名を馳せた、東ドイツで生み出された最先端のスポーツ科学が世紀を超えて福島県いわき市へ受け継がれ、未来を担う子どもたちを支えている。こう表現すると大げさに聞こえるかもしれないが、実際にいわきFCのアカデミー組織では従来の概念とは異なる育成方法が取り入れられている。
伝道役を担っているのは、2019年から東北社会人サッカーリーグ1部を主戦場とするいわきFCのアドバイザーを務める、ジュニア年代のトレーニングにおける第一人者で育成システムの研究家として知られる小俣よしのぶ氏だ。
アメリカンフットボール出身の小俣氏と東ドイツの接点は、1988年のソウルオリンピックにまでさかのぼる。指導者になる夢をかなえるためにアメリカへ留学した小俣氏は、コーチの養成システムどころか、選手の育成システムも何も存在しない、ひたすらフィジカルトレーニングと“淘汰競争”を繰り返していたアメリカの競技スポーツ界の実情に愕然とさせられる。
そうした状況でテレビ越しに観戦したのがソウルオリンピックであり、目を引いたのが東ドイツの強さだった。金メダル数37、銀メダルと銅メダルを含めた総メダル数102はともにソ連に次ぐ2位で、スポーツ大国のはずのアメリカの金メダル数36、総メダル数94をそれぞれ上回った。
「以前から東側の国々にも興味があったので、アメリカに見切りをつけて帰国して、自分なりに調査を始めました。最初はソ連の調査から入りましたが、実は大国だから可能な強化戦略でした。対照的に東ドイツは人口が1600万人くらいなのに、アメリカに勝っている。理由を調べていくと、西側諸国よりも数十年先を進んでいる、ものすごく先進的なスポーツ科学の知見に基づいた理論と育成システムを構築していた。実は私たちが学んでいるスポーツ科学のほとんどは、この時代に東ドイツとソ連で作られたものなんです」
東ドイツそのものは1990年10月に西ドイツへ編入される形で消滅したが、スポーツ科学に関する情報はしばらく秘密のベールに包まれたままだった。そこで東ドイツへの留学経験があり、日本における数少ない東ドイツのトレーニング学研究者だった鳴門教育大学の綿引勝美教授に師事し、小俣氏は調査を続けた。そして、東ドイツの育成システムの秘密の一つが子どもたちの『生物学年齢』を特定した上で、育成及び強化にあたっていたということがわかった。
「これは、現代の育成メソッドにおいては常識になっていますが、その時代はまだわかっていなかったのです。子どもには成人するまでに、生まれて経た年数である暦年齢とは別に、骨の形成年齢に基づいた生物学年齢があるんです。東ドイツの知見から分かったのは、どうやら暦年齢と生物学年齢の差は最大で±3歳くらいある、ということなんです。例えば10歳のカテゴリーの中に、生物学年齢が13歳の中学生と7歳の小学校低学年がいる、ということ。それなのに、同じ条件の下でプレーしなければならない、というのが子どものスポーツにおける大きな問題です」

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