ダノンとチビリンで散見された2つの課題。そもそもビルドアップは「何のために」行うのか?
2019年06月12日
育成/環境
【図3】
余裕あるサイドが判断するときに考えること
SBが守備のファーストラインを超えられる立ち位置を取り、そのときに素早く前に進める体の向きを作って上手に1タッチコントロールでボールを前に進められると、相手は慌てて守備陣形を崩すような対応に迫られる。すると当然、ボール保持者は余裕を持ってその後のプレーをできるはず。それなのに、日本の選手たちはその後のプレーで難しい選択を行う傾向にある。
【サイドで難しい選択をする2つの例】
1.マークがきっちりついているFWにパスを送る
2.いきなりDFの背後を狙ったパスを出す
この2つの難しい選択をした場合に何が起こるのかを、一度想像してほしい。なぜなら、せっかく相手から奪い取ったボールを再びなくす可能性が高いからだ。
例えば、FWにパスを送った場合、守備Cに体をぶつけられるだろう。そこで体勢を保ちながらボールをキープすることは可能だろうか。また、ボールを足下に収められたとして周囲の状況はどうだろうか。守備が何人、どの程度の距離でいるだろうか? 味方のサポートをどのくらい受けられるだろうか? そういう状況を見て、自分がボールを前に進めるために他の選択肢はないだろうかと、練習試合やミニゲーム時に考えさせる機会を与えてほしい。
もうひとつの選択肢としてDFの背後にパスを蹴り出した場合、FWが守備Cと争いながらボールをキープできる確率はどの程度あるだろうか? そこで競争に勝ったとして、その後に何人の守備を相手にすることになるだろうか? そして、どの程度の時間で味方がフォローに来てくれるのだろうか? 守備D、守備Fが守備のフォローに来たとして、ボールをキープしているFWに自分がどのような選択肢を与えることができるだろうか。
先日、元日本代表の岩政大樹さんのトークイベントに参加させていただいた。そのときにプロ経験、また日本代表としての経験を踏まえて“自分で成長できる選手の特徴”に関して次のような話をされていた。有料イベントであったため、一部抜粋であることついては了承いただきたい。
「サッカーは正解がないものに対して考えていかないといけないので、僕は仮説と検証を繰り返していくことが大切だと思っているんです。正解がないので、もしこうだったらこうなるんじゃないかと考えるしかありません。もしかしてこうなんじゃないかという思考が大事です。僕は『ここがこうだったらこうなるかもしれない』というようなことを、ずっと考えていました。A代表に招集されて発見したのは、一緒にいる選手たちが考える力を持っていたことです。彼らは自分なりにどんどん仮説を立てて、どんどん検証していくんです。そして、そういう選手たちの特徴としては、どんどん伸びていったことなんです」
個人的な見解だが、よく「サッカーには正解がない」と言われる。それは個々の考え方によって異なるのではなく、状況によって、プレーしている選手によって解釈の仕方が変わるからだと思っている。私は、それぞれの状況については「机上の空論としての正解はいくつかある」と考えている。そして、そのいくつかの正解へと収束していく考え方が世界に通じるサッカーの共通言語であり、変わらぬセオリーなのでなないかと感じる。
少し脱線したので話をもとに戻すと、サイドで余裕を持った選手がどうすべきかは、やはり状況による。図3では、ボール保持者から見ると、まず守備Dと距離が開いている。さらに、その背後と右斜め前にスペースがある。味方の状態に目を向けると、FWにマークはついているが、CHは1タッチ目のコントロールさえうまくできればプレースペースはある。この状況から得られた情報からあとは個人の能力をプラスする。自分の足が速いとか、CHは状況判断とボール扱いがうまいとか、味方FWより守備Cのほうが当たりが強いとか…。
そして、サッカーにおいて重要なのは、どのプレーを選択したとしても「その後に自分がどういうアクションをすべきか」と常に継続性を持って考えながら動き続けられることだと思う。試合はその場で終わりではない。続いていくものだから、継続性を持ってプレーに関わり続けられる選手をいかに育成するかは、育成指導者にとって必要不可欠な仕事だと実感をもって思う。
※6月の特集第3弾「U14年代も8人制と変わらぬサッカーはなぜ?」は6月19日に公開予定です
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