夕食は18時が理想的。それができない場合は? 「睡眠の質」を高める栄養素
2019年02月26日
フィジカル/メディカル前回、2月の食育連載テーマは「次の学年への準備」として「集中力を高める」工夫の仕方をご紹介しましたが、そのためには「睡眠の質を高める」ことも大事です。そこで2月の第二弾は睡眠の質を高めることの大切さと、食事からのフォローの仕方を管理栄養士の川上えり先生に教えてもらいました。
構成●宇野美貴子
【前回】子どもの「糖質カット」は危険! 集中力を高める食事の工夫とは?
【管理栄養士の川上えり先生(写真●ジュニサカ編集部)】
夕食は眠る3時間前にすませるか、消化の良いものを食べる
「眠り」について考えたいと思います。一般的には、太陽の光を浴びながら体を動かしていれば、「眠らないで」と言ってもグッスリ眠ってしまうほどではないでしょうか。このように昼間は太陽光を浴びながら活動し、夜になって眠くなったら寝るというのは、本来、人間に備わっている体内時計に合わせた、生体リズムです。
しかし、最近はゲームやインターネットといったものが子どもたちの生活にも入り込み、体内時計が乱れていると言われています。では、体内時計が乱れると、どうなるか。表れやすいのが自律神経のバランスが乱れです。血行が悪くなったり、体温が上がりにくくなったりすることで、疲れが取りにくかったり、記憶力や集中力がアップされなかったり、不安を感じやすくなったり、風邪をひきやすくなったり…あまり良いことはありません。
世界的な経済誌フォーブスの日本版である「フォーブスジャパン」のweb版に、スポーツ選手を取り上げ、「睡眠不足は運動能力を下げるのか」という記事が2017年6月18日に掲載されたことがあります。
「ジャーナル『スポーツメディスン』2015年2月号に掲載されたレビュー論文は、次の点を指摘している。『睡眠不足は最大限に体を使おうと努力したり、運動能力を発揮しようとしたりすることなど、一般的な運動能力には影響を及ぼさないかもしれない。だが、自律神経系や免疫系、思考能力など、運動に直接関連するさまざまな機能を低下させると考えられる。結果として、運動能力に悪影響を及ぼす可能性がある』」
ようするに、ジュニア年代の子どもたちがプレーのパフォーマンスを上げたい、試合に勝ちたいと思うならば、睡眠は非常に大事だということです。
本来、眠る目的は、「体を休めること」と「脳を休めること」です。しかし、寝る直前までゲームやインターネットの画面を見て、気が高ぶったまま就寝すると、交感神経から副交感神経にうまくスイッチが入れ替わらず、浅い眠りが続き、「質の良い眠りを得ることができない」のです。子どもたちは体が疲れていて寝つきが良いので、十分な睡眠がとれているだろうと思いがちですが、実は脳はまだ休める態勢になっていないままだということです。
特に成長期の子どもたちにとって眠りは大切なことです。眠っている間に、脳はその日に記憶したことを整理し、体では成長ホルモンを分泌して背を伸ばしたりするそうです。質の良い眠りが取れるかどうかで、翌日のサッカーのパフォーマンスにも違いが出ることも考えられます。
そこで、夕食は、少なくとも寝る3時間前にすませることが理想です。例えば、子どもたちは22時に寝るとしたら、18時に食事を始めて19時にはすませるということになります。しかし、大家族で、専業に食事をつくってくれるおばあちゃんやお母さんがいるのが当たり前だった頃とは違い、現代では、18時に食事を始めるのは難しいというご家庭も多いことでしょう。
どんなにがんばっても、20時や21時に食べ終わるという家庭も多いようです。そんな家庭では、夕食はガッツリ食べるのではなく、消化の良い食材を使って、寝るまでにできるだけ消化できるような工夫をしましょう。その分、朝食をしっかりと食べましょう。そうすることで、昼間の活動エネルギーがきちんとチャージされます。
そして、食事だけでなく宿題や勉強なども先にすませ、寝る前はお風呂にゆっくり浸かって、キンキンに緊張していた体や脳をリラックスさせてあげることです。
