やればやるほどうまくなるのか? つらい経験をすればするほど強くなるのか? そこに本人の意志はあるのか【サッカー外から学ぶ】
2019年07月04日
育成/環境
個性は出すものじゃなく滲み出てくるもの
最後に、成冨さんの本の中で個人的にもっとも共感することについて聞いた。「才能」とセットで語られることの多い「個性」についてだ。「日本人は没個性」という言説からの反発か、個性的であること、人と違うことを推奨する風潮がある。偏見かもしれないが、“美大生”というと遠目からも独特なオーラを放つ、近寄り難いほど個性的な人を想像しがちだ。
「どの世界でもそうですが、個はもちろん重要ですし、個性って最終的には自分の商品価値だったりアイデンティティになるものだから絶対に磨いていかなければいけないものですよね。でも、個性は無理して出すものじゃないんです。必死でやっていると滲み出ちゃうものが個性。俺の個性はこうだからと意識した時点で相手に程良く伝えることができなくなるんです。人と違うことをやっていれば注目されるとは思いますが、それが必死に表現しているときに滲み出てきたものなのか、意識して演じているのかで意味がまったく違ってくるんです。絵を描く才能や技術、トレーニングについていろいろお話しをしてきましたけど、結局描いている間は個性なんて考えている暇がないんです。個性は芯のところにそもそもあるものだし、嫌でも“出てしまう”もの」
成冨さんの著書にも同じ内容の記述があるのだが、自分が文章を書くことを志した際に師匠から言われた言葉とまったく同じだったことに驚いた。
「消しても消しても出てきてしまうのが個性」
人と違う文章を書こう、それができると思うから書き手になりたいと思っていた当時の自分にとっては、かなりのカルチャーショックだった。
「才能や個性はほかから持ってくることができないし、鍛えることはできても、もともと持っている特性は変わりません。だからとても大切なのですが、そのことを意識しても仕方ない。才能を8つに分解してトレーニングするのも、個性をことさらに強調する必要がないと教えるのも、最終的に才能を伸ばし、個性を育てるためなんです」
絵をうまく描くために、サッカーがうまくなるためには、できるだけ具体的な方法が重要だ。方針と方法論は違う。才能を伸ばすためには才能の正体を掴み、必要な能力を伸ばさなければいけない。個性を育てることは、好きなこと、得意なことを自由気ままにさせることではない。やっぱり何事も「すぐにはうまくならない」のだ。
成冨ミヲリ(なりとみ・みをり)
デザイナー・アニメーター・シンガー。東京藝術大学美術学部工芸科卒。ゲーム会社などを経て2002年に有限会社トライトーンを設立。商業施設の企画デザイン、TVCMのCG制作、アニメDVDの監督など活動は多岐にわたる。プロ向けのデッサンスクール「トライトーン・アートラボ」で講師を務め、主な著書に『絵はすぐに上手くならない デッサン・トレーニングの思考法』などがある。twitter
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