交感神経が優位な状態だと、血管が収縮して血圧が上がり、心拍が早まっている状態です。そのため、いつでも走り出せますし、危険を感じて急停止するということもできます。それに対して副交感神経が優位な状態では、血管がゆるんで血圧が下がり、心拍も遅くなります。その状態で眠ることで、「質の良い睡眠」が得られるのです。
メラトニンを生成するために、トリプトファンの含まれる食材を摂る
眠りには「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」があります。眠ってから約3時間まではノンレム睡眠という「脳の睡眠」の割合が多いといわれています。ここで「成長ホルモン」がたくさん分泌されるのです。いくら全体で7時間寝ようが、10時間寝ようが、この約3時間にグッスリ眠っていないと、脳の休息が不十分で、質の良い睡眠がとれません。
睡眠の後半はレム睡眠という「体の睡眠」が多いといわれます。ここでは体を休めながら、脳では情報処理や気持ちなどの整理をしたり、学校で勉強してきたことなどを整理するそうです。ですから、質の良い睡眠を得るためのもう一つのポイントとして、ノンレム睡眠をしっかりとることです。
ノンレム睡眠の段階で、しっかり眠れるということは、「成長ホルモン」をたくさん分泌させることができるということです。それには、夜になると副交感神経が優位になって自然に眠くなり、朝になると目覚めて、交感神経にスイッチが入れ替わるという、先ほど紹介した体内時計が深く関わってきます。
メラトニンというホルモンは、夕方から分泌量が増えていく「眠りを誘うホルモン」です。体温や血圧を下げ、脈拍を遅くして、体を眠る態勢に導くと言われています。そして、朝太陽の光を浴びると脳に指令が行き、体内時計がリセットされて、メラトニンの分泌は抑制されて、体温も上がっていきます。このメラトニンの分泌によって眠気が訪れ、深い眠りのノンレム睡眠で「成長ホルモン」が分泌されるのです。
副交感神経を優位にさせる「睡眠を誘うホルモン」のメラトニンは、脳内物質のセロトニンが元になって作られます。セロトニンは「幸せホルモン」と呼ばれるもので、神経を興奮させる「ノルアドレナリン」や快感を増幅させる「ドーパミン」とともに、精神的な部分に深く関係する三大神経伝達物質の1つです。
ストレスや疲労、悲しいことなどがあるとセロトニンの量は減りますが、リラックスしたり嬉しいことがあると増え、さらに幸せな気持ちを増幅させてくれると言われています。そのセロトニンは、必須アミノ酸の「トリプトファン」から生成されます。トリプトファンが不足すると、不眠症や睡眠の質が低下してしまいます。しかし、このトリプトファンは、体内で合成されないため、食物から摂取する必要があります。
【トリプトファンが多く摂れる食品】
肉/魚/乳製品/大豆製品/卵/バナナなど
トリプトファンがセロトニンを生成するためには、ビタミンB6、ナイアシン、マグネシウムなどが必要ですので、それらが含まれる食品もご紹介します。
【ビタミンB6】
青魚(マグロ/カツオ/サンマなど)/牛レバー/鶏のささみ肉/バナナ/玄米/卵/牛乳
【ナイアシン】
青魚(マグロ/カツオ/サンマなど)/牛・豚レバー/鶏のささみ肉/タラコ/ピーナッツ
【マグネシウム】
ナッツ類(ピーナッツ/アーモンド/カシューナッツなど)/大豆/玄米/ホウレン草/ヒジキ
また、できるだけ体を冷やさず、お風呂で温まって寝ることも、深い眠りを得られるコツです。この時、熱い湯につかるのではなく、少しぬるめの湯の方が副交感神経を優位にして、リラックスして眠ることができます。
【プロフィール】
川上えり(管理栄養士)
海外プロサッカー選手の栄養アドバイスや、FCジュニオールの栄養アドバイザー。海外・国内遠征・合宿帯同や、アスリート向けレシピ制作、子育てママ向けのコラム執筆などで活動中。
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